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KILLING ME SOFTLY【小説】116_壊れそうな限界へ近付く

〈凛々香が現在の勤め先で早くもいざこざを起こした〉など、どこぞでばら撒かれても今回ばかりは当然の結果だと覚悟を決めた翌朝に顔を合わせるとすぐ伊東が謝罪した。
「あんなにペラペラ喋って、働きづらくさせてごめんね。」
わざと炎上の件に触れこちらが怒り出すように仕向けたのではないか、と疑いを掛ける。
どうも彼女の真意を測りかねた。


「こちらこそ、昨日はすみませんでした。稚拙な言動を猛省しているので……もうお終いにしません?」
休憩室の掛け時計に目を遣ると始業20分前、従って会話の〈強制終了〉を試みたが、伊東はお構いなしに続ける。
「誤解しないでね、私が深澤さん側だってことは確かなの。夏輝に嵌められたんでしょ、分かるよ。」


まず相手の苛立ちにさえ気付かない馬鹿には理解不可能だろう。長年の熱烈なファンとして双方に関わった佐伯や、前職の社長である西島さん、私に寄り添う恋人の千暁とその家族か仲間ならまだしも、伊東はたかがインターネットの情報を鵜呑みにし、知ったかぶりだ。


「あの子さ、有名バンドマンとの繋がり疑惑ヤバいし、どっかの地雷踏んだから深澤さんに罪を着せたんじゃないかな。バックに太ーいパトロン?がいて限りなく黒。美容師の彼氏も顔はいいけどアクセサリーみたい、ビジネスカップルだよね。」
このような噂は聞きたくない、〈天然〉と無神経は異なる。


出来れば無視したいところだがそうもいかず、代わりに疑問を投げ掛けた。
「何なんですか?」
彼女は笑みを浮かべ
「え?」
と答え、暖簾に腕押し。成る程、こういったコミュニケーションしか取れないらしい。

どうにか千暁とのロマンチックなクリスマスを思い描きながら凌ぐよりほかなかった。



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