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雨の夜とソウルミュージック

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少し重めで、暗めで長めのエッセイです。
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『日本人』とは何か?

『日本人』とは何か?

2011年3月11日。

あなたはどこで、何をしていましたか?

恐らく、健全な(あるいは、多少不健全であっても)日本人であれば、その答えを持っているはずです。

2011年3月11日。

僕は青森県の十和田市にいました。

それは何の特徴もない、平凡な一日のはずでした。

僕はアパートで、罪のないワイドショーを見ながら、遅めの昼食を取った後、「めんどくさいなぁ」と呟きながら、午後の仕事に向かって

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それでも、生きていく

それでも、生きていく

夜に車を運転しながら、カーステレオでビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビー』を聴いていました。

壊れやすい陶磁器のような、ピアノの音色は、アウトロの一音まで美しい。

しかし、実生活での彼は、とても美しいとは言えない人間だったようです。

麻薬とアルコールに耽溺し、身を滅ぼしていきます。

ある人は、彼の人生を評して『緩慢な自殺』と呼びました。



僕が住んでいる秋田県も、自殺率が全国一

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シューゲイザー

シューゲイザー

「路地裏ばかり覚えている」

夜に缶コーヒーを買いに出掛け、十和田市の街中を歩きながら、そう思いました。

虚ろな青白い顔をした佐藤青年が、この街に初めて住んだときも、同じようにふらふらとあてもなく彷徨したのでしょう。

ドリーミングで、ノイジーな音楽を聴きながら。



自分がかつて住んでいた土地を再訪するのは、微かな緊張感を伴うものです。

すれ違う人々の中に、見知った顔を探してしまう。

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路上

路上

6月の路上に猫が死んでいました。

猫は、そんなところで死ぬべきではなかったのです。

アスファルトの上の死は、何処にも辿り着きません。

出来ることなら、繁茂な森の中の、温かい草の上で、安寧の旅路につくべきなのです。



猫にも、当日の予定があったはずです。

ネズミを追い、モグラを追い
もしかしたら、素敵な恋に落ちることだって、あったのかもしれません。



薄らいだ闇の中で目覚めた猫は

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渇仰

渇仰

温泉は神の恩寵であると考えます。

慈悲深い神が、過酷な環境で暮らす砂漠の民に与えたのが石油なら、火山と地震に苦しむ島国の民に与えたのが、温泉です。

そして、当然のことながら、その神の光は、すべての民の頭上に、あまねく降り注がなければなりません。

秋田県の温泉地の数は、青森県、福島県に次いで、全国6位を誇っております。
(1位は北海道)

ただし、温泉の本数自体は少なく、他県に比べると一軒宿や

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人類の泉②

人類の泉②

(前回の続き)
高村光太郎が長沼智恵子と出会ったのは、彼が最も荒んだ生活をしていた28歳の頃です。

旧態依然とした日本の美術界で孤立し、自己憐憫と退廃の中に、その身を落としていた時です。

ちょうど、出会った頃の智恵子の言葉を、友人が日記に残しております。

「世の中の習慣なんて、どうせ人間が作ったもの。それに縛られて、一生涯自分の心を偽って暮らすのは、つまらないことです。だって、私の人生なんで

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人類の泉①

人類の泉①

真夜中に一人、部屋で古い日記を読み返しておりました。

僕がまだ20代で、仕事の関係で青森県に住んでいた頃のものです。

当時の僕は友人が一人もいなくて、孤独で、お金もなく、特に肌に突き刺さるような青森の冬の寒さは、心身共に堪えました。

自分の存在の希薄さに嫌気がさして、いっそのこと消えてしまおうかと考えたこともありました。

行きつけの古本屋で、高村光太郎の詩に出会ったのは、そんな時です。

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女くさい

女くさい

女には、女の匂いがある。

その事に気付いたのは、いつの頃でしょうか?

「男くさい」とも違うし、「ガキくさい」のとも違う。ましてや、「年寄りくさい」のとも全然違う。

女性には、女性特有の匂いがあるのです。

特に文学や音楽の世界において、女性がその「女くささ」を発揮するとき、僕たち男の子は全く太刀打ちできません。

例えば、「熱き血潮に…」なんて詠まれた日には、ただただ感心し、平身低頭するしか

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触れてはいけない

触れてはいけない

部屋は人の心だといいます。
そこに住んでいる人の心の有り様が、部屋には反映されていると。

散らかった部屋の住人は心が乱れているし、美しい調度品が飾られた部屋には、豊かな心の持ち主が住んでいるといいます。

先日、秋田市立千秋美術館で開催されている「デンマーク・デザイン展」を訪れました。

蓮の池が有名な千秋公園の向かい側。「アトリオン」という名の複合ビルの1階に美術館はあります。

受付で入館料

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夜の口笛

夜の口笛

仕事終りの夕方にキッチンでひとり、
アサリのスープを作っておりました。

丁寧に砂を抜いたアサリを鍋に放り込み、水を加えて、コンロの火を点けます。

難しいことは何もありません。特に今日のような、久しぶりの仕事で疲れた体には、シンプルで旨い料理がいちばんです。

僕はキッチンの椅子に座ると、口笛を吹きながら、アサリの貝殻が開くのを待ちました。

その時、吹いていたのは、ジョン・コルトレーンの『マイ

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はじめましての代わりに

はじめましての代わりに

これからブログを書き始めるにあたって、本来であれば、まず自己紹介をするのが通例であろうかと思います。

ただ、皆さんにとっては、僕がどこで生まれたとか、どのような(チャチな)少年時代だったかという話は興味がないと思いますし、『ライ麦畑』の少年の言うとおり、そういったことを書くのは僕にしても「退屈」なんですね。

そこで、とりあえず僕が住んでいる町について、お話ししたいと思います。

生まれ育った町

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