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KILLING ME SOFTLY【小説】108_迷っては戻る答えは神様だけが

独特のオーラを漂わせる西島さんはかつて専属モデルを務めており、私が同じ雑誌のストリートスナップに載る頃には既に第一線から退き、輸入雑貨のバイヤーと結婚して荻窪に世界中の宝物を集めたような店舗を開業する。


彼女とは仕事の一環で知り合って以降、細々と交流が続く。しかし、まさか私を〈雇用したい〉と声を掛けるなど想像すらしなかった。抜群のセンスと魅力を持ち、手が届かない憧れの的で、恵まれた成功者という印象を受ける。心にも余裕があるからこそ、優しいのだろう。


そういった人柄だと理解した上で包み隠さず今回の件について西島さんに話すと、次第に顔を曇らせた。
「正直、私は莉里ちゃんと夏輝ちゃんは上手くいかないと思っていました。というのも、こちらが莉里ちゃんを引き入れた後、夏輝ちゃんが私にアプローチをかけてきたんですよね。」
「えっ。」


接点がないどころか、華麗なる転身を遂げ、誰からも好かれる西島さんを夏輝は敵対視した筈だった。
「ほら、SNSでの反響が大きかったでしょう。莉里ちゃんが再び注目を浴びて面白くなかったらしく、あちらのアパレルブランドとコラボしませんか、と誘われましたが、うちとは明らかにテイストが違いますよね?もっとも、夏輝ちゃんが昔の雑誌関係者を頼るのは業界ではかなり有名ですけど。」
「申し訳ありません!」


反射的に言葉が飛び出す。
多方面でトラブルを起こしては、絶対に謝らない彼女の代わりに頭を下げた癖が未だに残る。



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