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淡園織葉の短編小説たち

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自作の短編小説をまとめています。 それぞれ10分程度で読めるお話ばかりですので、どなたさまも、お暇な時やちょっと物語を補給したいなというときにご活用ください。
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#創作

【短編小説】徒情

【短編小説】徒情

「拝啓って書くのって」
「ん?」
「だから、手紙でね」
「あ、灰が落ちるよ」
 おっと、と慌てたのも束の間、彼女は灰皿の上までそっと煙草を運ぶと、丸い灰皿のふちをトントンと叩いた。太鼓の達人で言う『カッ』の部分。三回ほどカッを鳴らし、仕切り直しとでも言うように煙草を一口吸うと、口に含んだ煙を僕の顔に向けて吐き出した。とっさの煙幕に対応できずに咳き込む僕を彼女は笑いながら眺めたあと、さっきの話をもう

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【短編小説】ゆらぎ

【短編小説】ゆらぎ

 どこか、遠くて近くて仄暗い場所に僕はいた。どうやらここでは、文字通りすべてが、文字になる前のすべてが、規則正しく生活していた。
「例えば、あそこを見てみな」
 ここに来て最初に出会った男。ふらふらと寄る辺なく立つ、湯気みたいな男が口を開く。彼が指差した方向に目を凝らすと、そこにはゆらぎがあった。本当に、ゆらぎという他ない、輪郭のぼやけた何かが中空を飛翔していた。泳ぐように、跳ねるように、全てから

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【短編小説】灰と橙

【短編小説】灰と橙

 嵐が来るよ、と君は眉尻を下げながら言う。それはそれとして、行かなければならない用事があったから、僕は制止を振り切って外へ出た。昨夜から降り続く雨は尚も地表を濡らし、もうこのまま乾くことなどないように思えた。そんなことはないと知っているから、それが悲しくて、傘を差さずに歩くことにした。

 目的地は近くの小さな漁港。漁に出る船もなく、静かに水面を打つ雨の音が寂しく響く。開けた緑地の真ん中にぽつりと

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【短編小説】まぁるいメガネのその奥に

【短編小説】まぁるいメガネのその奥に

 大学一年の夏、フォロワー数が四桁になった日はお祝いにホールケーキを買って一人で食べた。半年後、フォロワー数が五桁になった日は彼女に内緒で高い風俗に行った。文章だけをアップするSNSで、言葉だけで、この人気を集めた。正真正銘、俺。濃縮還元。そこにちょっとした矜持みたいなものが生まれたのはフォロワー数が二万人を超えた日。つまり、一ヵ月くらい前の、東京に桜前線が到来した春の日。その日は特に特別なことは

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【短編小説】終便配達員

【短編小説】終便配達員

 バイト先のコンビニで一緒に働いている五十歳のおじさんは、半年前に突如深夜シフトに現れた僕と働くことを喜んでいるようだった。
 バイトを始めて一ヶ月が過ぎたころ、好きな作家が同じだったから、二人で記念にホットスナックを食べた。
 二ヶ月が過ぎたころ、僕が通っている大学を教えたら「立派だ」と言ってセブンスターを買ってくれた。
 三ヶ月が過ぎたころ、もう会えない息子がいることを教えてくれた。会えない理

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