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歴史本書評

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オススメ歴史本の読書記録。日本史世界史ごちゃ混ぜです。
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#書籍

【書評】藤えりか「ナパーム弾の少女 五〇年の物語」(講談社)

【書評】藤えりか「ナパーム弾の少女 五〇年の物語」(講談社)

 ベトナム戦争中の1972年、ある写真が撮影されました。「戦争の恐怖」と題された一連の写真ですが、ナパーム弾で服を焼かれ、大火傷を負った少女の写真が突出して有名です。

 罪のない子供に犠牲を強いる戦場の現実を伝えたこの写真は、世界に衝撃を与えました。ベトナムでの苦戦に加え、世界的に反戦運動が広がったことで、アメリカはベトナムから撤退することになります。

 歴史を変えた写真といえますが、写真の詳

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【書評】松尾謙次『日蓮』(中公新書)

【書評】松尾謙次『日蓮』(中公新書)

 日本史の教科書の鎌倉時代の章では、新しい仏教の開祖と宗派に字数が割かれています。
 法然の浄土宗、親鸞の浄土真宗、一遍の時宗、道元の曹洞宗、栄西の臨済宗、日蓮の日蓮宗(法華宗)……という組み合わせを嫌々暗記した人も多いと思います。

日蓮の激しい他宗批判 その中でも、日蓮はかなり強烈な個性を放っています。日蓮は、法華経こそ仏の最上の教えであるとし、「南無妙法蓮華経」の題目を唱えれば救われると説き

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文学からパレスチナ問題を知る①~G・カナファーニーの生涯

文学からパレスチナ問題を知る①~G・カナファーニーの生涯

 イスラエルによるパレスチナのガザ地区に対する攻撃は、極めて深刻な人道危機となっています。イスラエル・パレスチナ紛争は毎日のようにニュースの見出しに登場しますが、詳しくは分からないという人が多いと思います。

 イスラエル・パレスチナ紛争の入門的知識については、是非下記をお読みください。

 さて、歴史家や国際政治学者、ジャーナリストなどが書いたノンフィクションとしての本を読むことも大切ですが、小

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【書評】『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店)

【書評】『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店)

 SNSやYouTubeなどでは、しばしば「ナチスは良いこともした」という話を見かけます。

 第二次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人の虐殺を行ったナチスは、学校ではもちろん悪として教えられます。

 一方、歴史教科書では研究の進展に伴って記述が変わることがあります。教科書の内容が絶対というわけではありません。

 また、「学校では教えない(教科書には書いてない)○○」というコンテンツには一定の需要

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【書評】乃至政彦「謙信×信長 手取川合戦の真実」(PHP新書)

【書評】乃至政彦「謙信×信長 手取川合戦の真実」(PHP新書)

 上杉謙信が戦った相手といえば、川中島の戦いでの武田信玄がまず思い浮かぶでしょう。織田信長の戦った相手ならば、今川義元や武田勝頼らが出てくるはずです。

 そうした中で、「謙信対信長」の戦いがあったことを知っているのは、ある程度戦国史に詳しい方だと思います。

 それは、天正5年(1577)に加賀で起きた「手取川合戦」です。川中島の戦い、桶狭間の戦い、長篠の戦いなどと比べると知名度は高くありません

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【書評】ジョン・リード「世界を揺るがした10日間」(光文社文庫)

【書評】ジョン・リード「世界を揺るがした10日間」(光文社文庫)

 1917年、ロシア革命が勃発し、史上初の社会主義政権が誕生しました。アメリカのジャーナリストであるジョン・リードが、ロシア革命の模様を記録したルポルタージュが「世界を揺るがした10日間」です。 

 ロシア革命は、二月革命と十月革命の二段階に分かれています。第一次世界大戦による食糧不足等を原因として首都ペトログラードで暴動が起き、皇帝ニコライ2世が退位。自由主義の臨時政府が成立しました。これが二

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【書評】望月昭秀編「土偶を読むを読む」(文学通信)

【書評】望月昭秀編「土偶を読むを読む」(文学通信)

 2021年4月、「ついに土偶の正体を解明した」という触れ込みで、「土偶を読む」という書物が出版されました。

 土偶の形状や模様がクリやトチノミなどに似ていることから、「土偶の正体は、縄文人たちが食物としていた植物だ」と述べ、大きな反響を呼びます。

 ところが、考古学の専門家たちから見ると、その論証には穴が多く、「土偶の正体を解明した」というには程遠いといいます。

 本書は、「土偶を読む」の

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【書評】中谷功治『ビザンツ帝国』(中公新書)

【書評】中谷功治『ビザンツ帝国』(中公新書)

 ビザンツ帝国(東ローマ帝国)について、一般的な日本人が知っていることはほとんどないでしょう。コンスタンティノープル(現イスタンブール)を首都として、現在のギリシャやトルコのあたりにあった国です。

 本書の冒頭では、ビザンツ帝国を次のように定義しています。「コンスタンティノープルを首都とし、キリスト教を国教とする、ローマ帝国の継承国家」。

ビザンツ帝国の扱いは不当に軽い? 日本の歴史教育では西

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【書評】桜井万里子・本村凌二『世界の歴史5 ギリシアとローマ』(中公文庫)

【書評】桜井万里子・本村凌二『世界の歴史5 ギリシアとローマ』(中公文庫)

 いうまでもなく、ギリシアとローマは西洋文明の源流です。現代日本の制度や価値観は西洋に負っているものも多いため、間接的に私たちの源流であるともいえます。

 とはいえ、空間的にも時間的にも遠いギリシアやローマの歴史を学ぶのはハードルが高い面があるのも事実です。本書は、そうした古代地中海世界の歴史を学ぶのに格好の入門書であると言えます。

 長大な歴史を一冊にまとめているため、やや駆け足の説明になる

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【書評】西股総生『杉山城の時代』(角川選書)

【書評】西股総生『杉山城の時代』(角川選書)

 埼玉県の比企地方に、杉山城という中世城郭があります。建造物のない土の城ですが、完成度が高いため城マニアの間で「知る人ぞ知る名城」になり、最近ではテレビなどに取り上げられるようになりました。

※訪問記事はこちらです。

 しかし、杉山城について記した文献は乏しく、誰が築いたのかについては謎に包まれてきました。この杉山城の謎に迫ったのが本書『杉山城の時代』です。

2000年代に登場した新説 この

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【書評】庄司潤一郎・石津朋之編『地政学原論』(日本経済新聞出版)

【書評】庄司潤一郎・石津朋之編『地政学原論』(日本経済新聞出版)

 大きめの本屋に行くと、「地政学」をタイトルに冠した本が多く売られているのに気づきます。国際政治を地理条件から読み解くという便利さ、明快さが「地政学」の魅力でしょう。

 一方、学術的な批評に耐えうるだけの書籍を見つけるのは難しいはずです。内容はあまり地政学と関係ないのに、タイトルに「地政学」と名付けてあるケースもあります。地政学の語が入っていれば売れる、という出版社の判断でしょう。

 
 安全

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