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『満ち欠けワンダーランド』10.迷、宮


コーヒーもしくはティーカップ、カラフルでメルヘンチックなパーティーはハンドルを回すことによって速度のコントロールが可能だ。
 それぞれの匙加減で楽しめるが、これまでの僕は人任せ、単に座っているだけだった。
オッくんは酔わない? 私、何故か床の方、見ちゃうんだよ」
 たっぷり砂糖を入れてしまいそうなムギとゾノは案の定、最初からぶつかる。こちらを巻き込み、居心地の悪さを感じた。珍しくアーリーが提案して、何か変わるかも知れない本日は、今のところ〈眩暈を覚えた〉程度。

「なんでいっつも、こむぎちゃんと一緒なの?」
「あれはそんなんじゃねえ」
 中学時代、恋愛対象外だと散々聞かされる。ゾノと交際したがる異性らのワンパターンなフレーズをムギは信じたのだろうか。
 彼女の純粋さに付け込んで汚した。
 元より彼を快く思わなかった僕は、まんまと嵌められる。というか3人共すっかり騙され、過ぎ去った10年を振り返ると馬鹿らしくて笑うしかない。


 またも二手に分かれて気付けば高所で垂直落下の瞬間、浮き上がり、体の中身が置いて行かれた。
「うおおおおお繰り返しはヤダあああ僕もう帰る! 許して! ね、お願いいいい!」
 恐怖のあまり大人げなく意味不明なことを叫び、閉じた瞼は逆効果、侮って油断する。
 ジェットコースターに乗りたくとも、いつの間にか避けるようになった。「他の乗り物なら」でご覧の有様だが、ふらつく足や早鐘を打つ心臓と冷や汗、まさに非日常を味わい、どこか吹っ切れる。


 早めにムギが真意を語ってくれたら良かった。〈幾らでも悩みを聞いて〉? 解決はせず。
 たとえ昔、告げられても現在のように捉えるのは難しく、傷口を広げる。別々の道を歩んだ後だからこそ受け入れて、仲良くできた。

「そういえばさ、行きの車でアーリーと歌ってたんだよ。音楽流しながら。ゾノはどんなのが好き?」
 なんだかんだ休憩に付き合い、スマートフォンのゲームアプリで遊ぶゾノにようやく話し掛ける。不思議と沈黙が苦にならなかった。

「うーん、前はバンドとか。踊れる曲」
 相変わらず趣味は違って、無難にキャラクターを作った僕と、ありのままで周りに友が集まるような彼も異なる。
 チューニングなし、そこが面白おかしかった。控えめに昼食をとると、アーリーからこちらに向かうとの連絡が入る。


「あのコンビはどう見えてんのか、さっきの店で並んでた家族連れもマジで親子?外からは分からんし、俺らも今、同性で連んでる。内側を知ってもほんの一部」
「確かに。僕達は偶々、彼女いないけどムギの秘密バラす訳には……どっちにしろ相手いたら遊べなくなって」

 様々な関係を遠巻きに眺めた。明るい顔のみではなく、泣きべそをかき、赤面、沈んだ表情、実に豊かで、ここにあるアトラクションと似ている。


「その分、今日を楽しめば? もっと重たいもんが来るっぽいがな。オッくんと話せて嬉しかったわ」
「ありがとう。お化け屋敷に引き摺り込むね」
 お返しとばかりに招待した。及び腰のゾノ、先頭は僕が立つ。時にはこうやって果敢に挑んでみよう、殻を破るきっかけ、自分で決める。

【 】

 ふわり、空中ブランコは海月のようなシルエットだと思った。
「ファンシーでかわいい!」
 アーリーとムギが大喜びで写真を撮る。本当に似た者同士の感性、こちとら遊園地に訪れたからには是非とも〈全制覇〉したかった。
 しかし観覧車が近付くと、この後に待つ告白が脳裏を過ぎる。勿体振らずに教えてくれ、妙なわだかまりが残った。


 正直言うと色恋沙汰は懲り懲り、『来る者拒まずで色々あったけれども友人としてよろしく』のつもりが問題を抱える羽目に。
「子供向けのコースターだよ?」
「うん、でも乗ってみたい」
 オッくんは時間稼ぎで様子を探る。

 日の入りで園内の景色が変わって、センチメンタルな風が吹く。肌寒い中パーカーをさっと羽織り、ムギが俺を誘うまで、永遠にも感じられた。スキップ不可のムービー或いはやけに長いロード画面を彷彿とさせる。


 向かい合わせ、ゴンドラが揺れた。
「はい、15分かそこらで纏めて」
「勿論。えっと、未成年(※当時)のうちは叔母さんと暮らしてて、親の離婚でだいぶ疲れた。仲間が欲しくてSNSで繋がったり、働いてたんだ。とはいえ私の考えが甘かったの。まず、本気でなりたい人に『あんたは何もかも中途半端、ふざけんなよ』って怒られて、ああ、当然かなと。次は『ぶっちゃけ男が好きなんでしょ』で、客に付き纏われちゃった。女の子から口説かれるのも。ひたすら迷って、いざこざだらけ、リセットすればいい。終いには付けが回る、東京で初めてできた友達が世を去ったのに外野の不幸マウントで叩きのめされた。生きづらい、精神的な限界の代わりに、出会いが。やっと掴んで、通信の勉強やバイト頑張って、罪の意識を持つ、申し訳なさでいっぱい。ずっと自分が中心みたいな、ほら、また全体的に押し付けがましい」
 ムギは俺に従ってせかせかと言葉を連ねる。一呼吸置き、頷いた。


人が離れても難解だもん、仕方ない? ううん、原因は性格
 謎が解けたらしい。パズルのピースがはまる。



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