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小説|地獄への履歴書

 天国か、地獄か。行き先は死後に書く履歴書で決まります。誰もが生前の良い行いを書いて天国を志望しました。けれど、彼だけは違います。地獄へ届いた履歴書には、こう書かれていました。

「私が貴獄を志望する理由は、大切な人を殺したからです。誰よりも大事に思っていたのに、その人の苦しみに気づけなかったからです。私が気づいてあげていれば、その人が若くして亡くなることはなかったはずです。

 その人は、今ごろ天国にいると思います。私が貴獄に入獄すれば、二度と会うことはできません。それは覚悟の上で志望します。それだけのことを、取り返しのつかないことを、決して許されないことを、私はしたのです」

 地獄の人事部の返答。「この度は弊獄へのご応募ありがとうございます。精査の結果、大変恐れ入りますが、ご希望に沿いかねることとなりました。天国での今後一層のご活躍をお祈りいたします」






ショートショート No.109

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