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読書感奏的

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日々の非常口

日々の非常口

駆け込んだ商業施設のexitで読了。

アーサー・ビーナード『日々の非常口』新潮文庫

文体からにじみ出るある種のゆるさ、脱力感に癒されながら、最近はこの本を読んでいた。アメリカで生まれ育ち、来日以降、日本語で詩作をはじめた著者のエッセイ集だ。日本語への独特のアンテナをもち、都市を自転車で移動する日々から紡ぎ出される文章は、対象との独特な距離感を生んでいて、そこが面白い。
はじめは単に外国の人が書

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この世の黄昏のような座席から

この世の黄昏のような座席から

本を読み終えたので、感想を簡単に記しておく。

森有正『思索と経験をめぐって』講談社学術文庫

収められているのは五つの文章と、短いあとがき。スタイルはエッセイ風であったり、手紙のようであったり、講演を文字に起こしたものであったりするが、「経験」とはどういうもので、それがいかに重要であるか、というテーマが全ての文章で一貫している。やや哲学的な内容を非常にかいつまんでいうと、

内面に促しを与えてく

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マックで読書、読み終えて外に出ると

マックで読書、読み終えて外に出ると

…いかにも、という感じの空模様。

これほど『白鯨』が映える空は初めて見ました。そもそも白鯨を読んだのが初めてなので当然とえいば当然ですが、せっかくなのでこのまま感想に突入します。

メルヴィル『白鯨(上・下)』田中西二郎訳 新潮文庫

↑こちらは上巻のカバー裏からの引用。

何というかもう、すでに面白いです。

思えば、本屋でこれを読んで、つい面白そうだと思って手に取ってしまったのがきっかけでし

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一冊の本を読み終えた朝は長い夜があけた心地がする

一冊の本を読み終えた朝は長い夜があけた心地がする

冷静に考えるともう朝とは呼べない時間ですが(13:00)…
言葉が出てきてしまったので、このまま読書感想といきましょう。

フルトヴェングラー『音と言葉』芳賀檀訳 新潮文庫

すべて偉大なものは単純である

タイトルに興味を惹かれ、ふと軽い気持ちで手に取ったこの本ですが、ひらいて即座に眼に飛び込んできたこの言葉に、いっきに引き込まれました。

「すべて偉大なものは単純である」

これは、この本に収

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『地の糧』

『地の糧』

読書感想です。

ジッド『地の糧』今日出海訳 新潮文庫

写真のコラボカバーから察せられるとおり、ヨルシカの楽曲「チノカテ」からの影響で手に取りました。
が、いざページをひらいてみると、ヨルシカの曲調と本の雰囲気がずいぶん違うので驚きました。

なるほど、ヨルシカが仕立てるとこれが、あんな都会的で、お洒落な、別れの歌になるのか…

こんな、情熱の書が。

「書を捨てよ、町へ出よう」

この言葉を僕

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Think, clearly, メモ、短く

Think, clearly, メモ、短く

読書感想です。

『Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』
ロルフ・ドベリ著 安原実津訳 サンマーク出版

よい人生とは何かを考え、そこへ向かって努力するのではなく、
よい人生の妨げとなるものは何かを考え、それを避けるよう努めることで、
人生はよりよいものになっていく。

著者のこの一貫した主張に沿って、本書では人が生き、幸せを感じるうえで邪魔になる

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マックで『大衆の反逆』

マックで『大衆の反逆』

次の電車まで一時間近くあったので、駅前のマックに駆け込み、月見バーガーと読書。本は中公クラシックス、オルテガ・イ・ガセット著、『大衆の反逆』。

この本は先日、友人と待ち合わせる前に寄った秋葉原のブックオフで買った。それはまた以前別の日に、後輩と通話をしていて橋川文三の『昭和維新試論』を一緒に読もうという話になり……なので本当はこの時『昭和維新試論』を探していたのだが、オルテガの『大衆の反逆』が棚

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追いかける夢の先で

追いかける夢の先で

現在、ラブライブスーパースターの第二期がNHKで放送されています。じつにいいですね。ゆっくり感想など語っていきたいのですが、しかし、今回はその話ではなく、

こちらです。

「フロイト著作集1」、ついに読み終わりました〜。

今年の夏はフロイトを読もうと思い立ち、図書館で貸し出しカードを作って借りていたのです。
返却期限は8月の終わり。ぎりぎりになりましたが、前日になんとか読み切りました。

この

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ハーブティーを飲みながら、人生の短さについて考えた人のその文章について

ハーブティーを飲みながら、人生の短さについて考えた人のその文章について

ガパオライスの続きです。

さて、前回はガパオライスを頂きながら、セネカの『人生の短さについて』を読んでいたのでした。途中でガパオライスがなくなるアクシデントで消化不良に終わってしまった感があるので、ハーブティーを飲みながら、続きを書きたいと思います。
これそのものが食後のひとときのような、そんな文章が書けたらいいな。では、はじめましょう。

セネカ『人生の短さについて 他ニ篇』茂手木元蔵訳 岩波

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人生の短さについて。ガパオライスを食べながら

人生の短さについて。ガパオライスを食べながら

椅子の下に小さな女の子が隠れていて、いつもの席に座れませんでした。まあ、しょうがない。夏休みだしな。

女の子にあてられて、こちらとしてもどこかに隠れなくてはとでも思ったのでしょうか。気付けば2階へ続く階段の下にある屋根裏部屋のようなスペースに、反射的に身体をすべり込ませていました。ガパオライスを食べるには少し体勢のキツさが気になるものの、人生の短さについて考えるならこのくらい窮屈な方がむしろ都合

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あらすじという車輪の下で。

あらすじという車輪の下で。

読書感想です。

ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』井上正蔵訳 集英社文庫

あらすじはいつものように引用させていただきました。

僕もこの作品について、「ひと言でいうとどんな内容ですか?」と訊かれたら、
「多感な魂を通して見た、ひとりの少年の学校生活」といった要約をすると思います。
あるいは、「教育によって調子を狂わされ、ついには人生からも脱落してしまうかなしい少年の話」だ、とでも。

なので読み終わ

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天の光は——

天の光は——

『天の光はすべて星』を読んだよ。買ってすぐ帰りの電車の中で読み始めて、翌日は仕事の休憩時間に読み進め、夜には読み終わっていた。一冊の本をこんなに早く読み終えたのはずいぶん久しぶりだと思う。それでもマックス(この物語の主人公)なら、あるいはもっと早かったろう。そうだな、夜中の三時くらいまで頑張って、そのまま一日足らずで読んでしまったかもしれない。明日仕事だから…なんて、僕みたいにケチなことは言わずに

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10分で…

10分で…

タイトルからコンセプトが、これほどビシビシ伝わってくる本がかつてあっただろうか…。

古市憲寿『10分で名著』講談社現代新書

名著の読みどころをコンパクトに紹介する良書。
各章で一冊ずつ名著を取り上げ、古市さんがその道のプロ(翻訳者、文学者、哲学者など)にインタビューした内容が、1章10分程度で読める量の文章にまとまっています。

気になる名著のラインナップは以下の通り。

1、ダンテ『神曲』

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創造力とは、向き合う孤独の力である——

創造力とは、向き合う孤独の力である——

ねっとりとしたボディが絡みついたスプーンを口へ運ぶ。クリーミーなコクと滑らかすぎない舌触り。レアチーズがキャンバスなら、白い皿の上にふんだんに散りばめられたベリーたちは、気ままな芸術家がパレットの上に撒いた絵の具のようだ。スプーンで手近なベリーをすくって真っ白なケーキの上に乗せると、じわじわと鮮やかな色が滲んで、味の方でも、酸味を抑えたレアチーズに、華やかな彩りを添えてくれた。

ブックオフで本を

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