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自分の作品を、静かに読まれる時間の心細さ。自分が書いたものにコメントをもらう、その不安。逆の立場になったとき、自分は、その人の書いた言葉をどう読み、どんな言葉をかけたらよいのだろうか。 「作品には、作品で応えたらいいじゃない」 そういう考えがあるのか、と知った。わたしのよく知る、目の前の人の作品に「応える」ために書いた文章の羅列。
四人の子どもたちは、それぞれの季節に、それぞれの季節の、素朴なふしぎを心に抱く。サンタクロースの正体は? 水平線には何があるの? どうして秋にサクラは咲かないの? 冬眠中は、お腹が空かないの? 小さな不思議に、小さな夢が、「答え」をくれる。子どもの頃に見たそれは、夢か、はたまた現実か。彼らは、いつまで自分が見たものを夢か、現実か、と迷い続けられるのだろう。四人の少年少女たちが経験した思い出の、ささやかな短編。
記録によれば、裏山の桜は、二百年前にはすでに枯れていて、緑の広葉樹が広がる山の中腹、花を咲かせることはおろか、葉をつけることさえもないーーー とある村、不吉と言われ、誰も辿り着くことのできない桜の木の伐採計画の中途、一人の男が行方不明となる。妻と息子を失った男は、どこへ行ってしまったのか。桜の木に辿り着いた少年は、その真実を知ることになる。
中学2年生となった少年と、久しぶりに少しだけ話をした。彼が言った。 「人権作文、あれ本当に意味ない」 自分の置かれた立場をひとまず置いて、概ね、彼の言葉に同意しよ…
前話 Latter1「行方不明者」 もうそろそろ、1時間目の始まるころかな。朝ごはんも食べなかった。体内時計は狂ってた。 ソウシは、トヨマルの墓を掘りながら、初めてこい…
よくよく考えたら、「主人公」なんていつも一人で、ほとんどの人は、フツーの人なんだよね。自分が「主人公」になれない方がよっぽどフツーで。だから、わたしはフツーでい…
元々、少し年の離れた「友人」に頼まれて、一本の随筆を書いていた。あわよくば、国語の授業に使えないかと、二週間ほど考えた。 そうして、二週間かけて書いた文章は、一…
「授業規律」と呼ばれるものがある。授業中に発言をするときは、手を挙げてから発言しなくてはいけない。先生が話しているときは、手を動かさずに、先生の方を見ながら話を…
四季野はら公園の遊歩道は、桜の並木道で、ばあちゃんといっしょに歩いていたときに、こんなことを聞いた。 「ねえねえ、どうしてさくらは秋に咲かないの?」 「ややあ!!…
「みかんが3こ、りんごが4こ あります。くだものは、あわせて なんこありますか」 こんな感じの問題文だったと思う。 「みかんが3こ、りんごが4こ!」 とある小学1年生の女…
普段、あまり話したことのなかった少年が、ノートに描いた一枚の絵を持ってきた。クジャクヤママユと、手のデッサンだった。上手だなあ、と思った。 きっと、もっと上手な…
部活。校舎の外周を走るトレーニングは、定番の練習だ。自分が中学生だったころ、運動部はみんな走らされた。自分の意思で、走ったわけじゃない。まさしく、「走らされた」…
夏の匂いはうだって、彼方、水平線から吹く潮風は、海沿いの家の蛇口を錆びつかせている。テトラポッドの上に座る女の子は、独りぼっちになったサワガニを右手の指に乗せた…
<選んだ故事成語> 杜撰 <選んだ故事成語の由来・意味> 宋の国の杜黙の撰する(作る)詩は、定型詩としての厳格な規則に合っていなかったことから、誤りが多いこと。ま…
ちょうど3年前の話になる。 受話器の向こうのあいつは、その日、6日前に13歳になった。 俺が電話をかけると、あいさつもそこそこに、「悲しいお知らせがあります」とあいつ…
次話 Latter2「亡霊を追って」 記録によれば、裏山の桜は、二百年前にはすでに枯れていて、緑の広葉樹が広がる山の中腹、花を咲かせることはおろか、葉をつけることさえ…
とある日の朝、やや遅刻気味で1年E組の教室へ行くと、やけに騒がしい。ぼくがチャイムギリギリだったかどうかなんて、誰も気にならないくらい、みんな、ベランダに出る窓に…
昭和生まれのおっさんは、ケツポケットに小銭と札を裸で入れて持ち歩くんだと思ってた。 じいちゃんがそうだったし、師匠もそうだったから。と言っても、じいちゃんと師匠…
2024年5月18日 17:39
中学2年生となった少年と、久しぶりに少しだけ話をした。彼が言った。「人権作文、あれ本当に意味ない」自分の置かれた立場をひとまず置いて、概ね、彼の言葉に同意しようと思う。「人権」について何かを語るには、教える側も、教わる側も、あまりに多くのことを知らないのだと思う。「人権」という社会問題に、身近なことだけをもって何かを書くことの危うさは、常にある。定められた締め切りのために、字数制限をこえた、形
2024年5月3日 20:58
前話 Latter1「行方不明者」もうそろそろ、1時間目の始まるころかな。朝ごはんも食べなかった。体内時計は狂ってた。ソウシは、トヨマルの墓を掘りながら、初めてこいつを拾った日のことを思い出した。その日、この木の下に、この野良猫は、ちょこんと座った。ソウシは、自分と同じ黒い目をした猫と、しばし向き合った。あくびをするように、にゃあと小さく鳴くと、ソウシは、目を合わせたまま、静かに縁側に座った
2024年4月13日 22:17
よくよく考えたら、「主人公」なんていつも一人で、ほとんどの人は、フツーの人なんだよね。自分が「主人公」になれない方がよっぽどフツーで。だから、わたしはフツーでいいんだよ。フツーを目指そう。それが、フツー。よし、フツーで行こう。さて、わたくし、トウトは、中学一年生とあいなりまして、「中学デビュー」を果たそうと考えております。(ガッツポーズをする。)ワーワー!!ヒューヒュー!!イェーイ
2024年3月21日 19:40
元々、少し年の離れた「友人」に頼まれて、一本の随筆を書いていた。あわよくば、国語の授業に使えないかと、二週間ほど考えた。そうして、二週間かけて書いた文章は、一文字も残らなかった。改めてこれを書きはじめた日、自分とは、何ら関わりのない小学六年生の卒業式を見たことがきっかけだった。六年間の思い出を語る小学生。その思い出は、「六年間」という時間を語っているようでいて、実は、そうではない。「初めての
2024年3月16日 22:46
元々、少し年の離れた「友人」に頼まれて、一本の随筆を書いていた。あわよくば、国語の授業に使えないかと、二週間ほど考えた。そうして、二週間かけて書いた文章は、一文字も残らなかった。改めてこれを書きはじめた日、自分とは、何ら関わりのない小学校六年生の卒業式を見たことがきっかけだった。六年間の思い出を語る小学生。その思い出は、「六年間」という時間を語っているようでいて、実は、そうではない。「初めて
2024年2月29日 08:46
「授業規律」と呼ばれるものがある。授業中に発言をするときは、手を挙げてから発言しなくてはいけない。先生が話しているときは、手を動かさずに、先生の方を見ながら話を聞かなくてはいけない。チャイムが鳴る1分前には、次の授業の準備をして、席に座っていなくてはいけない。そういうルールのことを呼ぶ。子どもだったころは、よく思ったものだった。なんでたった一言喋るために、わざわざ挙手などしなくてはならないのか。
2024年2月24日 22:09
四季野はら公園の遊歩道は、桜の並木道で、ばあちゃんといっしょに歩いていたときに、こんなことを聞いた。「ねえねえ、どうしてさくらは秋に咲かないの?」「ややあ!!! そんなことないねえ。秋にも桜は咲くんだよ。だって、ばあちゃんは、何度も見たことあるもの」「えー、ぼくは見たことないよ」「いやいや!!! 秋にも桜は咲くんだよ。だって、ばあちゃんは、何度も見たことあるもの」家に帰るまで、16回この
2024年2月22日 12:15
「みかんが3こ、りんごが4こ あります。くだものは、あわせて なんこありますか」こんな感じの問題文だったと思う。「みかんが3こ、りんごが4こ!」とある小学1年生の女の子は、嬉しそうにこう答えた。発明王エジソンは、幼い頃、学校の先生に「1+1は、どうして2になるのか」質問をした。先生が、「1個の粘土と、1個の粘土があったら、粘土は2個あるでしょ」と答えたところ、「1個の粘土と、1個の粘土を
2024年2月22日 11:53
普段、あまり話したことのなかった少年が、ノートに描いた一枚の絵を持ってきた。クジャクヤママユと、手のデッサンだった。上手だなあ、と思った。きっと、もっと上手な人が描けば、いくらでももっと上手なデッサンを見ることはできるんだろうと思う。ただ、上手いとか、下手とか、そういうことじゃない。「少年の日の思い出」という一編の小説を授業で読んで、彼が絵を描いたこと、それを見せに来てくれたことが嬉しかった。彼
2024年2月22日 11:39
部活。校舎の外周を走るトレーニングは、定番の練習だ。自分が中学生だったころ、運動部はみんな走らされた。自分の意思で、走ったわけじゃない。まさしく、「走らされた」のだった。楽しくバドミントンをしたいだけの自分にとっては、「ガチ」の人たちだけが、一生懸命やる時間だった。勤めているこの学校は、1周何メートルくらいなのだろう。暇なときは生徒に混ざって走る。個人的には、1周でギブアップしたいところではあ
2023年12月28日 21:25
夏の匂いはうだって、彼方、水平線から吹く潮風は、海沿いの家の蛇口を錆びつかせている。テトラポッドの上に座る女の子は、独りぼっちになったサワガニを右手の指に乗せた。てくてくと歩くカニの足がくすぐったくて、ちょっと笑うとえくぼができる。退屈で、暑い……。カニを岩場に戻してあげると、女の子は立ち上がった。カニは、テトラポッドの隙間に消えた。蛇口に吹き付けていた風は、翻って、水色のワンピースをはためか
2023年11月27日 23:25
<選んだ故事成語>杜撰<選んだ故事成語の由来・意味>宋の国の杜黙の撰する(作る)詩は、定型詩としての厳格な規則に合っていなかったことから、誤りが多いこと。また物事の粗雑なこと。<物語>杜撰な人だった。大会の出場登録は忘れるし、帯は注文し忘れるし、事務から出禁くらうし。まだ、中二だったユウタは、川越駅に着くと、師匠と二人で西口を出た。「かばん、持ちますか」「別にいいよ」ユウタ
2023年11月25日 16:12
ちょうど3年前の話になる。受話器の向こうのあいつは、その日、6日前に13歳になった。俺が電話をかけると、あいさつもそこそこに、「悲しいお知らせがあります」とあいつの方から言ってきた。「誕生日パーティ、なかった。プレゼントもケーキも」そりゃ不運だったな、と笑ってやった。しょうがないから、桃太郎を話してやることにした。「聞きたいか?」「別に聞きたくない」断られたが、話し始めた。緑の公衆
2023年10月22日 18:19
次話 Latter2「亡霊を追って」記録によれば、裏山の桜は、二百年前にはすでに枯れていて、緑の広葉樹が広がる山の中腹、花を咲かせることはおろか、葉をつけることさえもない。あの巨大な桜の枯れ木は、そこだけ山が死んだかのように、ぽっかりとした穴となって佇む。村の人間たちは、朽ちることもなく「生き続ける」枯れ木を不吉だとして、その桜を切り倒す計画を立てた。「お前も行くか」ヨウエイに突然声をか
2023年10月19日 21:01
とある日の朝、やや遅刻気味で1年E組の教室へ行くと、やけに騒がしい。ぼくがチャイムギリギリだったかどうかなんて、誰も気にならないくらい、みんな、ベランダに出る窓にうじゃうじゃと群がり、何かに夢中になっている。「何かあったの?」と、聞くと、「でかい虫がいるんだよ」と、クラスメイトの男子が答える。それこそ虫のように、人の群がる窓を覗くと、窓の外側、ちょうど鍵の高さのところに巨大な蛾が止まって
2023年10月15日 17:51
昭和生まれのおっさんは、ケツポケットに小銭と札を裸で入れて持ち歩くんだと思ってた。じいちゃんがそうだったし、師匠もそうだったから。と言っても、じいちゃんと師匠の他に、ケツのポケットに金を持ち歩く人を見たことはなかったけど。4代目の道場長が亡くなる前、ユウタが中学生のときだった冬、中1か中2のときだった。道場の前に、まだ、赤い自販機があって、お茶もスポドリも、コーラもコーヒーも、一律100円