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小説|かき氷シロップを入道雲に

 真夏日。かき氷機を箱から出して、あなたは氷を投入口へと入れました。ハンドルを回せば、氷の削れる涼しい音が響きます。ガラス皿に白く積もるかき氷。山盛りになっても、氷はまだ削りきれていないようです。

 網戸から吹き込む生ぬるい風に汗を流しながら、あなたはハンドルを回しつづけました。二枚目のお皿も、いっぱいになります。あなたは残りの氷の量を見てみようと、かき氷機の蓋を開けました。もう氷は入っていません。

 それなのに、ハンドルを回せば細かい氷が出てきます。そこで、あなたは気づきました。目の端に見えていた入道雲のようすがおかしいのです。またハンドルを回すと、空に浮かぶ入道雲が削れて消えてゆきました。

 やがて、入道雲がすべて消えます。もうかき氷も出てこなくなりました。苺シロップをかけると、にわかに空が紅く染まります。夕風に吹かれながら一口。冷たさで頭が痛くなります。雲ひとつない夕空に雷鳴が響きました。






ショートショート No.159

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