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Thank you for the music

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「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
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#thank_you_for_the_music について

「わたしの人生を豊かにしてくれてありがとう」の意を込めて、さまざまな音楽にインスパイアされ創作した短編小説やエッセイをお届けします。
#thank_you_for_the_music のタグからお探しくださいね。

(ちなみに“thank_you_for_the_music”は大好きなバンド、bonobosの曲からいただいた名前です)

【ことばの栞】2023/12/20
「歌い手とお客さんっていう感覚よりは、何か一つの課題に取り組んでいる同志のような、そんなふうな関係でいられたらうれしいなあと思っています」
(歌手・折坂悠太さん)

声、とは / 森山直太朗 20thアニバーサリーツアー 素晴らしい世界

声、とは / 森山直太朗 20thアニバーサリーツアー 素晴らしい世界

季節はすっかり秋深くなったこの頃ですが、今年の夏に私が体験した“きらめき時間”の中から、綴ってみようと思います。お盆の入り、8月13日に行われた森山直太朗さんのコンサート霧島市民会館公演を観に行ったことについて。

(※この先、演奏曲目などに触れています)

私の暮らす町からほど近い、霧島市民会館。国宝・霧島神宮を擁する、鹿児島県霧島市の市街地にあります。おそらくもう何十年も前に建てられた1フロア

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曽我部恵一エッセイ本「いい匂いのする方へ」感想

曽我部恵一エッセイ本「いい匂いのする方へ」感想

2日前、サニーデイ・サービスのライブに行って曽我部恵一さんのエッセイ本を買いました。そして本日、一気に読みました。感想を書いてみます。

最後まで読み終わり、もう一度パラパラと本をめくった。
あれ、あれ!? 
冒頭にある写真たちが、読む前に見たときと全然違って見える。

文章を読む前、曽我部さんのお家(たぶんだけど)が写っている!とわくわくして、そのおしゃれさにドキドキした。
電球色の灯りの下みた

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エッセイのような詩「ギター」

エッセイのような詩「ギター」

ギターの音が、トゥルトク、ポコポコという水の泡に聴こえて、すっかり魚になった気分だ。透き通った浅い海の底にいる魚か、部屋の隅にある水槽の中の魚か。泡が、水をめぐらす。

ギターはほんものの木でつくられているはずなのに、水の泡は、人工的な音をしている。
海ならばダイバーが近くにいるような、水槽ならば酸素を排出する装置があるような。

私は水の中で、上からの屈折したあかるさを感じている。
上がりたい、

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「いのちはめぐる」Jacob Collier/DJESSE.4 〜ジェシー4部作の完結に寄せて〜

「いのちはめぐる」Jacob Collier/DJESSE.4 〜ジェシー4部作の完結に寄せて〜

重なり合う声で幕を開け、重なり合う声で幕を閉じたジェシー4部作。

はじめてその音に触れたときの踊り出したくなるような興奮と感動は、一度も止むことなく、とうとう終わりを迎えた。
そして、迎えたはずの終わりが始まりだったと分かるとき、すべてのいのちは循環し、永遠に続くのだという真理にたどり着く。

わたしの中で、わたしの外で、「全体」を形づくるそれぞれの「一部」が、互いにめぐり、めぐらせながら生きて

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エッセイ「燃え殻」

エッセイ「燃え殻」

仕事からの帰り道、まあまあ長い運転時間に、スマホでradikoを開いた。くたくたの体でも聴けるようなテンションのものがいいなあ。検索しながら目に入ったのは、「燃え殻」さんの番組。なんとなく聴いてみようという気持ちになって、再生ボタンを押した。

ラジオでは、おそらく燃え殻さんが選んでいるのだろう音楽が流れ、彼自身によるエッセイの朗読があった。昔、テレビ局のバックヤードで働いていたこと、その頃は組織

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JACOB COLLIER / Little Blue リリースと新作アルバム完成に寄せて

JACOB COLLIER / Little Blue リリースと新作アルバム完成に寄せて

数日前から、コロナにかかりました。
はじめ、刺激の少なくなった日々に癒やされ、しだいに、生まれてくるネガティブがよどみとなって体に溜まるようになり。どうにも良くならない体調に、少しばかりあせります。

頭は痛いし、鼻がつまって息はできない。
なにより刺すような喉の痛みで、毎度の水分補給もゆううつです。

小さな画面を見ると気分が悪くなってしまうので、なるべくスマホを見ないようにしているのですが、音

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ジェシー1

ジェシー1

なにかがはじまりそうな、
もうすでにはじまっているような、
必要最低限の音でつくる静けさが
進みゆくなにかを待っている

張り詰めた空気と安らぎが同時にたゆたう中、
重なり合う声
心拍のごときリズム

からの、
爆発!で
エネルギーが一気に溢れだす

これは日本の古い民謡にあるメロディーではないのか
らっぱと笛によるファンファーレ、
うねりが連れていく先に差しこむのは


そこでついに歌!
言葉

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折坂悠太らいど2023730/指宿 薩摩伝承館

折坂悠太らいど2023730/指宿 薩摩伝承館

木の濃い茶色が厳かな空気をかもす建物の中に、いくつも並んだきらびやかな白薩摩。
その間から、男はやって来た。

少し猫背ですたすたと歩き、ステージの真ん中に着いたところで顔をあげた。
客を向いた顔を目にした時、私は、あ、緊張するんだ、と思った。
何となく緊張しない人だろうと、勝手な想像を描いていた自分に気づいた。

ギターの前奏に続いて歌がはじまった。
私の身体中、穴という穴から汗が吹き出るのを感

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2020年大みそか

2020年大みそか

今日は年の瀬にふさわしく、すこぶる明るい一日だった。
朝、目が覚めると窓の向こうの屋根はまっしろ。
テレビで、新聞で、散々聞いた「九州でも大雪」の予報ほどではなかったけれど、久しぶりの、たしか3年ぶりくらいの雪と
心の中で「やあ!」とあいさつをした。

朝ヨガのち お茶漬けをすすり、
すこし落ち着いてから 年末恒例の鶏の煮付けを作る。
庭で採れたりっぱな大根は二股で、かわいいあの子が小さかった頃み

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あのキラキラの方へ

あのキラキラの方へ

アップルミュージックでたくさんの音楽に出合って、最後に行き着くのはやっぱりスピッツ。

ああ、みずみずしいなあ。
輝いているなあ。
すべてが美しくて、言葉では説明したくない。

いろいろな音楽に出合うことはとても大切。
他を知るからこそスピッツに戻ることができるし、大好きな気持ちはますます膨らむ。

聴くほどに新しい発見をくれる。
その時その時にふさわしい、毎回違う感動をくれる。
本当に魔法のよう

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おやすみ



どうしたの ねむれないの

ほらみてごらん
おかあさんだよ
あなたにそっくりね

おめめ、はれてるの?
かみの毛がいっぱいだね
おじぞうさんみたい
おねんねしてる

うん、とてもきもちよさそうね

たくさんたべて
たくさんあそんで
たくさんねむるのよ

うんちもおしっこも
わらって おこって ないて
あなたもいそがしいね

しかられても できなくても いいのよ
たのしいことをたくさんするのよ

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月明かりの下で

 さっきまでおえつを堪え号泣していたのが嘘みたいに、彼女はケラケラと笑い半歩先を歩く。
「ライアン・ゴズリングのダンス、ぎこちなくて最高だったねー!」
と、たまに振り返りながら。

夜に外出するのは久しぶりとあって「なんか良さそう」とあらすじをよく確かめず映画に誘った。予想に反し決してハッピーエンドとはいえないストーリーの展開に僕はもやもやを抱えてしまったのだけれど、彼女はとても満足そうだ。

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