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#創作大賞2024
おーい!落語の神様ッ 第一話
紋付羽織袴姿の男が深夜の浅草を千鳥足で歩いている。この街の人達は気にもとめない。「どうせまたどっかのバカが飲み過ぎたんだろう」と見て見ぬふりをしてくれる。
どっかのバカの正体は、この秋二ツ目から真打に昇進が決まっている落語家の紅葉家咲太、三十四歳。落語の世界ではまだまだひよっこの若手だ。なけなしの金をパチンコで擦って、ツケでやけ酒を飲んだ帰りだった。
「ちくしょう。死んでやる。死んでやるぞ」
花畑お悩み相談所 プロローグ
プロローグ
寝る前にスマホを見ないのは、良い眠りのためのお約束だそうだ。
そう言われましても。若い頃からずっと夜型で、寝室へ向かう前に最後のメールチェックをしてしまう。退職した今でも、その習慣は変わらない。富原律子は老眼鏡をかけると、スマホの画面をタップする。
深夜のリビングに、かすかな金属音が届く。家の前の空き地に、マンション建設が始まっていて、今夜は突貫で電気工事をすると知らされていた
【#創作大賞2024】骨皮筋衛門「第一章:我が名は骨皮筋衛門」(2252字)
第一章「我が名は骨皮筋衛門」
帳面町の犯罪発生率約0%。
この驚異的数字はある男の活躍により達成した数字である。その男の名前は骨皮筋衛門、令和のヒーローと呼ばれる潜入捜査官だ。首都東京から遠く離れた帳面町は元々のどかな地方都市であったが、骨皮家がこの地を支配するようになってから犯罪が極端に減った。
骨皮家は悪を憎み平和をこよなく愛する一族である。平民という立場でありながら時の権力者の懐刀とし
夢と鰻とオムライス 第1話
◇
飛んできたのは五百円玉だった。
よりによって一番攻撃力の高そうな硬貨の側面が、俺の眉間に命中したのだ。
鋭い痛みが目頭から眼球の裏へと伝わり、泣きたくもないのにじわりと涙が滲んだ。
「いってぇ……」
俺は両手で目を覆い隠した。痛みのせいで勝手に湧いてきた涙をそれとなく拭って、顔を上げる。
「何すんだよ!」
渾身の力を込めて睨みつけると、ほんの一瞬だけ、兄はうろたえた表情を見せた。
小説★アンバーアクセプタンス│序章
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序章
少年アンバーと夜空ストロー
地球の西暦は二〇四六年。
宇宙暦? そんなSF映画みたいな年号は使わない時代のお話。
★
戦前も戦後も地球の人たちの対立構造はそう変わらないようだ。だけど宇宙船・飛車八号の船内コロニーでは、基本的にみんな仲良くなれる環境が保たれていた。特にぼくの通う学習センターと付近の地区は治安が良い。本船が鹿児島から打ち上げられた二〇四二年以降
花畑お悩み相談所 第一話
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悠人からのメール (1) 赤いスカーフの女
紅子はカゴを抱えて歩きます。小さな頃は重かったものが、もうすぐ十三になろうという今は、片手で持ってスキップでもできそうでした。
けれどもそんなことはしません。中には、おばあさんに届けるケーキとワインが入っているから、揺らさないよう、石につまづいたりしないように気を配りながら山道を行きます。
真っ赤なスカーフで顔を巻き、
【連載小説】「北風のリュート」第1話(#創作大賞2024/#ファンタジー小説部門)
第1話:遠いうねり
そこは世界の蝶番のような場所だった。
東と西の大地の深くえぐれた裂け目は、太古の昔に一頭の巨大な龍がつけた爪痕だと伝えられている。底なしの谷から唸り声をあげて天へと疾風が舞い上がるのを風の龍と呼んでいた。竜巻と呼ぶものもいる。
七の新月の夜になると羽毛のような雪が降り始める。
北風がその大いなる翼で大地と地に棲む人々を翻弄するころ、北風に乗ってやってくるものがいた
残夢【第一章】①手錠
女は髪を振り乱して俺から逃れようともがく。手首は白くて折れそうに細い。
俺はそのコートから伸びでた手首を素早く掴んで捻りあげ、女がそれ以上抵抗できないようにブロック塀に体を押し付ける。
「イヤッ……」
小さく息を漏らした女のおくれ毛は汗ばんだ頬に張り付き、思うように身動きの取れなくなった上半身を必死に動かし振り向こうと再び藻掻く。
抵抗しても無駄だ。
俺は必要最小限の力を込め女にそれ