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哲学のかけら

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哲学も少しはかじっています。なにもそんなこと考えなくてもいいんじゃない、と言われるところも、でもさ、と考えてみる、それが哲学。独断と懐疑に終わらずに常に自分の至らなさを認めるあた…
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#本

『道徳的人間と非道徳的社会』(ラインホールド・ニーバー:千葉眞訳・岩波文庫)

『道徳的人間と非道徳的社会』(ラインホールド・ニーバー:千葉眞訳・岩波文庫)

岩波文庫から、ニーバーの著作が出る。そのニュースだけで、すぐに注文した。ニーバーといえば、キリスト教の世界でその祈りを知らない人はいないであろう。本書でも、訳者解説の最後の頁で紹介されている。
 
  O God, Give us
  Serenity to accept what cannot be changed,
  Courage to change what should be chan

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『現代思想03 2024vol.52-4 特集・人生の意味の哲学』(青土社)

『現代思想03 2024vol.52-4 特集・人生の意味の哲学』(青土社)

なんとも思想らしくないタイトルである。同時に、一般の人が手に取りやすいタイトルである。「人生」を問うことが、哲学であるかのように見なされやすい日本の風土では、こうした誘いは適切であるのかもしれない。
 
だが、実のところ、この問いは、哲学の中では案外疎い分野である。問われて然るべきであるのに、あまり問題にされない。日本人だからこれを問う、というのではなく、もっと原理的に、根柢的に、この問題は扱われ

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『死刑 その哲学的洞察』(萱野稔人・ちくま新書)

『死刑 その哲学的洞察』(萱野稔人・ちくま新書)

テーマは死刑、ただそれだけである。死刑は是か非か。そういうふうに受け止めても構わないだろう。だが、それを試験や感情で片付けるようなことをするわけではない。そもそもどういうことを根拠にそれを肯定するのか、否定するのか、などを考慮しようとする。そこが「哲学的」という意味なのだろう。だが、著者は社会理論を専門分野としているように、プロフィールで紹介されている。社会学的視点というものは、どうしても強く働い

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入門

入門

「哲学入門」というタイトルの本は、実に多い。シンプルにそれだけでも沢山あるが、もしそれにいくらかの飾り言葉が付くものまで含めると、数え切れないほどである。
 
何かを真面目に考えたい、という気持ちが、人々に「哲学入門」を手に取るように仕向けるのかもしれない。中には、哲学だったら、自分の考えをどんなふうに言い述べても構わないのだろう、と勘違いしている人もいる。科学であれば、いくら自分の信念を述べても

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『現代思想 2024vol.52-1 特集・ビッグ・クエスチョン』(青土社)

『現代思想 2024vol.52-1 特集・ビッグ・クエスチョン』(青土社)

大きな問い。人類の難問。哲学と縛ってよいかどうか分からないが、思想全般において、大きな問題となっていることを網羅する。「大いなる探究の現在地」という日本語が付せられている。一つのテーマを深める営みではないけれども、そもそも「現代思想」誌は、多くの論客の原稿が、10頁ずつくらいの長さで集められたものである。但し1頁あたりの文字数はかなり多いため、ボリュームはなかなかのものだ。連携して思索を展開すると

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『神さまと神はどう違うのか?』(上枝美典・ちくまプリマー新書)

『神さまと神はどう違うのか?』(上枝美典・ちくまプリマー新書)

ちくまプリマー新書というのは、もしかすると岩波ジュニア新書を意識したかもしれないが、「プリマー」というからには「オトナ未満」をターゲットにした新書シリーズである。物事を、比較的分かりやすく、ティーンエイジャーに伝わるように説き明かそうとする目的があると思われる。
 
なんだ、若向けか。そんな印象を与えてしまう可能性もあるが、少なくとも本書に限っていえば、そんなことは全くない。ガチである。確かに説明

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『現代思想2023vol.51-5 総特集 鷲田清一』(青土社)

『現代思想2023vol.51-5 総特集 鷲田清一』(青土社)

失礼だが、これだけ大きな特集をされるとなると、まさか亡くなられたのでは、と錯覚しそうだった。現代の哲学者としての第一人者であり、大阪大学総長まで務めるという教育者であり経営者でもあった。現象学を学び、それを「現場」で生かす「臨床哲学」という分野をもたらした。とくにファッションというものを哲学から読み取り、またそうした必要性を哲学のために生かした功績は大きい。文章の巧さも光っており、論文もなんだか「

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『目的への抵抗』(國分功一郎・新潮新書)

『目的への抵抗』(國分功一郎・新潮新書)

中動態の話からこの著者の本に触れ、その見るアングルが楽しく、また説き聞かせる口調が読みやすいせいもあり、何冊か拝読してきた。その中動態が責任とつながるという切り口は、とてもフレッシュであり、かつ考えさせられた。この著者により、新たにまた新書という手軽に入手できる本が発行されたので、すぐに読みたいと思った。
 
よく見ると「シリーズ哲学講話」とあるので、また続きが出てくることを期待しているが、さしあ

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『精神現象学』(100分de名著)に学ぶ

『精神現象学』(100分de名著)に学ぶ

NHKEテレの「100分de名著」も、ずいぶん長く続いている。始まるときのこともよく覚えている。よい番組だ。よくつくりこんでいる。先月には、新約聖書の福音書が、若松英輔さんのよいリードで紹介された。聖書を、読んでみようという気持ちにさせる番組となった。制作者自身がそういう心になったし、世間の評判もよいようだ。これは特筆すべき現象である。
 
これをどうしてキリスト教界がもっとバックアップしようとし

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『哲学するネコ』(左近司祥子・小学館文庫)

『哲学するネコ』(左近司祥子・小学館文庫)

私は電子書籍で読んだ。それが入手しやすいのではないかと思われた。
 
25匹のネコを飼う人の綴る、思索交じりの風景。哲学だけを求める人には、ネコの話が邪魔だろう。ネコだけを愛したい人には、哲学の話がうざいだろう。その意味では、中途半端な本である。だが、あいにく私はどちらも好きだ。楽しくて仕方がない。
 
拾ったり、かくまったりして、なんだかんだとネコが増えていく。
 
著者はギリシア哲学研究家。だ

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『畠中尚志全文集』(畠中尚志・講談社学術文庫)

『畠中尚志全文集』(畠中尚志・講談社学術文庫)

岩波文庫でスピノザの本を翻訳していることは知っていた。だが、こんな人生であった方だということは、知らなかった。感動しかない。
 
國分功一郎氏が、最近スピノザについて本を立て続けに書いている。それを味わう中で、この畠中氏のことにも触れることがあった。そして、近々畠中氏の文章を1冊にする、というような話を聞いていたので、予約注文していたのだ。
 
詳しくは本書をぜひご覧戴きたいので、ここに出してしま

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齋藤亜矢『ルビンのツボ 芸術する体と心』より

齋藤亜矢『ルビンのツボ 芸術する体と心』より

何気なく迎えているつもりの朝だが、考えてみれば、目覚めるという保証はどこにもない。たぶん、目覚めるだろう。だが、睡眠中に命を失うケースもあると聞く。分からない。一寸先は闇とは思わないが、人間が決めてしまうことはできないのである。
 
「恐怖」という心的現象をもとに、それが「美」へとつながることを、芸術と感覚というテーマで記した人の文章が、中三生の模試に出題された。レベルの高い生徒たちのクラスのため

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『良心学入門』(同志社大学良心学研究センター編・岩波書店)

『良心学入門』(同志社大学良心学研究センター編・岩波書店)

同志社大学良心学研究センターは、2015年に設立されたという。「良心」というキーワードを中核として、理系文系に拘わらず、凡ゆる領域で探求するという場であるらしい。現代社会での様々な問題の根柢に、「良心」が関わっているのではないか、という見通しの下、リベラルアーツ教育にも適う営みが始められたのである。
 
同志社大学は、新島襄により創立され、キリスト教主義を基本としている。近年そのリベラルさが、キリ

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『「美味しい」とは何か』(源河亨・中公新書)

『「美味しい」とは何か』(源河亨・中公新書)

サブタイトルの「食からひもとく美学入門」は、まだよかった。帯に「ラーメンは芸術か?」と書いてある。これが一冊を貫いているところにまでは、読む前には気づかなかった。とにかく、ラーメンで話を押し通すのである。ラーメンに関心のない人は、読むのが辛かっただろうと思う。
 
議論は読みやすい。何が論点であるか、それに対して自分はどう思うか、これについて明確に打ち出していくからだ。新書もここまできたかと思わせ

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