遭難 (1分小説)
「きっと、もう、ボクは助からない」
無線から聞こえてきた、冒険家の彼の声。
「昨日、氷床を掘って、結婚指輪を埋めたんだ。今度、君と来た時に掘り起こそうと思って。サプライズのつもりだったんだけど」
息も絶え絶え、弱々しい。
昨日、クルーの中で、彼だけが目的地の南極点に到達。
私たちが待機していたキャンプ地まで、無線をくれた時は、あんなに元気だったのに。
帰りのルートで遭難するとは。
「ボクが、南極点に掲げた国旗から北へ15歩、東へ5歩のところに、10カラットのダイヤの指輪を埋めた。君ひとりでも掘り起こしてくれ」
そんな高価な物を。
「ありがとう。でも、見つけられるかしら。南極点からは、全方位が北になるのに」
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