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エレーナ少佐のサドガシマ作戦(17)迎撃作戦Ⅸ、白兵戦3、私が撃つのよ!このど畜生どもめが!

 過去アップした「エレーナ少佐のサドガシマ作戦」は、「エレーナ少佐のサドガシマ作戦、時系列」「マガジン『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』」こちらからどうぞ。

 時間があいちゃいました。1週間以上経ってしまって、みなさん、お忘れでしょうが、本筋のサドガシマ作戦でございます。こっちにオキナワ作戦の伏線がたくさんありまして、書いている本人がどの伏線がどれだかわからなくなってきましたが、お許しください。

 広瀬二尉、ソーニャ准尉、カテリーナ伍長も出てます。

 しかし、私にとってはここは重要。

 なにせ、北朝鮮とは比べ物にならない中国人民解放軍の石垣島上陸「イシガキジマ作戦」の前哨戦、小型版なんですから。
★アニータ少尉のオキナワ作戦(10)、中国人民解放軍、石垣島・南西諸島侵攻作戦

エレーナ少佐のサドガシマ作戦(17)迎撃作戦Ⅸ、白兵戦3、私が撃つのよ!

前回の話(17)Ⅷ
次回の話(17)Ⅹ

エレーナ少佐のサドガシマ作戦(17)迎撃作戦Ⅷ、★戦闘、佐渡二見町(前回までのお話)

「エレーナ少佐、大尉と少尉の隊にこちらも合流します」とスヴェトラーナ。「了解!陸自と連携を取る!ヒロシ!」

「広瀬二尉、ロシア軍は北の奴らのケツから押していくぞ!」「鈴木三佐、こっちも装甲車で機銃攻撃します。ロシア軍に距離を開けろと指示願います」「了解!二見町の集落に入り込まれたら、戸地川沿いにレーダーサイトが襲撃されるぞ!食い止めろ!」「わかりました!」

「エレーナ、聞いたか?」「スヴェトラーナ、陸自が機銃掃射するぞ!距離、開けろ!ミーシャ、アニー、隊を後ろに下げろ!」「ラジャ!」・・・中央突破だったり、後退しろだったり、忙しいわね、とアニーは思った。臨機応変だわよね?

「おっと!エレーナ、あいつら、半数のホバークラフトが沖に出たぞ!戸地川右岸の山向うの大山祗神社方面に回り込むかもしれんぞ!」

「そっちは狙撃隊しか配置していないわ!マズイ!スヴェトラーナ、前進中止!佐渡一周線のトンネルの向こうにもホバーが行ったぞ!」

 スヴェトラーナがアニータに叫ぶ。「アニータ、トンネルの向こうだ!ホバーが別れた!狙撃手を分散させろ!トンネルの山の上に配置しろ!大山祗神社方面に上陸される!こっちはトンネル出口を固める!」「了解!二分隊に分けて、配置開始!」

「鈴木!エレーナ!こちら、レーダーサイト、レールガンの南禅!」


★レールガン、レーダーサイト、午前6時

 羽生二佐がレールガンの望遠テレスコープで佐渡ヶ島北岸を監視した。「やっと日の出だよ。お~、寒い!」「気温、5℃だもんな」「ま、零下じゃないから・・・おい、南禅、北岸が丸見えだぞ。やっぱりこの金北山、標高千メートルだけあって、絶好の位置だぞ」

「私にも見せて。お!北朝鮮軍の配置がよくわかる。二見町の集落の手前に展開している。ロシア軍は背面から接近している。奴ら、自衛隊の水陸機動団の左手から回り込む作戦か」

「相川町の方も見てみろ。左方向だ」「う~ん、こっちは大佐渡スカイラインを妙見山付近を通って金北山まで登ってくるつもりか?二方面作戦だな。相川町には水陸機動団とロシア軍の別分隊が対峙している。二見町の方が侵攻距離は短い。おっと、二見町方面!あそこを突破されて市街地に入られると、山の稜線沿いに、戸地川を遡って、レーダーサイトに侵攻されちまう。あ!奴らのホバーが上陸した。前衛の横から突っ込まれるわよ!」「出番だぞ、南禅!彼らに連絡しろ!」

「あいよ・・・鈴木!エレーナ!こちら、サイトの南禅!」「南禅二佐!」「レールガン、使うぞ!ホバーをぶっ飛ばす!」「思いっきりやって下さい!」

「よし、軽量の方の炸裂弾を砲弾に使おう。HGVに使用した砲弾だと周辺全部吹っ飛んじまうからな・・・装填・・・完了、南禅、水陸機動団とロシア軍の鈴木、エレーナに言ってくれ!この距離だと、初速のマッハ12のままで当たっちまう。鼓膜が破れるぞ」

「わかった。広瀬、鈴木、エレーナ、聞こえるか?」「受信状態良し」「こちら、金北山のレールガン、これから、北のホバーをレールガンでぶっ飛ばす。単射する。砲弾は初速のマッハ12のままだ。鼓膜が破れるぞ。北の部隊から距離を取れ・・・よし、合図するから、その時は耳をふさげよ」「了解!」「ラジャ!」

「よし、部隊後退、完了だ。エネルギー充填120%・・・」「おい、羽生、古代進はもういい」「チェッ!よし、初弾撃つぞ」「全員、耳をふさげ!」「発射!」

 マッハ12で発射された砲弾は減速することなく、ホバークラフトに命中した。マッハ7.3、秒速2,500メートルを超えると、命中した金属構造物は気化してしまう。炸裂弾なので貫通せず、標的は爆裂してしまう。
 
 ホバークラフトのあった当たりに小さなきのこ雲が立ち上り、数秒おいて、ドーンという爆発音が聞こえてきた。
 
「こりゃあ!弾道ミサイル用の兵器を通常戦闘に使うのは反則だな!ひでえ!」「仕方ないじゃない、ちょうどいい兵器はこれしかないんだから・・・羽生、あのさ、このレールガン、照準器のターゲットスコープとかトリガーって、宇宙戦艦ヤマトのレプリカ?」「バレた?・・・」「このターゲットスコープ、意味なくね?まったく官費を無駄に使いやがって!」「いいじゃん、このくらい・・・」
中国海軍の「レールガン」は軍事バランスを変えるか

「よし!続けていくぞ!・・・二見町部隊、次弾、発射するぞ!・・・次、標準よし・・・お次だ・・・6台、ぶっ飛ばした・・・あとは、クソ!田んぼの有る台地の背後に隠れていて撃てんぞ!・・・二見町部隊、残りは任せた!」

「南禅二佐!羽生二佐!」と鈴木三佐から連絡があった。「半数のホバークラフトが沖に出ました!戸地川右岸の山向うの大山祗神社方面に回り込むかもしれません!そっちは狙撃隊しか配置していおりません!」

「鈴木!弾道弾ミサイル用のレールガンだ!標準捕捉が遅い!狙撃銃じゃないんで、追従しきれないんだ!それに、海岸に近接すると、田んぼの有る台地の崖の影に隠れっちまって、標準出来ない!できるだけぶっ飛ばすが、残りは頼んだぞ!」「了解!」

 南禅が羽生の肩をポンポン叩く。「羽生、対弾道ミサイル、対空、対艦用だぜ、これは。こうも左へ右へ、狙撃銃みたいに砲身を回して撃てるもんじゃない」「こういう近接戦用に砲身のベアリングとモーター、ギアボックスを改良しないとイカンなあ」「こんな近接戦でレールガンを使うなんて機会はもうないよ」

「ま、追従性を良くするようにしておこう。それから、10~15MWなんて大出力は弾道弾ミサイル、滑空ミサイル、対艦ならいいが、対空、近接戦用なら50~500キロワットでいいな。それなら海自の護衛艦の発電機でも十分だ。小型版も作らせよう」

 結局、大山祗神社方面のホバーは、5隻しか当てられなかった。10隻を撃ち漏らした。海岸に近接されて、田んぼの有る台地の崖の影に隠れられたからだ。

「鈴木!これ以上はホバーが見えない!ダメだ!水陸機動団側のホバー残数9隻、大山祗神社方面のホバー残数10隻だ!あとは頼む!こちらは、相川町方面のホバーを潰す!」「了解!」

「よし、相川町も苦戦しているようだな。南禅、連絡を頼む!」「了解!」

 結局、相川町方面のホバー30隻の内、9隻しか潰せなかった。相川町のホバー残数は21隻となった。

★敵中突破

「ソーニャ准尉、ソーニャ准尉はいないか?」とエレーナが叫ぶ。駐車場の端から彼女が少佐に駆け寄った。「ハ!ソーニャ、まいりました!」
 
「いいか、准尉、ここも危ない。貴官は、これより藤田さん、卜井さん、佐々木さんと一緒にタイフーンL三台で相川町まで行け」

 ソーニャの後ろから卜井たちも駆け寄ってきた。「少佐、私たち、相川町まで行くんですか?」と卜井。「いえ、あなた方は市内まで退避です。かなりここは危ない。ソーニャに送らせます。我が軍、水陸機動軍にも相当数死傷者が出ています。途中、タイフーン三台でできるだけ重症者を拾い、相川町の野戦病院や道中の病院、両津港の佐渡市立両津病院に重症者を後送させます」「そうですね。機関銃音も間近に聞こえます。足手まといになりますからね。了解いたしました!」

「じゃあ、准尉、佐渡一周線の道路上は交戦地帯だ。道路の上の台地の田んぼ沿いの農道を進むんだ。姫津漁港には広瀬二尉の水陸機動団がいる。佐渡一周線脇の胎蔵寺に本営がある。姫津漁港からは佐渡一周線でしばらく行けるだろう。相川町も北の上陸でかなりやられている。相川町の佐渡市役所相川支所に水陸機動団とウラジミール中佐の隊がいるから、そこでルートを確認しろ。それから、大佐渡スカイラインには行かず、佐渡一周線を通って市内に行き、両津港の佐渡市立両津病院まで行くんだ」
「了解であります!」
「タイフーンLは運転手1、機銃手1、衛生兵2で行け!おまえの機銃手はカテリーナ伍長がいいだろう。残りの人選は任せる。引っこ抜く人員の名前をスヴェトラーナ准尉に伝えておけ」
「ラジャ!ソーニャ、出撃します!」

 ソーニャは卜井たちをけしたてて、タイフーンLに乗り込ませた。「カテリーナ伍長!衛生兵!準備はいいか?カテリーナ、PKP(カラシニコフ機関銃)を用意しろ!弾倉ボックスはたっぷり持っていけよ。撃ちまくるかもしれないぞ!」「了解です!」「我々が先導する。後の二台は追ってくるように!」
 
「カテリーナ、キミは前部座席のルーフハッチを開けて、PKPで前方、側方を狙え!」とソーニャ。「ラジャ!」「卜井さん、皆さんは床に腹ばいになって!」

「ちょっ、ちょっと、伍長!私、ナビ席で撮影しても邪魔じゃないよね?脚を保持してあげるから!」と佐々木。「佐々木さん、危ないって!ダメだって!」とカテリーナ。「防弾ガラスでしょ?これ?」「重機関銃弾には効果ありません!」とソーニャ。

「いいわよ!死んでも恨まないから!こんな機会、一生に一度!ピューリッツァー賞ものよ!頼むわ!ナビ席にいさせて!」と佐々木。「死んでも知りませんからね!」とソーニャ。「処女なくしたんだもん!思い残すことはないわ!」「ハァ?」「・・・こっちの話・・・」

 おいおい、佐々木、火事場のクソ力か?処女なくして頭ぶっ飛んだか?と後部キャビンの床に伏せながら卜井は思った。ま、カメラウーマンは佐々木だから、仕方ない・・・

「二号車、三号車、重症者が見つかったら、三号車から順次乗せていく。前方はこちらのPKPで掃射する。キミらは側方、後方を援護しろ!」とソーニャがヘルメットのマイクに怒鳴る。「ラジャ!」

 ソーニャは本営のレストラン駐車場を出て、佐渡一周線手前の小道に左折した。蛇行を繰り返して、崖の上の農道に出た。整然とした冬の田んぼが広がっている。しばらく崖下の佐渡一周線と平行に走り、丘を突っ切って、次の台地の農道に着いた。すると正面から、姫津漁港から迂回してきた北朝鮮のバイク隊20台ほどが向かってきた。
 
「この野郎!通してなるか!カテリーナ!」とソーニャが上部ハッチから頭を出してPKPを構えているカテリーナに声をかけた。「准尉、任せて!」とカテリーナがダッダッダッ、ダッダッダッとセミオートでバイク隊をないでいく。二号車、三号車も伍長の撃ち漏らしたバイクを撃ち倒していく。

 田んぼを突っ切り、下り坂を佐渡一周線へのT字路に向かう。T字路で左折しようとした。二見町の方からアデルマン大尉とアナスタシア少尉、他10名が北朝鮮のバイクに乗ってやってきた。

 北のバイクは彼女らが鹵獲したものだ。「お!ソーニャ准尉!どこに行くんだ?」とアニー。「ハ!少尉!少佐から卜井さんたちと重症者の市内への後送を司令されました!相川町を通っていきます!」とソーニャ。
 
「ソーニャ、胎蔵寺の水陸機動団本営に重症者がいる。胎蔵寺に寄ろう」とアデルマン。胎蔵寺で、広瀬二尉と話し、後送する人選をした。かなりの重症だが、輸血パックもない。ここからは水陸機動団のトラック二台もついてくることになった。

「ソーニャ、ここから相川まで、北の兵士と装甲車が点在している。アニー、キミが相川まで護衛してやれ!鹵獲したバイク隊を5台、連れて行け!私は少佐の隊と広瀬二尉の隊の間の北を分断する!相川火力発電所まで行けば安心だ。こっちの部隊が警護している。そこまで行ったら戻ってきてくれ」「了解!大尉、みんなやっちゃわないで、少しは私の分を残しておいてよ!」「アニーが帰ってくる頃には私が皆殺しにしておく!」「ま、いいや。大尉、気をつけて」「そっちこそ、警護頼んだぞ!」

「ソーニャ!巡航速度60キロだ!カーブでも速度落とすな!屍体でもなんでも踏み潰せ!行くぞ!」「ラジャ!」

 相川町に行く間は敵の姿もない。北のホバーも岩場の海岸線には接岸できていないようだった。しかし、相川町に近づくにつれ、敵の姿が見えるようになった。敵は一切無視して突き進む。

 佐渡市立相川病院は、レーダーサイトにつながる大佐渡スカイラインの脇にあるので、重症者をおろすのは無理だ。

 佐渡一周線沿いをそのまま進む。相川体育館を右目に見て、佐渡市役所相川支所に寄る。ここは水陸機動団とロシア軍が本営としている。ここでも市内に後送する重症者を乗せた。
 
 一号車から三号車まで満杯になった。後部キャビンは血で床がヌルヌルする。卜井も藤田も衛生兵を手伝って、止血をしたり、動脈からの出血を指で抑えたりした。「卜井さん、私も手伝います!」と佐々木。「佐々木は来るな!撮影してろ!こっちは足の踏み場もない!佐々木が来ても立つ場所もない!」と藤田。

 伍長くらいの年齢のティーンの女性兵士の頸動脈からの出血を手で止めていて、衛生兵の順番を卜井は待つ。血が抑えきれない。彼女の顔にも血しぶきがかかる。

★畜生!なんなんだよ!話し合いとかで戦争は止められるんじゃなかったのかよ?

 畜生!なんなんだよ!話し合いとかで戦争は止められるんじゃなかったのかよ?国連ってなんのためにあるんだよ!ここはウクライナになっちまったのか?バカ野郎!おまけにこの子は日本人じゃないんだぞ!クソッタレが!お花畑共!
 
「佐々木!こっちも撮るんだぞ!この光景を目に焼き付けろ!日本人の目を覚まさせてやるんだ!」と卜井は佐々木に怒鳴った。「わ、わかった・・・」

 衛生兵が卜井が見ていた子の脈をとって、「卜井さん、この子、もうダメです。死んでます。こっちをお願いします」と死んだ子の右の自衛隊員を指差す。卜井は泣きながら自衛隊員の包帯を巻く。右膝から下がなかった。きつく止血しているのだが血が止まらない。藤田も似たようなことを狭い車内でしていた。

 春日崎の手前で北の装甲車が現れた。相川町を避けて、鹿伏漁港から上陸した北の一隊がいたようだ。タイフーンLの正面、500メートル辺りの海岸から道路に乗り上げてきた。並走していたアナスタシア少尉が「こいつは任せろ!」と言って、加速して突っ込んでいく。他の5台も後を追った。
 
 少尉は、PKPを連射して、すれ違いざま、グレネードを装甲車に浴びせた。他の五人も装甲車を攻撃した。装甲車の機銃弾がカテリーナの上腕部をかすめた。機銃弾の衝撃波の威力で、カテリーナの上腕が裂ける。彼女は前部座席に崩れ落ちた。
 
 佐々木があわてて、伍長を抱え、「卜井さん!カテリーナが撃たれた!手当して!」と後ろに送り込む。ソーニャは左右に車輌を蛇行させて銃撃を回避させている。佐々木は上を見上げた。PKPはそのままだ。「准尉!引き金を引けば撃てるんでしょ?これ?」と佐々木。「佐々木さん!何をするの!」とソーニャ。

★「私が撃つのよ!」


私が撃つのよ!」佐々木が吠えた!「ダメ、佐々木さん!ルーフから頭を出しちゃダメ!」

ソーニャ准尉、私が奴らを撃ってやる!このど畜生どもめが!

 装甲車の機銃手が少尉の後ろのバイクを撃った。アナスタシアがスライディングバックターンをして、そのバイクに駆け寄った。機銃手はアナスタシアも銃撃した。くそったれめが!

 佐々木は夢中で引き金を引き続けた。偶然にも装甲車の強化プレキシグラスに佐々木の弾丸が続けて命中した。弾丸は運転手の顔を粉砕した。装甲車は横転し、海岸に横滑りで落ちていく。ソーニャ准尉が停車した。
 
 助手席から佐々木がとび降りる。アナスタシアに駆け寄ると小柄な彼女を抱き上げて、車に駆け戻り、タイフーンの後部ドアを蹴りまくる。

「開けて!さっさと開けろ!アニーが死んじゃう!アニーが死んじゃう!」

 衛生兵ももう一人のバイクの兵士を抱えてきた。後部ドアが開き、佐々木がアニーを車内に運び入れる。衛生兵も車内に入った。佐々木は助手席に飛び乗った。

「卜井さん、お願い!アニーをみて!」と後部を振り返って叫んだ。「准尉、准尉、ソーニャ、急いで!急ぐのよ!」

「よし、行くぞ!」とソーニャはアクセルを踏み込んだ。

★佐渡市立両津病院

 映画や小説では、華々しい戦闘場面ばかりが喧伝される。しかし、近代的な軍隊(中露はどうか知らないが)は、死傷者の処置はおろそかにしない。屍体が転がっているとか、重症者が前線から後送されないとか、軽症者が前線で手当を受けられないなどない。
 
 軍事行動を計画する場合、死傷者(重軽傷者を含)の数を想定して、それに対処できる医療スタッフ、医療設備、野戦病院の設置を計画する。
 
 ところが、このサドガシマ作戦の北朝鮮上陸に際して、その計画はすべて狂った。陸自水陸機動団の場合、千名中約三百名、東ロシア共和国のエレーナ部隊(女子部隊)千名中約二百名、男子部隊千名中三百名が、死亡・重軽傷を負った。
 
 ソーニャの率いるタイフーンL三台と水陸機動団のトラック二台の計五台は、佐渡一周線を二見漁港、相川火力発電所の方まで大回りして、市内に入り病院を探した。まずは佐渡ヶ島の中央部にある佐渡総合病院。一般病床は350床。
 
 しかし、サドガシマ作戦が発生して、島民が退避してからまだ数日経過しただけで、医療スタッフはあまり帰ってきていない。中程度、または軽症の兵士はここで降ろした。残りは、規模は小さく病床数99床だが、両津港の大型揚陸艦ペレスヴェート、オスリャービャの停泊場所に近い佐渡市立両津病院を使うしかなかった。
 
 日本人医療スタッフはもちろん不足しているが、手術室などの設備を使えれば、ペレスヴェート、オスリャービャの医療スタッフも援助して、重症者の対処も可能という体制が取られた。
 
 佐渡総合病院で中軽症者を降ろし、水陸機動団のトラック二台は前線に戻して、さらなる死傷者の収集にあたらせた。タイフーンL三台は重症者を乗せて、猛スピードで佐渡市立両津病院に向かう。
 
 ソーニャは、佐渡縦貫350号線を120キロで飛ばして、両津港正面の両津夷の交差点手前をを左折、佐渡市立両津病院に滑り込む。すでに、日本人スタッフ、ロシア人スタッフが待ち構えていて、ストレッチャーで救急治療室、手術室に患者を運び込んだ。途中で自衛隊分屯基地にいる取材クルーの一部も藤田が呼んであり、撮影をしている。
 
 カテリーナ伍長の傷はたいしたことはない。近接して通過した機銃弾で上腕部の皮膚と筋肉が多少裂かれた程度である。もちろん、軍人の大したことがない程度ではある。消毒し、包帯を巻いただけで、作業に参加している。
 
 ソーニャ准尉は、ロシア人軍医と相談、アナスタシア少尉を手術室に運ばせた。意識はない。部下をかばって脇腹を撃たれている。出血が激しい。貫通銃創で弾丸は体内には残っていないようだが、軍医は難しい顔をしていた。
 
 卜井たちの立っている方にソーニャが戻ってきた。卜井たちは、防弾チョッキを車内で脱ぎ捨てていて、ロシア軍の制服姿だ。車内で衛生兵を手伝っていたので、三人とも血みどろの姿だ。佐々木の長い髪に血がべっとりへばりついている。卜井も藤田も動脈からの失血を浴びて、顔が赤い迷彩のようになっている。
 
 ソーニャが「エレーナ少佐は、『どうせ、こんな作戦、中国の台湾侵攻のお付き合いの陽動作戦なんだから、二週間ほど空自設備を占拠して、一滴も血を流さず、誰も死なず、ロシアに帰るんだ、結婚して残りたいやつは別にして』って言っていたのに、なんで、なんで、こんなことになるんでしょう・・・北朝鮮のくそったれども!」と緊張が溶けたのか、両手で顔を覆って泣き出した。カテリーナが彼女の肩を抱く。「・・・ごめんなさい。取り乱しました。卜井さんたちは大丈夫ですか?お怪我はありませんでしょうか?」
 
「なんともないわ。車内で治療を手伝っていただけだもの。佐々木はほっぺたに擦り傷ついているけどさ。まったく、ビックリしちゃうよ。機銃掃射をするなんて。ま、それで助かったのかもしれないけどさ・・・藤田、あれって、銃刀法違反なの?」「戦場でのああいう行動は法規適用が難しいだろ?正当防衛行為だよ」「そうよね」

 カメラをカチャカチャいじっていた佐々木が「あ!卜井さん、藤田さん、このカメラ、スタビライザーを付けていたんで、画面の隅ですが、機銃掃射と敵の車輌の横転の場面、映ってます!」と言った。「おい、まさか!それ、クルーに渡して!編集させよう!」
 
「あの、卜井さん」とソーニャ。「シャワーが使えるそうです。着替えはペレスヴェートから衣料品を持ってこさせてありますので、シャワーを浴びて着替えてはいかがでしょうか?」と聞いた。

「ソーニャ、ありがとう。でも、このままでいいわ。このままで、編集が終わったら、この様子を録画するわ。それを東京に送りつけてやれ!」

「え?また?」と藤田。※★戦闘、佐渡二見町から卜井の中継 「もう、首でもなんでもいい!流すか、流さないか、局長が判断すればいいじゃん!藤田、佐々木、二人共覚悟するのよ!もう、三人は一心同体よ!」と怒鳴る。

 一心同体に反応して、佐々木は頬を赤らめる。え~、こんな時に不謹慎だけど、今晩も?と思った。藤田は何を佐々木ちゃんは身をよじっているんだろう?と不審に思った。

 ソーニャが「では、卜井さんたち、私たちは二見町に戻ります。まだ、死傷者が出る様子。少佐に死傷者の搬送任務を命じられましたので。また、死傷者を運んで戻ってくると思います。みなさんは、ここなら安心でしょうが、十分お気をつけて!では!」と敬礼して、タイフーンで去ってしまった。卜井たちも敬礼をして見送った。
 
 すごいなあ、軍人というのはああいうものなんだ。あれで私より10才以上年下なんだから。カテリーナなんて18才よ!だけど、今日は私だって、相手を倒したんだもん。ちょっとスカッとした、と佐々木は思った。

 血みどろの姿で卜井は録画を始めた。
 
・・・現在までに判明しているだけで、陸自水陸機動団千名の内、三百名以上が死傷しました。東ロシア共和国軍は、二千名の内、女性兵士二百名、男性兵士三百名以上が死傷しております」

 死亡した人数はまだわかっておりません。幸いなことに民間人の死傷者はおりません・・・私は、死傷者を搬送するロシア軍の装甲車輌に同乗しておりました。人手も足りず、治療を手伝っておりました・・・

 ロシアの女の子・・・まだ、ティーンの女の子だったでしょう。名前もまだわかりませんが、その子の頸動脈から血が吹き出ていて、私は、と自分の右手の親指と人差指を擦り合わせてジッと見た。

「この指で彼女の動脈を抑えてやるしかできませんでした。彼女は失血して亡くなりました・・・ここ佐渡で何が起こっているのか、みなさんには知っていただきたい。自衛隊隊員のみならず、祖国でもないここ日本で、北朝鮮の武力による現状の変更を命を賭して闘っている外国人もいるということを。今でも戦闘は続いております・・・」卜井は死んだ女の子を思い出して泣き出してしまう。

失礼しました。・・・よろしいでしょうか?今、ウクライナで起こっていることが、ここ日本でも起こってしまったということを」

 これは・・・これは・・・相手が話し合いなどという甘っちょろい土俵に乗ってくるという期待をしてはならないのです。この相手は、土俵が違う、ルールが違うスポーツをしているようなものです。

 今まで、日本国民、日本政府が信じていたことは、相手も同じルールに則ってくれる、という希望的観測にしかすぎなかったのです。こういう相手に見せるのは、相手に多大な犠牲を払わせ自身も血を流す覚悟、姿勢だと私は思います。

「しばらく前まで想像もつかず、私は思ってもいませんでしたが、武力による現状の変更は、武力以外では解決できない、敵国の土俵と同じルールで闘うのみだ、それ以外に選択肢はあり得ないとこう信じるようになりました・・・以上、佐渡ヶ島、佐渡市立両津病院から、卜井でした

 また、卜井、やったぞ。これ、放送されそうな気がする。局長がスタジオを占拠しなくても、世論の流れが放送しないことを許しそうもないよなあ、と藤田は思った。

前回の話(17)Ⅷ
次回の話(17)Ⅹ


マガジン『エレーナ少佐のサドガシマ作戦』


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