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フランス語(等の)方へ

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主にフランス語・フランス語学に関連する記事を放り込んでいます。
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#哲学

deuxièmeとsecond【フランス語の方へ:1】

小手先の記事もちょっと書いてみよう、という試みです。


フランス語には、「2つ目の」と訳しうる形容詞がふたつあります。deuxièmeとsecondです。前者は基数詞deuxに序数詞化標識-ièmeをつけたものです。後者はラテン語secundusに由来します(なおsecundus自体は、sequi「付き従う(suivre)」という意のラテン語の動詞と、根のところでは繋がっているようです。Oxf

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【769】裸エプロンのエロティシズム序説(続かない)

【769】裸エプロンのエロティシズム序説(続かない)

裸エプロンそれ自体は裸のうえにエプロンを身につけるだけですが、或る文脈において一定の効果を持つクリシェとして機能しつつ、しかしクリシェでありつつも依然突飛な印象を与えるために用いられます。エプロンが日常的に一定の役割を担っており、しかも裸のうえに直接エプロンを着用することは日常的にはないということ、裸エプロンが実施されるときにはエプロンの日常的な用途に対する期待がほとんど持たれていないこと、が理由

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【536】デカルトはそんなこと言ってません/あなたは全然読めていません

【536】デカルトはそんなこと言ってません/あなたは全然読めていません

世界的なデカルト学者であるドゥニ・カンブシュネルの『デカルトはそんなこと言ってない(Descartes n’a pas dit)』の邦訳が、今月末(2021年9月末)に出るようです。

デカルトに関するよくある誤解をとりあげ、それがどのような意味で間違っているか、ということが取沙汰されます。

タイトル(の訳)からも分かる通り、決して固い本ではなく、フランス語で読んでみた限りでは非専門家でもわかる

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【286】ドラクエIIIのシーシュポス:マイルドな不条理から伝説へ

【286】ドラクエIIIのシーシュポス:マイルドな不条理から伝説へ

ドラゴンクエストIIIのスーパーファミコン版以降のヴァージョンには、キャラごとに割り当てられる「性格」というパラメータがあります。「性格」は能力の伸び方に大きな影響をあたえる重要なパラメータです。

後で「本」を読ませたり特定の品物を装備させたりすることで、その性格を変えることができるとはいえ、特に勇者であるところの主人公については、ゲーム本編に入る前の最初の性格診断で性格が決められます。その診断

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【95】【2万字】横顔は、英語で言えばprofile

プロフィールを書きます。ショートver.(≒プロフィール)とロングver.(≒来歴)があり、後者が前者を大幅に補完します(が、後者については長いと感じられる方もいらっしゃるはずので、興味のある人のみどうぞ)。当然のことですが、どちらにも(致命的でない範囲で)嘘が含まれます。隠す部分や大げさにする部分が含まれます。皆様のプロフィールや自己紹介と全く同じように。

★ショートver.(約1000字)★

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最上級表現に隠される「〜でさえ」の意味【フランス語の方へ:3】

最上級表現に隠される「〜でさえ」の意味【フランス語の方へ:3】

西洋語の形容詞や副詞の最上級表現は、単に「最も〜である」ことを指し示すばかりでなく、文脈によっては「最も〜な…でさえも」という、英語で言えばevenの意味を含むことがあり、これは解釈上極めて重要です。

『ロイヤル英文法』(新版)などには§161(1)に「譲歩の最上級」ということで次のような例文が載せられています。

The fastest rocket would not reach the n

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【175】答えが長くなることを恐れてはならない!たとえば、バカロレア

【175】答えが長くなることを恐れてはならない!たとえば、バカロレア

思考力を要する記述式の答案を書くべき試験の例としてよく引き合いに出されるのが、フランスのバカロレア(大学入学のための学力を測る試験)の、しかも哲学の試験です。

今回はこれによせて。

※記事の【まとめ】は一番下にありますので、サクっと知りたい方は、スクロールしてみてください。


バカロレアの哲学の試験には、テクストの抜粋を解説させる問題(explication)もあるというのに、どうしてか、

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【14】弱さの中で生きるためのシステム構築(ラ・ロシュフコー『箴言』16)

先日、というか昨日、スピノザの『神学政治論』からいくつかのフレーズを引用して、記事を一本書きました。
こちらです→【13】揺らいだときにこそ、足元を見つめ、欲望の声を聞け(スピノザ『神学政治論』第20章)

同記事で行なった引用の中には、いくつもいくつも優れた人間観察が見え隠れしていたと思われます。

中でも私が昔から気にかけているフレーズは、第20章第4節の、以下の部分です。

実に、一般人につ

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【102】Ars longa, vita brevisを拡張しよう

Ars longa, vita brevisという格言があります。直訳するなら——もちろん、「直訳」すら難しいという点が問題なのですが——、「学芸は長く、人生は短い」とでもなりましょうか。

これはもともとはギリシャの医学者であるところのヒポクラテスの言葉(を少し変形させたもの)とされていますが、ラテン語のかたちでよく引かれます。セネカを経由してラテン語で知られている、という歴史的条件が一役買って

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【140】辞書から消えた語を集めた辞書から(Les disparus du Littré)

先日買った、面白い辞書が手元にあります。

多くの辞書の編集に携わってきたH.Neefsが編んだ『リトレから消えたもの(Les disparus du Littré)』というその辞書は、19世紀後半に編まれたリトレ仏仏辞典に収録された語のうち、現代の辞書にはもはや収録されていない語を、その語義とともに網羅的に収録したものです。(Cf. H.Neefs, Les disparus du Littré

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