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KILLING ME SOFTLY【小説】126_アンラベリング・ザ・ワールド

正月映画のポスターを横目に館内を清掃して、わざと電車を見送りながらゼリー飲料や栄養食によって空腹を満たすと、気が重い次の職場に向かう。可能な限り始業時間に合わせて出勤すれば、嬉しそうな伊東に何故か抱き付かれ、不快を覚える。


大ニュース!アイツついにフラれてやんの、彼氏側が別れたって言ってた。幸せ自慢のクリスマスも偽装とかクッソ笑える!」
彼女は捲し立てた後に吹き出した。
一体どこが面白いのか、夏輝に思いを馳せると胸が痛んだ。


失恋ごとに号泣しては殻に閉じこもる彼女を慰めて支えることが私の役目だと頭に描いてすぐさま冷静な状態になる。
友情をかなぐり捨て牙を剥き私を社会的に抹殺した相手を未だに気遣うとは馬鹿らしい。
例の如く伊東は憶測で騒ぎ、しかし耳に入らず夏輝と〈直接対決〉しないまま関係を絶つ、これが最善か、ただひたすら考え悩む。


木っ端微塵になった残骸を拾い集め、接着剤で付けても修復は難しいだろう。されど今ならもしや、と淡い期待を抱き、休憩中にまず啓裕の動画投稿チャンネルを覗いた。
性格はさておき、容姿端麗な彼は美容師の枠を超え、人気を博す。


〈ご報告〉という仰々しいタイトルにて表舞台に出る人間同士の円満な破局を伝えるも、コメント欄では両者が持つ黒い噂で盛り上がり、反対に夏輝の各SNSは奇妙なまでに啓裕には触れておらず、彼に纏わる投稿のみ、丁寧に削除されている。


私は新たに写真共有SNSのアカウントを作り、彼女だけをフォローして様子を窺う。



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