花丸恵
自分が書いた食べ物やお酒などに関するエッセイをまとめました。 食べた感想だけでなく、食べ物に関して疑問や思ったことなども書いています。 今後もどんどん追加していきます。 食いしん坊ほとばしる雑文ですが、楽しんで頂けたら幸いです。
自作の掌編小説(ショートショート)を集めました。
あれこれ考えるタイプです。思考の海に潜っていく人間です。 考えすぎてぐるぐるして渦みたいになります。 たまに地上に上がれなくなります。溺れたりもします。 それでも考えてしまう。そんな自作のエッセイや創作をまとめました。
面白いことを、ちょろっと漏らしがちな夫が登場するエッセイです。面白いだけではなく、たまに哲学的なことも言ったりします。
好きなものやおすすめのもの、おいしかったものなど、既製品でよかったもの、感動した作品などを記事にしたいと思います。「食べたり飲んだり作ったり」とマガジンが重複してしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。
◇ 飛んできたのは五百円玉だった。 よりによって一番攻撃力の高そうな硬貨の側面が、俺の眉間に命中したのだ。 鋭い痛みが目頭から眼球の裏へと伝わり、泣きたくもないのにじわりと涙が滲んだ。 「いってぇ……」 俺は両手で目を覆い隠した。痛みのせいで勝手に湧いてきた涙をそれとなく拭って、顔を上げる。 「何すんだよ!」 渾身の力を込めて睨みつけると、ほんの一瞬だけ、兄はうろたえた表情を見せた。だが、すぐに目を吊り上げ、 「呑気に家の中をうろうろすんじゃねーよ! とっととパ
面倒臭がりのうえに、筋金入りの出不精のせいで、毎日家に引きこもってばかりいる。そのせいで気づかぬところで損をしてきたかもしれない。でも、それを気に病んだりしないのは、やはり家にいるほうが性に合っているからだろう。 そんな私を外に連れ出してくれたのは夫である。 夫も特に活発なタイプではないが、若い頃バイク乗りだったこともあり、旅が好きだった。そんな夫に付き合って出かけるうちに、まぁ、旅行くらいなら出かけてもいいかな……と思うようになった。 旅の間は家事をしなくていい
目が覚めたとき、部屋は真っ暗だった。 夕方頃、異様な眠気に襲われて、そのままごろんと横になったら、いつの間にやら眠ってしまった。 出窓から、街灯の明かりだけが差し込んでいる。 カーテンを閉め、電気をつけようと思うのだが、それも面倒くさい。顔にずっとエアコンの風が当たっていたせいか、喉がからからだった。 とりあえず、ビールが飲みたい。 ゆっくり起き上がり、出窓から漏れる明かりを頼りにキッチンに向かう。暗い中、手探りで冷蔵庫を開ける。庫内の明かりにほっとしなが
私のかつての知人に、何かというとすぐに 「死んだらいいのに」 「死ね」 「マジで、殺したい!」 そんなことを言う子がいた。 彼女は人並みに気遣いもできる子で、特に問題行動もない。でも彼女は、何か気に入らないことがある度に、《死》を絡ませる言葉で、その場にいない誰かを罵ることがあった。 私はその言葉を聞く度に嫌な気分になり、 ……こういうことを言わなければ良い子なのになぁ。 と思うことが多々あった。 でも、それを咎めることができるほど、付き合いは深くない。 下
自分の銀婚式を間違える人なんて、この世にいるのだろうか。 私は茫然としながら、追いつかない頭で朦朧と考えていた。 ……きっと、私以外には、存在しないのではないか。 そう思えば思うほど、恥、という文字が私の頭の中をひしめきあった。 青い顔をしてため息をつく妻を見て、夫は言う。 「どうしたの? 随分と暑さにやられてるじゃないか」 そうだ。全部、この記録的な暑さのせいだ。 連日、エアコンのない34℃の台所で、夕飯をこしらえていたら、脳みそも熱々になって、何がなん
「ちょっとおやつが食べたいねぇ」 夫婦でそんな話になり、小雨降る中、私はコンビニへ出かけた。 夫は休みのとき、あまり外へ出たがらない。私も一人で商品をあれこれ見るほうが気楽なので、こういうときは、どんなおやつがいいかリクエストを訊き、それに見合ったものを買ってくることになる。 私にとってコンビニでおやつを買うのは、ちょっとした贅沢だ。コンビニでは大概のものはスーパーより値段が高いし、気を抜いて次々と商品をカゴに入れていくと、1000円なんてあっという間だ。我が家で
テレビやラジオ局にも地域密着型のローカル放送局があるが、インスタント麺にも、そんなローカル麺ある。 意外なことかもしれないが、ペヤングのカップ焼きそばは、元々は関東ローカルだったらしい。私は子供の頃からペヤングのコマーシャルを見て育ったので、正直、大人になるまでべヤングがローカルな存在であることを知らなかった。 「関西の人はペヤングよりもUFOを食べる」 なんて話を聞いたときには驚いたものだ。 ペヤングを製造する《まるか食品》が群馬県伊勢崎市にあり、長く関東ロー
前後編に分けてまで、読んでくださる方がいらっしゃるか甚だ疑問ではあるのですが、ここまで来たら書ききりたいと思います。 お付き合いいただける方、どうぞ宜しくお願いします! ちなみに、こちらが前編です。↓ ◇ と、いうわけで、続きの第10話から話を始めましょう! 10話にはにはワイナリーが登場します。 ここに出てくる白ぶどうのジュースはこちらのワイナリーのものです。 お店で試飲できるのですが、猛暑の中、冷えたジュースは例え試飲のわずかな量であったとしても、
私が一編の小説を書き上げたとき、夫は言った。 「タイトルだけで腹いっぱいになりそうだね」 確かに、 「ごはんよー」 と言われて食卓を見たとき、そこに鰻とオムライスがあったら、どんな人でも一瞬は戸惑うに違いない。 とにかく、物語の中に食べ物を登場させるのが好きなせいで、この作品も食べ物の連打となってしまった。 作中に出てくる食べ物がどういったものであるか、気になる方が、もしかしたらいらっしゃるかもしれない。 そんなわけで、物語に登場する食べ物をできる限り解説
買い物をしようとスーパーに行くと、通路の真ん中にぶどうが一粒落ちていた。 並べられた特売の巨峰から、ポロリと落ちてしまったのだろう。その様子は、親を見失って迷子になっている、憐れな子どものようだった。 「今日、スーパーの通路の真ん中に、ぶどうが一粒落ちてたよ」 帰宅後、夫に報告すると、 「旨かったかい?」 思いがけない言葉が返ってきた。 「野良犬じゃあるまいし、いくらなんでも、拾って食べたりしないよ」 そう答えると、 「俺、小学生のときに、道に落ちてたさ
私はかつて、急須に窮す日々を送っていた。 なぜ、あんなに急須というものは割れやすいのだろう。 生活に馴染み、日々を共に過ごしている急須は、なぜか突然注ぎ口が欠け、蓋が割れ、持ち手が欠ける。そのたびに、心に大きな衝撃が走り、自分の不注意を責め、精神的に弱っているときには、うっすら涙さえ浮かべることもある。 あのどっしりとした見た目に反し、急須は実に繊細な瀬戸物だ。 某通販雑誌で、高級な急須を見かけた。 その雑誌は、こだわりのある品揃えで、時折、芸能人や文化人がC
「とおくへいきたい」 という言葉を聞くと、私は反射的に浅田飴の宣伝をしていた永六輔のことを思い出してしまう。 その昔、永六輔氏は日本テレビで「遠くへ行きたい」という番組に出演していた。永六輔本人は1年余りで番組を退いてしまったものの、番組自体は現在も形を変えて続いている。 日曜の朝に早起きしてテレビを見る方なら、この番組の主題歌の触りくらいは聴いたことがある方もいらっしゃるかもしれない。 番組の主題歌のタイトルは、そのものズバリ、「遠くへ行きたい」。作詞・永六輔
店頭のショーケースに並ぶ、テリテリの串焼きたちの中でも異彩を放つフォルム、安心するこってりとした旨みの「もつにこみ」、あなたは好きですか。 私は、大好きです。 私は埼玉県民なので、東松山市に行くときは、《もつ煮のまつい》のもつ煮を買って帰ることが多い。 もつ煮には、野菜やこんにゃくなど、具の多いものもあるが、このもつ煮は、豚の白もつのみが、とろりと煮込まれている。 私も家でたまにもつ煮を作るが、逆立ちしても、こういった名店のもつ煮には敵わない。真似してみようとや
「そういえば、『ムーチョ』って、スペイン語で『もっと』っていう意味らしいよ」 何が「そういえば」だったのかは忘れたが、夫にそんな話をしながら、私は鍋物をつつき、ビールを飲んでいた。他愛ない、夕飯時の夫婦の会話である。 夫は妻が唐突に披露した豆知識に、これといった返答をするでもなく、ただ一言、 「へぇ」 と言って目を輝かせていた。 思えば私は、これまでスペインと縁もゆかりもない生活をしてきた。 マドリードに行ったこともなければ、スペイン人の知り合いもいない。
「さっきからトイレ掃除をしてほしいって、言ってるじゃないのよ」 洗い上がった洗濯物を片手に、私は言った。 「うん、やるよ。大丈夫!」 夫の返事はやる気に満ちている。 だが、溌溂とした声とは裏腹に、夫は華奢な体を畳の上に横たえたままだ。お腹に手を添え寝そべる姿は、海上を揺蕩うラッコそのものである。 何も夫に頼まなくても、自分でやればいい。 だが、トイレ掃除だけはそうはいかない。 なぜならば、家主がトイレ掃除をするほうが金運が向上するという情報を入手したからだ。
クレーム対応というのは非常に難しい。 相手の要望を的確に受け止めたうえで、よりよいサービスを提供しなければならない。 私も、結婚して20年以上経過しているが、未だに夫から、厳しいクレームを頂戴することがある。私は、それを真摯に受け止めているつもりなのだが、どうやらそうは見えないらしい。大変残念だ。 夫は職場におにぎりを持っていく。 最近ではたまにホットサンドになることもあるのだが、それでも、未だおにぎり率の方が高い。 そこで夫からクレームが入る。 「いっつも