deko

「キャッチ1本、家事のもと!」をキャッチコピーに、主婦兼コピーライターを続けています。…

deko

「キャッチ1本、家事のもと!」をキャッチコピーに、主婦兼コピーライターを続けています。趣味で、オリジナル技法の3D刺繍のバッグも製作。とにかく、ゼロから何かを創りあげることが好き。エッセーや小説など、仕事を離れた作品作りを楽しみます。

マガジン

  • ミステリー小説『腐心』

    ミステリー小説『腐心』のまとめマガジンです。

  • シロクマ文芸部 課題作品

    シロクマ文芸部の課題で作った小説などを編集したマガジンです。

  • 珠玉の小函

    おきにいりの記事のための部屋です。

  • Tsugumi × deko Collection

    橘鶫さんの鳥の絵を、dekoが刺繍した作品集です。

  • 北風のリュート

    「#創作大賞2024」の応募作品、『北風のリュート』をまとめました。

最近の記事

  • 固定された記事

【連載小説】「北風のリュート」第1話(#創作大賞2024/#ファンタジー小説部門)

第1話:遠いうねり    そこは世界の蝶番のような場所だった。  東と西の大地の深くえぐれた裂け目は、太古の昔に一頭の巨大な龍がつけた爪痕だと伝えられている。底なしの谷から唸り声をあげて天へと疾風が舞い上がるのを風の龍と呼んでいた。竜巻と呼ぶものもいる。  七の新月の夜になると羽毛のような雪が降り始める。  北風がその大いなる翼で大地と地に棲む人々を翻弄するころ、北風に乗ってやってくるものがいた。彼らを龍人と呼んだ。  遠い昔の忘れられた地球の子守唄のような記憶だ。 【2

    • 【ミステリー小説】腐心(9)

      ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。  柳一郎の失踪は、29日か30日か。地取りで明らかにするしかねえか。とりあえず佳代子の供述を取ろう。 「失踪に気づいたのは、7 月30日で違いありませんね」 「ええ」 「時刻は?」 「晩ご飯ができたと呼びに行った7時です。さっき29日としてお話した内容は、30日のことをすり替えただけ」 「では、午後4時から『ウエステ』に買い物に出かけ、5時半に帰宅。柳一郎さんの部屋からはテレビの音がしていた。その後、あなたは夕飯のこしらえを

      • 月綺堂へ、ようこそ(#シロクマ文芸部)

         月の色見本帖の厚い束をぱらぱらとめくる。薄浅葱と常盤色のいずれにしようかさんざん悩んだ末に、あたしは重ねたトランプの山からカードを一枚引き抜くように、「これを」と薄浅葱のシートだけをスライドさせた。  目をあげると店奥の丸窓から、よく熟れた桃のような月が霞んでいるのが見えた。夕闇はしだいに群青に退色していく。  店は『月綺堂』という。  表の外観は洋風だが、中は木造の当世流行りの和洋折衷建築。  夏の盛りに明治天皇が崩御され、明宮殿下が皇位につかれたばかり。  あれから二

        • 【ミステリー小説】腐心(8)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。  被害者の失踪日時について夫婦で供述が異なるというのか。  樋口からの報告に香山は文字どおり耳を疑う。 「おい樋口、そっちは聴取が終わったんだな」  ――はい。 「そのメール画面を送信日時のわかる状態で写メしろ。木本和也は帰していい。おまえも、こっちに来い。二号室だ」  ――了解です。  香山は廊下の壁に凭れて二本目のハイライトに火を点け、二号室と表示されている取調室の扉を睨みつける。  単純に考えると29日に失踪したという

        • 固定された記事

        【連載小説】「北風のリュート」第1話(#創作大賞2024/#ファンタジー小説部門)

        マガジン

        • ミステリー小説『腐心』
          9本
        • シロクマ文芸部 課題作品
          32本
        • 珠玉の小函
          11本
        • Tsugumi × deko Collection
          5本
        • 北風のリュート
          52本
        • 『月獅』章ごとのまとめマガジン
          19本

        記事

          ツインズ(#シロクマ文芸部) 

           ――懐かしい口内炎みたいな感じって、わかる?  今のカレはどんな人?って尋ねると、マリモはペディキュアを塗りながらいう。きょうはオレンジのミュールを履くつもりだな。九月になったというのに、陽射しは肌に痛く、アスファルトを逃げ水が走る。  マリモは三度結婚して、三度離婚し、そのたびに一人ずつ娘を産んで、今も恋愛真っ最中だ。三人の娘たちは、アノ、カノ、サノという。<あかさたな>を完成したいから、あと二人は産まなくっちゃねと、マニキュアが乾くまで末っ娘のサノを膝に抱きあげる。

          ツインズ(#シロクマ文芸部) 

          【ミステリー小説】腐心(7)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。 「警察が……嫌がる?」  香山は佳代子の言葉をなぞる。  行方不明者届を出すまでに二日近くかかっていることを指摘すると、佳代子はそう言い放って冷ややかな目を向けた。取調室の空気が硬くなる。  無機質な壁の時計は、午後二時になろうとしていた。夏の陽射しが窓辺で踊っている。死体を検分した日は食欲がなくなるが、今日のホトケは傷一つなく腐敗もしていなかったからか、腹が空いてきやがった。まあ、でもメシは抜きだな。まだ聞きたいことの半分

          【ミステリー小説】腐心(7)

          レモンからーの陽だまり(#シロクマ文芸部)

           『レモンからーの陽だまり』略して『レモか』は、あの頃のわたしにとって、まさに陽だまりのような場所で、そこにはいつもオババがいた。  蝉の声はとっくに抑揚のあるツクツクボウシに変わっていたけれど。陽ざしはまだ肌を直線で刺し、風すら吹くのを億劫がっていた。夏休みもあと三日という昼下がりだった。  二学期が始まると思うだけで、ため息がいたずらにこぼれ落ちて堆積し、その澱みの中で身じろぎもできずにいた。世界は模糊とした灰白色に広がる永遠の曇り空で、濛気が霧のごとく立ち込める中を、

          レモンからーの陽だまり(#シロクマ文芸部)

          文学フリマ大阪、終わりました!

          昨日の大阪は、とにかく暑かった。 気温も、熱気も、熱意も。 おそらく天満橋OMMビル付近は、局所的に観測史上まれにみるほど沸騰していたものと思われます。 「文学フリマ大阪12」に参戦してまいりました。 私にとっては二度目の文フリ大阪。それも今回は、なんと「番頭」としての使命を預かっての店番です。 といっても、穂音さんという心強くも優しい筆頭番頭の横で、あたふたしているだけだったんですけど。 そして。 お隣も、また、心強い「つるるとき子書店」さん! 楽しくないはずありません

          文学フリマ大阪、終わりました!

          【ミステリー小説】腐心(6)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。 「ここしか空いてる部屋がなくて、すみません」  香山はへらっとした愛想笑いを頬に貼りつかせ、<二号室>とプレート表示されている部屋の扉を押す。佳代子はプレートに斜に目をやったが、表情は変わらない。中央と壁際にスチール机が二つだけ。無機質でがらんどうの箱部屋。窓辺に強い正午の陽が射していた。 「へえ、ここが取調室。ドラマと同じね。まあ、あいそのないスチール机」  佳代子は机の上面をさっと手で払うと、窓と対面の壁に歩み寄り「こ

          【ミステリー小説】腐心(6)

          重ね重ねすみません。先ほどとは、別件での謝罪です。 『腐心』(5)を修正しました。死亡推定日時を修正しています。「7月29日の夜から翌朝」の死亡推定を、「7月29日(全日)ないし30日(全日)」に修正しています。ミステリーの根幹に関わる箇所の修正になります。

          重ね重ねすみません。先ほどとは、別件での謝罪です。 『腐心』(5)を修正しました。死亡推定日時を修正しています。「7月29日の夜から翌朝」の死亡推定を、「7月29日(全日)ないし30日(全日)」に修正しています。ミステリーの根幹に関わる箇所の修正になります。

          すみません。先ほど誤って下書き状態の原稿を投稿してしまいました。 「スキ」をいただいた皆様、申し訳ありませんが、いったん削除させていただきました。 たいへん申し訳ございません。

          すみません。先ほど誤って下書き状態の原稿を投稿してしまいました。 「スキ」をいただいた皆様、申し訳ありませんが、いったん削除させていただきました。 たいへん申し訳ございません。

          【ミステリー小説】腐心(5)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。 【東野警察署2階・相談室】  香山のスマホが鳴った。  画面を確かめる。鑑識の浅田からだ。スマホを耳にあてながら、すいませんねえ、と断りを入れて廊下に出る。 「検視の結果か?」  ――お待たせしました。遺体が腐敗しておらず、解剖もしていないので死亡日時については不確かですが、おそらく死後四日ないし五日。逆算すると7月29日か30日でしょう。直接の死因は吐瀉物による窒息死。熱射病で意識障害を起こし、仰臥したまま胃の内容物を吐

          【ミステリー小説】腐心(5)

          【ミステリー小説】腐心(4)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。  東野警察署の駐車場は、庁舎の裏にある。  県道に面した庁舎正面の角を曲がった側道から白いコンパクトカーが滑り込んで来た。ハンドルを握っていたのは、意外にも妻のほうだった。 「先に生安で、ガイ者の行方不明者届けが出てないか確認してくれ。俺は二人を相談室に案内する」  駐車場のコンクリートは直射日光を反射して、じわりと揺らいでいた。太陽は中天にある。足早に裏口へ向かう樋口の巨躯をもってしても足もとにわずかな円形の黒い影が動くだ

          【ミステリー小説】腐心(4)

          文学フリマ大阪へ、羽繕い中「いぬいのラジオ(仮)へと飛翔!」

          いよいよ文学フリマ大阪まで、後11日。 そんな刻々と迫るなか、なんと「ウミネコ」が、 憧れの『いぬいのラジオ(仮)』に出演させていただきました! 穂音さんはともかく、私はラジオ出演は初めて。 (仕事で収録に立ち合ったことはありますが、自分が話す側に回るなんて) 出演の打診をいただいてから、心臓が飛び跳ねてました。 子どもの頃からの、有るか無いかの特技のひとつが、早口言葉。 「東京特許許可局」とか「赤巻紙、青巻紙、黄巻紙」とか得意なんです、エッヘン。と得意になっている場合じゃ

          文学フリマ大阪へ、羽繕い中「いぬいのラジオ(仮)へと飛翔!」

          【ミステリー小説】腐心(3)

          ▶第1話は、こちらから。 ▶前話は、こちらから。 「19年間も腐らなかったんっすよ、ナポレオンの死体」  え? 香山は左眉だけをあげ、遺体を挟んで対峙する鑑識の浅田を睨む。 丸眼鏡の奥の細い目が楽しげに香山を見つめ返す。  わりと有名な話っすよと、浅田は首にかけたタオルで顎の下の汗をぬぐい、右の頬をゆるませる。揶揄うような表情が腹立たしい。ちっと舌打ちして香山は屈んだ姿勢から背を反らし、樋口を振り返る。樋口も、知りません、とエラの張った顎を左右に振る。 「ミイラ処理がされて

          【ミステリー小説】腐心(3)

          【ミステリー小説】腐心(2)

          ▶第1話は、こちらから。 「カヤさん」  鑑識の浅田に検視について問い質そうとした矢先に、背後から樋口の潰れた声がした。顎だけで振り返ると、巨体の背に隠れるように頭にタオルを巻いたつなぎ姿の男が二人立っていた。手前の男は頬骨が張り、後ろに控えた方は印象の薄い顔立ちではあったが、どちらも陽に灼けた面はシミだらけで干からび皺が波打っていた。六十代半ばから七十代前半くらいか。前庭に草刈り機と柄の長い剪定挟み、脚立が放置されているのに香山は気づいていた。おそらく庭師だろう。 「第一

          【ミステリー小説】腐心(2)