小説「アウスリーベの調べ」第7話
歌が聞こえた。誰かが遠くで歌っている。しかし言葉ではない。メロディーとしてしか僕には聞き取ることが出来ない。ハミングしているのだろうか、ともう一度耳を澄ませたが、次第にそれは誰かが口にする歌ではなく、何かの楽器で奏でられる曲であることに気が付いた。これは確か、ロベルト・シューマンの『トロイメライ』。演奏している楽器はピアノではなく、フルートだ。僕はピアノでの演奏しか聴いたことがなかったのでその新鮮さに頬が緩むのを感じた。誰が演奏しているのだろう。浮力を使ってゆっくりと体を起