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目目、耳耳

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#推薦図書

美しき、百“希”夜行(夜天/女王蜂)

今、『先が見える人』と『先が見えない人』は、どちらの方が多いんだろう。

終わりが見えないなんちゃらウイルスに、もしかしたら明日起こるかもしれない震災に。

行きたい場所へ、行けない。

誰かに会いたいのに、会えない。

ピリピリした現実。

あっちを向いても、こっちを向いても、一寸先は闇。

自分のこともそうだけど、自分が好きな人達も。

たとえば、好きなミュージシャンのこと。

僕の大好きなバ

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ぼくに、呼吸させてくれたもの(センス・オブ・ワンダー/レイチェル・カーソン)

ぼくに、呼吸させてくれたもの(センス・オブ・ワンダー/レイチェル・カーソン)

ターシャ・テューダーしかり、自然を愛する人に、その愛し方に惹かれる。それは、ぼくも子どものころ、自然を愛していたからだと思う。

針葉樹の葉は銀色のさやをまとい、シダ類はまるで熱帯ジャングルのように青々と茂り、そのとがった一枚一枚の葉先からは水晶のようなしずくをしたたらせます。

――本文より引用

レイチェル・カーソンが目に見えるものを例え、それを想像し、その度に思い出す景色があった。どれも、子

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額装する人(小さい人 川上陽介作品集)

額装する人(小さい人 川上陽介作品集)

ここに、「  」がある。

「  」は、誰でも見える。誰でも触れられる。

でも、誰に訊いても、言うことが違っている。見聞きしているものは、「  」に違いないのに。それを、寂しいと感じることもあった。幼いころは、特に。

けれど、誰のものでもありながら、同時に、自分にだけ見えて、触れられるものでもあった。たとえ、誰かには取るに足りないものでも、ぼくにとっては特別だった。目に見える美しいものは、ぼく

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絡んで、絡めて、解かないで(愛情観察NEO/相澤義和)

絡んで、絡めて、解かないで(愛情観察NEO/相澤義和)

3年前の記事に、「女の子の、背中やお腹が好き。」とこぼしていた。変わってなさすぎる。3年なんて、変わるには短いか。というか、変わるもんなのか。性癖というか、フェチというか。どうでもいいだろうけど、お腹の方が好きです。

それなりに人と交際したことはあるのに、恋愛したことはろくにない気がする矛盾。そういえば、女の子と付き合ったことはない。(好きになったことはあるけど、そもそも当時ぼくの方が付き合って

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ぼくと「ぼく」のこと。もしくは、孤独の和らげ方。(雲と鉛筆/吉田篤弘)

ぼくと「ぼく」のこと。もしくは、孤独の和らげ方。(雲と鉛筆/吉田篤弘)

平日の住宅地は、とても静かだった。ぼくのアパートの近所の話じゃなく、少しだけ遠出したときの。

この「少しだけ」は、自転車で20分くらいのこと。遠出と言えるほどの遠出じゃないと思う。でも、その住宅地へ訪れたことはあんまりなかったから、ぼくにとっては遠出のようなものだった。近くても遠くても、知らない場所であることに変わりはない。

と、同じようなことを、『雲と鉛筆』の「ぼく」も言っていた気がする。

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滑る指先、滑ることば(湖とファルセット/田村穂隆)

滑る指先、滑ることば(湖とファルセット/田村穂隆)

水草が川面を覆う 忘れなさいあの日あふれた言葉のことは(p108)

たまりの水は腐る。流れる水は腐らない。と、いつかどこかで読んだ。たしかに、海なり湖なり腐るのは見たことがない。(赤潮とか、あれは腐っているわけじゃないか。)

海も湖も、あと池も、とどまっているようで、どこへでも行く。理由は他にもあるだろうけど、理由らしい理由はそれだろうか。ぼくが、水場を好きな理由。蛇口から水が流れる様を見るの

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「きれいに穢れた美しさ」(毛皮のマリー/寺山修司)

下男 マリーさん。この世で一番の美人は、あなたです。
マリー ほんとに?
下男 鏡は、うそを申しません。
マリー まあ、よかった。白雪姫はまだ生まれてないのね。

――本文より引用

その通り、毛皮のマリーは誰よりも美しい。と、ぼくも思う。それは、美貌であるだけではなく。清廉潔白。には、ほど遠い人。けれど、その振る舞いを美しいと、思わされずにはいられない人。

美貌の男娼には、子どもがいる。美少年

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孤の人(黄色い雨/フリオ・リャマサーレス)

どのようなものも以前と同じではない、思い出といっても、しょせん思い出のそのものの震える反映でしかないのだ、(後略)

――p48より引用

廃村。で、朽ちていく老人。とは、似ても似つかぬ環境で生きるぼく。と、書いてみたけれど。本当に、そうだろうか。

一人、また一人(もしくは、一家族ごと)いなくなっていく村。自分の子どもさえ。そして、夫である老人を残し、押しつぶされる思いに押しつぶされ、首をくくっ

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「自分と違っている者」たちの話(カモメに飛ぶことを教えた猫/ルイス・セプルベダ)

「自分と違っている者」たちの話(カモメに飛ぶことを教えた猫/ルイス・セプルベダ)

「最後に、ひなに飛ぶことを教えてやると、約束してください」
(中略)
「約束する。そのひなに、飛ぶことを教えてやる。さあ、もう休むんだ。ぼくは助けを呼んでくるから」

――p37-38より引用

もうすぐしぬことがわかっているカモメは、会ったばかりの猫に、これから生まれる子どもを託す。カモメじゃないどころか、羽も生えていない生きものに。

それは、他に託す人(?)がいなかっただけじゃなく。この人な

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夢の余薫(水銀飛行/中山俊一)

そこには、暗闇があって。上も下も前も後も。どころか、ぼく自身も、暗闇だ。けれど、辺りの暗闇と、暗闇のぼくは、別物であることを、知っている。そこには、地面もあって。歩く度に、足跡が残るから。その足跡は、柔らかく発光しているから。そんな夢のようだった。

落鉄の煌めくターフに青年期重ねる四月 晴れの重馬場(p100)

「夢のようだ」は、「桃源郷のようだ」のイコールのように、捉えられることが多いけど。

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知らない(パウル・クレーと愛の詩集)

クレーが好きだ。『思考のための死』とか『釣り人』とか、好きな絵はたくさんあるけど、有名なのは、『忘れっぽい天使』などの、天使の絵だろうか。白い紙に黒い線。の、簡素な絵。

晩年、強皮症を発症し、思い通りに動かない手で綴った線。が、とても優しく、とても悲しい絵になった。(と、感じているのは、ぼくだけど。)

クレーの天使達は、知らぬ存ぜぬ内に、ことばを呼び寄せる。谷川俊太郎は、彼らに心を動かされ、詩

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「想像してごらん」の実(グレープフルーツ・ジュース/オノ・ヨーコ)

「想像してごらん」の実(グレープフルーツ・ジュース/オノ・ヨーコ)

苦しさにも、種類がある。

メンタルとか、フィジカルとか、もしくは、どちらでもない、上手く例えられない苦しさ。

ふいに、息ができなくなる。のは、フィジカルだろうけど。原因は、(たぶん)メンタルにあって。どちらにも原因があるなら、どれからどれをすればいいのか、わからない。

八方塞がりのぼくは、どこへも行けない。横たわるだけで、精いっぱい。また、息ができるようになるまで、耐えている。どこへも行けな

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ぼくと鬱と料理(帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。/高山なおみ)

ぼくと鬱と料理(帰ってから、お腹がすいてもいいようにと思ったのだ。/高山なおみ)

ぼくは、あんまりものを食べない。のは、食に関心がないから。のは、大抵調子が悪いときだ。頭の。それで、食べずにいると、ますます不調になる。(鬱病は、エネルギー切れになると悪化します。万病に言えることだけど。)

調子がいいときの食事は好きでも嫌いでもない。これはこれで、なんだかぼくじゃない気がする。もともと、食べることは好きだったはずだ。少なくとも、子どものころは。

いつからだろう。一人でいると食

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「エモい」がわからない? これを読め(エモーショナルきりん大全/上篠翔)

エモい #とは

「エモい」とは、なんとも言い表せない素敵な気持ちになったときに使う、主に若者の間で浸透している俗語(スラング)です。

――ふじのーと(山梨県の観光、自然)HPより引用

「エモい とは」と、Google先生に訊いてみたところ、検索上位になっていたのが上記である。内容はさておき、なんで「山梨県の観光、自然」のサイトに「エモい」の意味が載っているんだとか、URLにも含まれている山

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