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まうセレクション

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初めましての方にも、お久しぶりのあなたにも。個人的なお気に入りと選ばれたものたち。気まぐれに入れ替えます。
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愛してるぞ、フォロワー!

私ほどフォロワーを愛している人間はいないと思う。フォロワーには一生頭が上がらない。フォロワーがいなければ私はとっくにnoteの世界から足を洗っていただろうし、文章を書くことすら諦めていたかもしれない。フォロワーは偉大だ。親の顔より見たフォロワー。 noteでは「いつもありがとうございます🌷」だなんて言っているけれど、心の中はいつだって「愛してるぜ!!!!!」の雄叫びの嵐だ。それはもう野太い声で叫んでいる。そしてスキをもらうたびにその1000000倍くらいのパワーで「スキ!!

不真面目に真面目、まだちょっぴり反抗しつつ。

帰り道、車内に湿っぽい熱がこもっていたので、久しぶりに窓を開けて走る。最初はぬるく、徐々に爽やかな風が車内を通り抜けていく。こういうのを小春日和というのだろうか、なんて呑気に考えていたら、いよいよ本物の春が来るみたいだ。 あたたかい。あたたかいのはいいことだ、とても。だけど、いつまでもぬるま湯に浸かっているのはよくないことらしい。 今週末で、働きはじめて一年が経つ。一年間、私はそれはもうのんびりゆったりと働いてきた。苦労を重ねる23卒の皆様に顔向けできないくらい、いたって

チェックアウト12時の素晴らしさ

ホカンスしました、in神戸。 時は6月下旬、大雨予報の休日。相方は高校時代から腐れ縁のようにつるんできた友人だ。 関西人のくせに、地元からなら電車一本で行けるのに、そういえば二人では行ったことのなかった神戸。当日、それぞれ反対方向の電車に乗って三宮に集合した。 天気予報はあいにくの雨だけれど、私たちの足取りは軽い。なにせホカンスなのだから。快適ホテルが、私たちを待っているのだから。 三ノ宮駅から10分ほど歩くと現れたのは、洋風のかわいらしい外観の建物。私たちの今夜の宿、「

本を作り、出会うこと。と、通販開始。

熱気、熱気、熱気。今朝の気温などなんのその、会場は人の熱気に包まれていた。「溺れる猫と針の生えた鼠」として、いよいよ果たした文学フリマ初出店。暑さで澱んだ空気にすら、私は言いようのない高揚感を覚えていた。 隣には文フリ経験者のカナ猫さんがいてくれるので心強い。2ブース分の長机をゆったりと使い、主にカナ猫さんの持参してくれたかわいいアイテムを飾ると、みるみるうちに私たちのお店が完成していった。 私たちのブースは入口から遠いので最初こそ落ち着かずきょろきょろしていたものの、一

目標:一人で東京の街を歩ける女になる

人間が多い、と何度もつぶやいた。首をめいっぱいに反らすまで、大きくて高いビルを見上げる。夜行バスを降りたばかりの早朝でも、もう街は動き出している。一年ぶりに訪れた東京はやっぱり東京で、私は相変わらずの田舎者だった。 私の隣で大きなバッグを抱える彼女は、来年の春から東京の人になるらしい。ディズニーチケットの期限が切れてしまうからと突然この旅行に誘われたのだけれど、私たちが会うのは久しぶりで、そういえば二人で遠出するのなんて初めてだった。 入社先のイベントがある彼女とは、2日目

【小説】はじまりの赤、週末の

 美世ちゃんの部屋からは、週末のお母さんの匂いがした。 「この筆をね、こうやって使って、塗るの」  美世ちゃんが左手に持つ小瓶には、毒々しい赤い液体が詰まっている。蓋をひねってゆっくりと持ち上げると、小瓶の中から蓋につながる真っ赤な筆が顔を出す。 「ああ、垂れちゃう」  言いながら、美世ちゃんは右手でつまんだ筆を左手の親指の、爪に乗せた。どろどろが溢れ、美世ちゃんの爪を越えて指にまで広がり、ぼたりと滴った。美世ちゃんの部屋の白いカーペットが、目を見張るほど鮮やかな赤に染まる。

パン屋の匂いは紙袋の匂いであれ。

一歩踏み入った瞬間、空気が変わった。それは空気というより世界が丸ごと変わったかのような、異国の地に迷い込んだような感覚だった。 目の前に広がるのは、一面のパンの海。様々な色や香りのパンたちが、行儀よく顔を並べて迎え入れてくれた。 胸いっぱいに息を吸う。鮮やかな懐かしさとともに、焼きたての匂い、パン屋の匂いが身体中に広がった。 大学時代をパン屋バイトに捧げたほど、私はパンという食べ物の虜だ。朝ごはんはパン派、お弁当代わりに持っていくお昼もパン、夜はさすがに白飯だけど、おやつ

別れはとっくに済ませてしまったから、おめでとう。

近所の土手を散歩していたら、菜の花が咲いていた。土手のほんの僅かな部分だから菜の花畑、とまでは言えないけれど、その一面だけは堂々たる春の装いをしている。ミツバチもたくさん蜜を吸いに来ていて、春を喜ぶのは人に限らないのだと密かに納得した。 慣れない道を覚える手っ取り早い方法は、歩くことだと思う。初めての土地に来てまだほんの数週間の私は、数歩先の近所の道すらあやふやだ。だからこうして、天気のいい日は散歩をする。 自転車や車では見逃してしまう一瞬の風景も、時速4kmでじっくりと眺

noteのタイトル至上主義

タイムラインに並ぶ記事の、最初の数行を読むのが好きだった。私にとってはタイトルそのものではなく、そこに何が書かれているかの方が重要だ。 最近になって、noteのタイムラインは明らかに様変わりしたと思う。なんというか、悪い意味で世の中の流れにうまく乗ってきたというか。ああ、結局君たちもそこに染まってしまうのね、という思いが先立つ。 流行りのTikTok、映画のストーリーを5分でまとめたYouTube動画、読書をしない人たち、早送りで観る映画。世の中ではどんどん短く、どんどん

まるで幻のような

人生、何があるかわからない。ほんの数ヶ月前には想像すらしていなかった現実を、今こうして生きている。 結論、私はあの人から何一つ得ることができなかった。SNS上では幸せそうに見えていた、いや見せていたのは、それっぽく脚色して自分を納得させるため。これでいいんだと無理やり妥協するためにすぎなかった。 つまり、この場所で私は嘘をついていたことになる。申し訳なくは感じていたのだけれど、ごめんなさい、それでもやっぱり、そうしなければ私は私でいられなくなるくらい、追い詰められていたの

喪失と銀色、

金属製の食器を洗っているときの、銀色の匂いが苦手だ。 洗い物という作業は不思議なもので、溜まっているのを見ているときはとても手をつけたくならないくせに、いざ始めてみると鼻唄を歌いだしたくなるくらいには楽しい。 洗剤は割と躊躇なく使ってしまうので(SDGs的にはよろしくない、今風に言ってみた)たっぷりと泡に塗れた食器の一つひとつを、指先がうたうまで丁寧に磨く。そしてシンクが地道に洗われていくのを眺めていると、私の中に溜まっていた感情の残りかすも気がつけば落ちている。 淡々

わたしがわたしを生きるために

苦しみの海底を泳ぎ、朝を迎えた。 ろくに眠れない日々が続いている。眠れたとしてもほんの数時間で、浅い夢を何度も見たあと目覚めてからは再び眠れなくなる。じくじくとした思考が胸を渦巻く。そして祈るように、朝が来るのを待つのだった。 三日三晩泣き腫らしたあと、ようやく自分を奮い立たせ、三日連続で出かけることにした。普段は用事さえなければ引きこもるわたしが、わたしのために外の世界へ繰り出す。 お気に入りの服を着て、とびきりのお化粧を施した。誰のために? 自分のために。わたしだけ

願いの音とともに、10年の時を想う。

そこに広がるのは、やさしい願いの音。 演奏しながら泣いたことなんて、今までに一度としてなかった。吹き込む息が震えて、だけど音は出さなきゃいけなくて、ぐちゃぐちゃになる感情。奏者は常に冷静でいなければならないというのに、明らかにいつもと違う周りの空気に制御ができなくなってしまった。 こんな本番は初めてだ。奏者ながらに大きく心を揺さぶられた先日の演奏会について、もうひとつだけ語りたいことがある。2021年という年の最後だからこそ、書いておきたいことだ。 演奏会のアンコールで

【小説】無音の音

 カシュ、とプルタブを開ける音が響き、こっこっこっ、と小気味よい音を立てながら喉仏が上下する。今夜は暑い。暑いくせに窓を閉めきって、エアコンもつけずに僕らは黙々と缶ビールに口をつける。  空間が無音になる瞬間、音はないはずなのに、耳の奥ではみぃんと音が鳴っている。この無音の音が無性に好きで、嫌いだ。皺ひとつない空気が僕らの隙間を満たす。  僕だって、別に好き好んでお通夜みたいな顔をしながらアルコールを摂取しているわけではない。事の発端は絶対にこいつ、薫のせいだ。深夜に突然