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音楽のこと|Thank you for the music

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「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
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#thank_you_for_the_music について

「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
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(ちなみに“thank_you_for_the_music”は大好きなバンド、bonobosの曲からいただいた名前です)

【旅日記】東京2024秋|6.表現のゆくえ

【旅日記】東京2024秋|6.表現のゆくえ

分かりにくさ、分かりやすさ

映画のあと、ライブまでの時間を会場近くのプロントで過ごして、ふたたびLINE CUBE SHIBUYAへ。

折坂悠太さんのライブ2日目は、1日目とは違う印象を受けた。1日目よりも冷静なわたしで観られたということが大きかったのだと思う。折坂さんの歌、昨日よりエモいなーとか、お客さんの層がたぶん昨日とは違うなー(ビギナーが多かった感じ?)とか、「感じること」に「考えるこ

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「ユリイカの呪い」— ユリイカ / 折坂悠太・総特集を読んで —

「ユリイカの呪い」— ユリイカ / 折坂悠太・総特集を読んで —

長い間、わたしの中には、わたしを文芸の道から遠ざけた「ユリイカの呪い」なるものがある。

20年前、ユリイカの中で交わされた会話に大きなショックを受けた。「自死願望ある?」。それは当たり前の感覚として、まるでファッションのように「今日の晩ご飯食べる?」くらいの軽さで交わされていた。

わたしは激しく憤った。こんな会話を平気で交わして、さもカッコイイものかのように紙に載せてばら撒いている雑誌が憎かっ

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【ことばの栞】特別編|詩人・谷川俊太郎さん×ミュージシャン・ASKAさん対談より(2019.3.22)

【ことばの栞】特別編|詩人・谷川俊太郎さん×ミュージシャン・ASKAさん対談より(2019.3.22)

谷川 歌は初めから聴衆との交流がある。そこはすごく羨ましいところですよね。僕は詩よりも音楽の方が上だと思っている人間なんですよ。音楽がいちばん偉くて。

ASKA  なんででしょう。

谷川 意味がないから、音楽には。意味がないところで人を感動させるでしょう。子どもの頃から感動するのは音楽が先だったんですよ。それで詩を書き始めて言葉に出合って、言葉というのは困ったものだとずっと思っているんですよ。

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【ライブ感想文】「春、の歌を頼りに」折坂悠太ツアー2024あいず《4/17福岡DRUM LOGOS公演》

【ライブ感想文】「春、の歌を頼りに」折坂悠太ツアー2024あいず《4/17福岡DRUM LOGOS公演》

*おことわり
当日の記憶だけを元に書いています。曲目・曲順はその通りでなく、ライブレポ風ではありますが、あくまで個人の感想です。どうぞおおらかに見守っていただけますように。

開場、中へ入る。
フロアに流れるのは、ソウルやジャズが中心のジャンルレスな音楽。開演 30分前で、すでに結構埋まっている。まだ少し見える床の、白と黒の格子模様。白の部分が夕陽色に染まる。

ほの暗いステージの上には、サーキュ

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「あなたと話したい」〜昨年後半の、とても幸せな日々について。

「あなたと話したい」〜昨年後半の、とても幸せな日々について。

1.出会ってしまった

音楽家である彼と出会ったのは、去年の夏のこと。彼は音楽にあかるい人たちや、ほんものの言葉や表現を好いているような人たちから一目置かれた存在で、彼の歌や彼じしんを慕う人々が、この世にはたくさんいる。

私は数年まえから、彼の音楽を聴きはじめた。通勤の車の中や、お風呂の中で。怖くなったり心穏やかになったりしながら、ほとんど毎日を彼の音楽とともに過ごした。そうしてとうとう、彼に会

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エッセイのような詩「ギター」

エッセイのような詩「ギター」

ギターの音が、トゥルトク、ポコポコという水の泡に聴こえて、すっかり魚になった気分だ。透き通った浅い海の底にいる魚か、部屋の隅にある水槽の中の魚か。泡が、水をめぐらす。

ギターはほんものの木でつくられているはずなのに、水の泡は、人工的な音をしている。
海ならばダイバーが近くにいるような、水槽ならば酸素を排出する装置があるような。

私は水の中で、上からの屈折したあかるさを感じている。
上がりたい、

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「いのちはめぐる」Jacob Collier/DJESSE.4 〜ジェシー4部作の完結に寄せて〜

「いのちはめぐる」Jacob Collier/DJESSE.4 〜ジェシー4部作の完結に寄せて〜

重なり合う声で幕を開け、重なり合う声で幕を閉じたジェシー4部作。

はじめてその音に触れたときの踊り出したくなるような興奮と感動は、一度も止むことなく、とうとう終わりを迎えた。
そして、迎えたはずの終わりが始まりだったと分かるとき、すべてのいのちは循環し、永遠に続くのだという真理にたどり着く。

わたしの中で、わたしの外で、「全体」を形づくるそれぞれの「一部」が、互いにめぐり、めぐらせながら生きて

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折坂悠太らいど2023730/指宿 薩摩伝承館

折坂悠太らいど2023730/指宿 薩摩伝承館

木の濃い茶色が厳かな空気をかもす建物の中に、いくつも並んだきらびやかな白薩摩。
その間から、男はやって来た。

少し猫背ですたすたと歩き、ステージの真ん中に着いたところで顔をあげた。
客を向いた顔を目にした時、私は、あ、緊張するんだ、と思った。
何となく緊張しない人だろうと、勝手な想像を描いていた自分に気づいた。

ギターの前奏に続いて歌がはじまった。
私の身体中、穴という穴から汗が吹き出るのを感

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2020年大みそか

2020年大みそか

今日は年の瀬にふさわしく、すこぶる明るい一日だった。
朝、目が覚めると窓の向こうの屋根はまっしろ。
テレビで、新聞で、散々聞いた「九州でも大雪」の予報ほどではなかったけれど、久しぶりの、たしか3年ぶりくらいの雪と
心の中で「やあ!」とあいさつをした。

朝ヨガのち お茶漬けをすすり、
すこし落ち着いてから 年末恒例の鶏の煮付けを作る。
庭で採れたりっぱな大根は二股で、かわいいあの子が小さかった頃み

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