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苗字が変わって3日間

これは結婚して3日後に書いたものです。
あれいつの間に?って方はこちらの記事をご参考までに。


一日目、非常に疲れた。

朝から社内外への結婚報告に追われる。わざわざ自分から話題を切り出して祝われに行くのは気疲れがする。本来の目的は祝われることではなく、苗字変更に関する業務連絡にすぎない。とはいえ相手はどうしたって祝うしかない流れになるし、祝われるのは素直に嬉しいけれど、なんだか申し訳ない。お手間をとらせてしまい。

私は自分が注目を浴びることが好きではないので、できればひっそりと、知られざる者として空気のように生きていたいとすら思う。社内でも数少ない若手で、さらに少ない女性ではあるのだけれど、私はこの1年間できるだけ目立たないように過ごしてきた。しかし結婚という一大イベントを迎えてしまったら、男性ならまだしも私は苗字が変わる女性なので、息を潜めてもいられないのである。仕事に支障を来たしてしまうから。

旧姓のまま働き続けてもよかったのだけれど、この街で私を苗字で呼んでくれるのは職場の人たちしかいないから、旧姓のまま呼ばれ続けるといつまで経っても独身気分でいてしまうような気がした。公私混同させたいわけではないけれど、公私が乖離しすぎるのもなんだか居心地が悪い。それにいうて1年しか働いてへんし、とも思う。1年間で旧姓の私は社内にすっかり浸透したようだけれど、もう1年かければ新しい苗字も勝手に馴染んでいくだろう。


二日目、社内にじわじわと噂が広まりつつある。

一日目に私が報告したのは事務所のメンバーとよく関わる工場のおじさん数人だけだったのに、直接伝えた覚えのない人たちにも祝ってもらえた。この会社の噂の広まる速さは凄まじく、私はそこに頼っているところがある。おしゃべりなおじさんから真っ先に報告しておけば、私の力が及ばずともみんなに情報が知れ渡っていくのだ。

早速内線で「皐月(新姓)です」と名乗ってみて、「おお、なんか慣れへんなあ」「うふふふふ」なんて初々しいカップルみたいなやり取りを繰り広げた、おじさんと。このおじさんは生まれも育ちも中国地方のはずなのに、なぜか中途半端な関西弁を使う。入社当初は普通に同郷かと思った。

取引先に苗字変更のメールを送ったら、数名からほっこりとする返信が来た。普段は業務連絡しかしない関係の相手なので、なんだか新鮮でくすぐったい。いつもなら絶対に使わない「!」や「♪」を仕事中に見ることができて、苗字が変わるのも悪くないなと思う。

私に対するセクハラジジイと呼ばれている(セクハラはされたことがない、たぶん。私は気に入られているのをいいことにこき使っている)品質管理のおじいちゃんに報告したら、「えー! 甥っ子紹介しよう思いよったのにー!」と残念がられた。本当にそういうことあるのか。


三日目、新姓は発音しにくい。

毎日のように旧姓で呼んでくれていた人たちが、だんだんと新姓に慣れてきた様子。というか、旧姓がもう旧姓だった、と思い出してくれるようになった。物事の馴染みというものは、案外すんなりいくものだ。私も初日に比べたら新姓で名乗ることに違和感を感じなくなってきた。だけどまだ意識して名乗らなければならないので、ちょっと恥ずかしい。

ただ、新しい苗字は発音がしにくいし、聞き取りもしにくい。リアルの私の苗字は皐月ではないけれど、発音のしづらさ加減は「皐月」とよく似ている。「苗字、皐月になりました」と言ったら「え、いつき?」みたいな聞き間違え方をされがち。旧姓ではそんなことほとんどなかったので、旧姓に愛着など抱いたことはないのだけれど、実は悪くない苗字だったのかもしれない。

マイナンバー、クレジットカード、銀行、その他あらゆるものの登録をし直す手間が、今一番の悩みの種。仕事で使うハンコすら買い直さないといけないことに今さら気づいた。ひとまず来週末に有給がとれそうなので、そこで一気に片をつけたい。

こうしてたらたらと駄文を打ち込む左手薬指で、ダイヤが光っている。変なの、と思う。



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