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お笑いの話。10話。

いらっしゃい。

て、あんたかい。

『あんたかいとは失礼な』

かつては落語仲間ではなかったか。

落語家の師匠がいる場所。


ここはロケのお弁当屋さんという名前のロケのお弁当屋さん。

といってもロケのお弁当だけではなくいたって普通のお弁当屋さん。

誰でも気軽にお弁当が買えるお弁当屋さんだ。

そして、古く色あせた写真とサインがあった。

それはかつて遥か昔に、師匠がテレビのロケで訪れた時のだった。


ここのお弁当屋さんはさわらの西京漬け焼き弁当が人気だ。

そして店主はかつて落語家の真打ちだった。

しかし、落語の人気の低迷により引退。

しかし、何らかの形で落語に関わればと考えた。

差し入れやロケのお弁当がある。

そう考えた店主はお弁当屋さんを始めた。


『劇場にいつものお弁当とお茶、いつもの数、配達頼むよ』

いつものお弁当とお茶ね。


『お前さん。落語業界には戻ってこないのかい?』

『また、お笑いを盛り上げないか?』


今はお弁当屋さんが忙しいから。

『そう自分に言い聞かせてないのかい?』

『かつてはライバルだった。言葉ひとつでわかるものだよ』


そうだな。

そういうお前さんはどうなんだい。

お弟子さんはどうした?

今は落語より道路工事の方が忙しいんじゃないのかい?


『こりゃたまげた』

『土木作業のバイトを始めたのを知っていたとは』

『こんなおいぼれ。後輩は誰も気づかないと思ってたけど』

『気づいてくれたのはお前さんだけだよ』


そりゃここら辺ならわかるものだよ。

この前えらく年下の人に怒られてたじゃないか。

『は、は、は。そこまで知っていたとは』


そろそろ引退考えた方がいいんじゃないのかい?

かつてはライバルだった。

みじめな姿を見せないでくれよ。

なんなら、お弁当屋さん手伝うかい?


『は、は、は。そりゃ良い提案だが今は遠慮しとくよ』

『そうだな。一人や二人。いや、一人でも最後にお弟子さんがいれば考えてたかもな』

『最後にお笑いができればな』



『まけといてくれよ!?』

勝ちは譲れない。

『そのまけではない』

毎回来るたびこのやりとりが多いな。






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