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#毎日note
短編小説『時代遅れ』
結婚式の司会の仕事をしている方に聞いたが、近頃は新郎新婦の馴れ初めが「マッチングアプリ」ということが実に多いらしい。41歳の私は「マッチングアプリ」といえば、何やらいかがわしいものと思ってしまうが、10歳も下になると、もっとカジュアルに捉えているものらしい。そのうち、人と人がお付き合いをするためには、いきなり直接話しをすることのほうが「はしたない」と言われるような時代が来るのかもしれない。
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小説|かき氷シロップを入道雲に
真夏日。かき氷機を箱から出して、あなたは氷を投入口へと入れました。ハンドルを回せば、氷の削れる涼しい音が響きます。ガラス皿に白く積もるかき氷。山盛りになっても、氷はまだ削りきれていないようです。
網戸から吹き込む生ぬるい風に汗を流しながら、あなたはハンドルを回しつづけました。二枚目のお皿も、いっぱいになります。あなたは残りの氷の量を見てみようと、かき氷機の蓋を開けました。もう氷は入っていませ
小説|海月は風鈴の音を聴く
捨てられたのか、流されたのか。風鈴が夏の海のなかを漂っていました。海面から射す光のカーテンに、ガラスの身体が青く輝いています。風鈴は、泣いていました。水のなかでは、もうその音色を響かせられないからです。
風鈴は海中で、もうひとりの風鈴と出会いました。少なくとも、はじめはそう思ったのです。風鈴ではなく、海月でした。世界中を旅している海月。なぜ泣いているのですか? 海月が風鈴に尋ねます。
海
小説|ハードボイルドオニオンズ
タマネギと呼ぶなよ。俺たちは、オニオンズ。とある田舎の町外れにあるレストランの厨房で働いている。ふぞろいでクセのある奴ばかりだが、ひとヤマもふたヤマも越えてきた味わい深い野郎どもさ。
最近、そんな俺たちが目をつけている奴がいる。新入りの赤毛のコック。料理には力もいるが新入りは女だ。慣れない調理で身体に疲れがたまると、食器を割る。具材を落とす。他のコックとぶつかる。見てられねえ。
深夜、新
小説|地獄への履歴書
天国か、地獄か。行き先は死後に書く履歴書で決まります。誰もが生前の良い行いを書いて天国を志望しました。けれど、彼だけは違います。地獄へ届いた履歴書には、こう書かれていました。
「私が貴獄を志望する理由は、大切な人を殺したからです。誰よりも大事に思っていたのに、その人の苦しみに気づけなかったからです。私が気づいてあげていれば、その人が若くして亡くなることはなかったはずです。
その人は、今ごろ
小説|銃を持つほうが右
右と左のどちらがどちらか、僕はおばあちゃんから教わりましたが、その覚えかたが変でした。「銃を持つほうが右」だと言うのです。銃? 銃とは何でしょう。きいてみると、おばあちゃんも銃が何かは知らないそうです。
おばあちゃんも、そのおばあちゃんから、そう教えられたようです。同じ質問をおばあちゃんもしたけれど、そのおばあちゃんも銃を知らなかったといいます。銃のことが気になり、僕は近所のもの知り博士をた
小説|通学路の歩き方
どこかの家の夕飯の匂いに包まれながら、あなたは歩いています。今日はカレーかな。考えるともなく考えながら、西日に向かって進んでいました。行く先にある通学路を示す黄色い標識が、光った気がします。
夕焼けが反射したのかと思ったけれど違いました。標識の中にいたはずの二人の子どもが外に飛び出したのです。兄妹は黄色い光を帯びていました。仲良く手を繋いで、こちらへ歩いてきます。
少しだけ高いところを歩