皐月まう

どこにでもいる社会人2年生(24)。夫と猫と暮らしています。 縁があるのは琵琶湖と日本…

皐月まう

どこにでもいる社会人2年生(24)。夫と猫と暮らしています。 縁があるのは琵琶湖と日本海と瀬戸内海。 小説、エッセイ集販売中▶ https://hurry-neko.booth.pm/ わたしの庭▶ https://sizu.me/maumau_5

マガジン

  • まうセレクション

    初めましての方にも、お久しぶりのあなたにも。個人的なお気に入りと選ばれたものたち。気まぐれに入れ替えます。

  • まうの思考回路

    エッセイもどきと、何やらいろいろ考えてみたもの。増えてきたのでそろそろ細分化したい。

  • 【小説】パン屋 まよなかあひる(全8話)

    瀬戸内の街で繰り広げられる、パンと親子の物語。創作大賞2024応募作。本編とありがたき感想記事をまとめています。

  • まうの物語

    単発の小説のみでまとめています。連載小説は1話だけ。(個別にマガジンがあります) 気になるものを覗いてみてください。

  • まうの本棚

    読書感想文、読書エッセイもどき、その他本について書いたこと。

最近の記事

終わってくれるなよ、夏。

夏の終わりが名残惜しい。こんな感情、いったい何年ぶりだろうか。昼間こそまだ灼熱の日々が続くとはいえ、今年は早くも心地のよい夜が増えてきた。暦通り、順当に季節が巡っていることにかえって戸惑いが隠せない。でも、そうだった、夏って本来こんなにも短いのだ。 もう少し待って、夏。せめて余韻に浸らせておくれ。今、私の心は夏に向かって吠えている。 花火が上がった。周囲からわあっと声が上がる。潮風がひんやりと頬を撫で、心臓の奥でどん、と音が轟いた。最初の花火の最後のきらめきが、夜空を儚く

    • 私は私の本を作った。

      我が家の本棚には、皐月まうと書かれた本が4冊並んでいる。どれも私が世に出した、私の本たちだ。同人誌とはいえ、プロの小説のように装丁が本格的ではないとはいえ、胸を張って私の本です、私の作品です、と言えるものたちだ。 本を作ろうと決めたのがいつのことだったか、今となってははっきりと覚えていない。 noteのフォロワーさんが文フリで本を売りはじめた頃だったかもしれない、はたまた一緒に本を出さないか、と文学フリマ出店に誘ってもらったときだったかもしれない。 でもそれよりもっとずっ

      • ソーラン節の花嫁

        2ヶ月で3キロ太った。体重計の上で思わず、「しにて〜」と声が漏れる。あまりよろしくない言葉のチョイスだけれど、この瞬間の感情を的確に言い表すには最もふさわしい言葉だった。 でっぷりと横に広がった尻(うちの猫といい勝負)、尻とほとんど幅の変わらない太もも、子供のようにぽこんと膨れた腹。見苦しい。お風呂の鏡に映る自分の姿が、あまりにも見苦しくて悲鳴を上げた。いつだ、いつからだ? いつから私はこんなに情けない身体で生きていた──? 「来とるなあとは思いよったんよ」 夫はようやく

        • お祭り最終日、早くも息を切らしたり。

          ようやく訪れたか、停滞が。 日本の灼熱の暑さとともに、私の中で燃え盛っていた炎はふっと蝋燭の灯火へと変化を遂げた。そのことに、不思議と焦りも寂しさも感じなかった。むしろほっと胸を撫で下ろしていた。 自分の中で日々増していく推進力には、もはや恐れをなすほどだった。この半年間、月に10冊以上という個人的には怒涛のペースで本を貪り読み、カービィのごとくあらゆるものを吸収し、noteに毎週上げる記事のネタにも事欠かなかった。ぐんぐんぐんぐん突き進んでいた、何に向かってとか、なんの

        終わってくれるなよ、夏。

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        記事

          日本一好きな街から生まれた物語

          私の日本一好きな街。好きすぎて休日ドライブするたびに訪れ、地元の友達が遊びにくると必ず案内し、ついにはそこを舞台にした小説まで書いてしまった街。 尾道が好きです。大好きです。行ったことのある人にならきっと伝わるはずですが、不思議と何度も訪れたくなるあの魅力、なんなのでしょうか。 古くから地域に根ざした店がどっしりと軒を連ね、新しいお店からもこの地への心からの愛を感じます。愛に溢れる街。その街並みを平然と猫が歩き、瀬戸内海が守っている。何十年も前から変わらないのであろう、ど

          日本一好きな街から生まれた物語

          慈しむべき壁、越えなきゃわたし、

          事務所に赤ちゃんがやってきた。生まれたての、ふにふにの、すやすや眠る赤ちゃん。弊社は家族経営の会社で、社長たちの弟夫婦が赤ちゃんを見せに来たのだった。社長たちの父親の前社長も今日は出社していたので、事務所はさながらお正月の実家のような盛り上がりを見せている。 2600gの赤ちゃん、想像以上に小さくてびっくりした。確か私も同じくらいで生まれた。こんなに小さくてか弱かったのか。これからすくすく育っていく赤ちゃんの成長を思うと、人間ってすごい、というか赤ちゃんってすごい、と圧倒さ

          慈しむべき壁、越えなきゃわたし、

          チェックアウト12時の素晴らしさ

          ホカンスしました、in神戸。 時は6月下旬、大雨予報の休日。相方は高校時代から腐れ縁のようにつるんできた友人だ。 関西人のくせに、地元からなら電車一本で行けるのに、そういえば二人では行ったことのなかった神戸。当日、それぞれ反対方向の電車に乗って三宮に集合した。 天気予報はあいにくの雨だけれど、私たちの足取りは軽い。なにせホカンスなのだから。快適ホテルが、私たちを待っているのだから。 三ノ宮駅から10分ほど歩くと現れたのは、洋風のかわいらしい外観の建物。私たちの今夜の宿、「

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          苗字が変わって3日間

          一日目、非常に疲れた。 朝から社内外への結婚報告に追われる。わざわざ自分から話題を切り出して祝われに行くのは気疲れがする。本来の目的は祝われることではなく、苗字変更に関する業務連絡にすぎない。とはいえ相手はどうしたって祝うしかない流れになるし、祝われるのは素直に嬉しいけれど、なんだか申し訳ない。お手間をとらせてしまい。 私は自分が注目を浴びることが好きではないので、できればひっそりと、知られざる者として空気のように生きていたいとすら思う。社内でも数少ない若手で、さらに少な

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          あとがき:あの街とか飯テロとか、若き希死念慮とか、

          今回こそはエンタメ一直線に走ってやろう、執筆中ですら何度も決意し直したのに、どうも私はシリアスを持ち込まないと我慢ならないようです。読むのも書くのも軽すぎると物足りない派、まうです。でも、明るいお話にはなりました。 結果的にエンタメ寄りだけど徐々に自分の癖を全開にしていったのですが、いかがでしたでしょうか。多少は楽しんでいただけましたでしょうか。私は4話と6話以降が好きです。ところでお仕事小説部門でいいんですかこれ。 なんの話やねん、という方はお時間頂戴しますがこちらをご

          あとがき:あの街とか飯テロとか、若き希死念慮とか、

          【小説】パン屋 まよなかあひる(8/8)くろくてまるい

          最初の話 前の話 第8話(最終話)くろくてまるい  リッカさんの娘、つまり正真正銘の「リッカさん」は、本当にまよなかあひるにやってきた。 「へえ、呼べば来るもんなんだね」 「人をデリバリーみたいに言わないでくれる?」  リッカさんの娘──簡潔にリッカちゃん、と呼ばせてもらおう──は、リッカさんに悔しいほどよく似た美少女だった。勝ち気な印象を与える大きな二重瞼につんと尖った細い鼻筋、さりげなく上品に上がった口角までそっくりだ。ただ、ピアスで埋め尽くされた両耳と露出度の高い

          【小説】パン屋 まよなかあひる(8/8)くろくてまるい

          【小説】パン屋 まよなかあひる(7/8)マフィンと記憶

          最初の話 前の話 第7話 マフィンと記憶  とても美しい記憶ばかりではなかった。だけど、人生そんなものだとも思う。  私が渾身の力で説得したからか、リッカさんは今すぐの閉店は思い留まってくれたらしい。そして私はしばし、まよなかあひるのお休みをいただくことにした。リッカさんと交換条件のように約束した、故郷に帰るためだ。  猫峠の扉を開いたのは、出発直前の夜のことだった。ちりんとドアベルが鳴り、あの日嗅いだのと同じ、アルコールの混じった上品な香りに包まれる。愛貴くんに連れ

          【小説】パン屋 まよなかあひる(7/8)マフィンと記憶

          【小説】パン屋 まよなかあひる(6/8)冷ややかトースト

          最初の話 前の話 第6話 冷ややかトースト  店を畳もうと思う。確かにそう聞こえた。私がここに来た春からちょうど季節がひと巡りしそうな、冬の終わり際のことだった。まよなかあひるの食パンを使ったトーストとコーヒー、それからサラダで構成された仕事終わりの朝ごはんを間に挟み、私たちはいつものようにテーブルで向かい合っていた。ひんやりとした日差しが手元に落ちていた。 「どうして? うち、十分繁盛してるじゃないですか。常連さんも何人もいるのに」 「そういう問題じゃないんだよ」 「

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          【小説】パン屋 まよなかあひる(5/8)だいすきクリームパン

          最初の話 前の話 第5話 だいすきクリームパン 「パンなんか好きじゃないもん、あたし」  少女は不満げに、おばあちゃんに駄々をこねている。その様子を、私とリッカさんはさりげなく観察していた。もちろん、見て見ぬふりをしながら。けれど彼女たちに対する私たちの好奇心は、ひょっとすると隠しきれていなかったかもしれない。  深夜営業の店にとって、子供と老人は言うまでもなく最も遠い存在だ。朝に寝て夜に起きる、この上なく人間らしからぬ生活が許されるのは少なくとも彼女たちではない。

          【小説】パン屋 まよなかあひる(5/8)だいすきクリームパン

          【小説】パン屋 まよなかあひる(4/8)ダークチェリーデート

          最初の話 前の話 第4話 ダークチェリーデート 「あひる? それ、源氏名なの?」  そう聞かれたのが始まりだった。まさか、と口にしようとしたら先にリッカさんが派手な笑い声を上げ、私は何も言えずに固まるしかなかった。今思えば、相当面白みのないやつに見えたことだろう。 「源氏名なんて大層なもんじゃない、あだ名だよあだ名」  笑いの止まらないリッカさんをぽかんとした顔で見つめていた丸い瞳は、今でもよく覚えている。  さて、彼がまよなかあひるを訪れた何度目かの夜のこと。 「い

          【小説】パン屋 まよなかあひる(4/8)ダークチェリーデート

          【小説】パン屋 まよなかあひる(3/8)安眠芋パイ

          最初の話 前の話 第3話 安眠芋パイ  布団をぎゅっと抱きしめて、暮れゆく街の音を聞く。窓のすぐ下は観光客の花道なので、ラーメン屋に並ぶ人々のざわめき、若い女の子グループの甲高い声、子供が駄々をこねる声なんかがよく響いてくる。それらが徐々に引いていき波の音の方が目立つようになれば、外を見ずとも夜のはじまりがわかる。  漠然とした孤独感。今まで靄のように漂っていた薄暗い気持ちに名前をつけると、気休めのようだけれど、それでも多少は靄が晴れていく。昼間よりも、夜のほうが意識が

          【小説】パン屋 まよなかあひる(3/8)安眠芋パイ

          【小説】パン屋 まよなかあひる(2/8)ごめんねバゲット

          最初の話 第2話 ごめんねバゲット 「そいじゃ、あひる。そろそろこの店の仕事を覚えてもらうぞ」  一週間ほど働いたある日、出勤早々リッカさんが腕まくりをしながらやってきた。結局私はこのあだ名をつけられたときから、ずっとあひると呼ばれている。  店の名前は、「パン屋 まよなかあひる」に決まった。ここが深夜に開く店で、それから私の名前をもじって店の名前に使うと店主のリッカさんが決めたからだ。私はたまたま訪れた店のお客第一号だっただけで、この店どころかこの街にすら縁もゆかりもな

          【小説】パン屋 まよなかあひる(2/8)ごめんねバゲット