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KILLING ME SOFTLY【小説】92_生まれた罪を抱きしめるのさ

恋人の千暁でさえも見抜けなかったあれこれを事細かに明かされて、赤面した。
「まあ、ずっと付き纏ってたレベルの〈ガチ勢〉ですし。莉里さんが毎日どれ程、頑張って働いてたか、ひとっつも知らないくせに、バンドマン狙いでライブハウス通ってる?はあ?ホンッッット失礼。少なくとも、夏輝ちゃんの口からはそんなの聞かされたくなかった。私含め凛々香ファンの総意ですよ。」


淹れたての紅茶をこちらに勧めた後にようやくこたつに入り、長溜息を吐いてティッシュで鼻をかむ佐伯は進学を機に上京して同じ勤務先でアルバイトを始めるなど、私との距離を縮めたはいいが〈近寄らないで〉〈調子に乗るな〉〈迷惑だよ〉〈痛い〉と非難の声を浴びた経験の持ち主だった。


自然消滅してからも啓裕くんに家賃払わせたまま暮らすとか、兎に角、あっちのこと傷付けた私が悪いの。何でも避けて通ってさ、ちゃんとぶつからなかったせいでこんな拗れた。」
記憶を辿り、目の前に置かれたティーカップの繊細な模様を見つめる。


「ほんの一部でしかなくても、長年追い掛けて実際に店で接しただけ、分かるとこあります。莉里さんは抱え込みがちですよね。だからこそ、上辺の情報で離れてったり、裏切られた、みたいな勘違いしてるファンの子達ならまだしも、全然関係ないヤツらが群がる現状がなんかもう、歯痒くて。いずれ莉里さんがどの道選んでも私は永遠に応援します。」


夏輝は度々
りーちゃんは表に出る人間の自覚が足りてない!
と私を叱った。
モデルを退いたとて、知名度や影響力を持つ販売員即ちインフルエンサーとなり、稼ぐ以上、生半可な覚悟ではすぐさま足を掬われる。
彼女はプロ意識が高かった。



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