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「虎に翼」とオープニング食いつきベビのこと
「虎に翼」が終わった。個人的に2013年「あまちゃん」以来の朝ドラ完走。「あまちゃん」が新たな層に朝ドラの存在を訴求した作品だとするならば、「虎に翼」は別角度から朝ドラの在り方を照らし直す強烈な1作だった。
伊藤沙莉を始めとするコメディ巧者たちによる軽妙な会話劇、生活へと持ち帰りたい重厚なメッセージなど様々に受け取ったものはあるが1つ大きなものとしてオープニング映像の素晴らしさがある。米津玄師が
医療でドラマを描くということ/宮藤官九郎「新宿野戦病院」
宮藤官九郎、今年3本目の連続ドラマ「新宿野戦病院」。新宿・歌舞伎町に立つ聖まごころ病院を舞台に、美容整形外科医の高峰亨(仲野太賀)、アメリカ帰りの元軍医ヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)ら医者たちと、スタッフ、そして患者たちの関わり合いを描く作品である。もちろんコメディだ。
私はエンタメ作品において、医療モノというジャンルを苦手としている。ドラマの展開として“患者が助かる”か“患者が助からない
2024年上半期ベストドラマ トップ10
最近は上半期ベストドラマというのは選んでこなかったけど今年はどういうわけか山ほどドラマを観ている。これは恐らく昨年「ゲーム・オブ・スローンズ」全シリーズを観ていた時間をドラマ視聴時間に充てることができている、ということなのだけど、それにしても良作が多すぎる気がする。年間ベストで拾い切れなくなる作品が惜しいので、トップ10を久々に決めてみた。
10位 エリック
今年、数多い"子供が失踪する"とい
呪いの考察、考察の呪い〜『THE CURSE/ザ・カース』【ドラマ感想】
さすがにこれを観て何も書かないわけにはいかないので、書き始めてはみたものの何から書けばいいのか分からない状態ではある。ひとまず概要。『THE CURSE/ザ・カース』というアメリカのドラマで、日本ではU-NEXTで独占配信中。
エマ・ストーンが、カナダのコメディアンであるネイサン・フィールダーと組んで、A24を背負って製作した本作。確かにあらすじの通りのドラマであるが最終話まで見ると全てどうでも
空白を埋めるもの~『エリック』と『ミッシング』
大切な人が突然いなくなる、という出来事がトリガーになる作品は古来より多いが、今年は特に顕著な気がしてならない。それは例えば「四月になれば彼女は」のような婚約相手が突如姿を消すものであったり、公開を控える黒沢清の『蛇の道』のような子供を殺されるというものであったりと様々であるが、特に今年において印象的なのが"子供"が“突如姿を消す”作品である。
誰かを恨むこともできぬまま宙ぶらりんにされる感情。ま
“穴”を前にして語ること/加藤拓也『滅相も無い』
加藤拓也が脚本・演出を務めたSFドラマ『滅相も無い』は語り甲斐しかない作品だった。「演劇をやれば映像的だ、映画をやれば演劇的だと言われることに嫌気が差し」(参照)、本作ではそのどちらの手法も用いられて作られている。
自分の人生を8人が語り合うBBQの場面は映像作品として見せられるが、それぞれの語りの内容は舞台上で披露する様を見せられる。舞台上には劇伴を演奏するUNCHAINがおり、役柄の決められ
ケアも寄り添いも無いとして/『私のトナカイちゃん』【ドラマの感想】
イギリス・スコットランドのコメディアン/劇作家であるリチャード・ガッドが主演・脚本・製作総指揮を担ったNetflixドラマ『私のトナカイちゃん』が凄まじかった。売れないお笑い芸人ドニー・ダン(リチャード・ガッド)がバイト先の酒場で、金が無くて泣き出しそうになっていた女性マーサ(ジェシカ・ガニング)に紅茶を奢る。その日を境にマーサはドニーのストーカーになり、次第にエスカレートしていく、というのが本作
もっとみるNetflix「三体」シーズン1が残してくれた関心について【ドラマの感想】
Netflixで3/21より配信開始となったドラマ「三体」が異次元の面白さであった。元々原作小説の時点で興味はあったが、ドラマ化が決まり、ならばそちらをと思い先延ばしにしておいたのが功を奏してか、全ての展開に驚嘆しっぱなしである。
宇宙スケールのSF作品であり、得体の知れない概念をドカンと突きつけてくる一方、オックスフォードの同級生5人が知力を結集して好戦的な爺さんの下で大義を果たすお仕事ドラマ
歌い踊り揺れる/宮藤官九郎『不適切にもほどがある!』【ドラマの感想】
宮藤官九郎脚本によるTBS金曜22時ドラマ最新作『不適切にもほどがある!』が完結した。”好きなものを好きと言う“が基本姿勢でありながらもここ数年は総合点を重視した嗜好になっていたが、本作に関しては部分点が突き抜けすぎて自分にとってかなり好きなドラマになってしまった。
確かに雑な描写は多々あるし、正直サカエ(吉田羊)は最後までどう捉えれば良いか難しかった。しかしそれだけで見限ることは私には出来ない
2023年ベストドラマ トップ10
相変わらず配信ドラマが面白いですが、伴って地上波も良質で工夫の効いた作品が次々と。今年は今まで以上にドラマを追う年にしていきたい。
10位 時をかけるな、恋人たち
ヨーロッパ企画の上田誠が脚本を手掛けたタイムトラベルラブコメディ。30分尺の軽快なテンポながら「エターナル・サンシャイン」的な意匠も散りばめられており、人と人とが巡り合う可能性へのときめきが躍如する物語。細やかな伏線や考察を導く作劇
メンタルヘルスと2023年のポップカルチャー②支配と名前、否認とファンダム
2023年のポップカルチャーを語る上で旧ジャニーズ事務所の問題は避けて通れない。大きなファンダムがあり、そのブランド力も桁違いであり、多くの人々が心の拠り所だったジャニーズが、その名づけ親であるジャニー喜多川氏の性加害問題によって社名変更、全タレントの移籍という事態に陥った。
性加害者の名前を冠した会社名が変わるということはそうなるべきと頭では理解していたが、いざそうなってみた時の驚きが確かにあ
救いある関係性を描くこと〜「ほつれる」「こっち向いてよ向井くん」
他者と関係を結ぶことはつくづく人生そのものだ。友人、恋人、家族、そういう関係だけでなく孤立を選ぶというのも“他者を拒絶する”という関係を結んでいるわけだから人の心は関係から逃れることはできない。
こういうもの、だとされていた価値観が瓦解しつつある現在。多くの”関係“を見つめる作品が生まれている。ここ最近観て印象的だった2作品もまたしかり。自分や他者にとって救いになる関係性とは何なのだろうか。
カタルシスを拒む営み~宮藤官九郎「季節のない街」
Disney+でドラマ「季節のない街」を観た。山本周五郎の同名小説を宮藤官九郎の脚本と監督で映像化したもの。13年前の"ナニ"と呼ばれる災害によって住む場所を失い、今なお仮設住宅に住み続ける人々の姿を描いた作品だ。
本作は被災地を舞台とした作品という点で、宮藤官九郎の代表作「あまちゃん」(2013)を思い出さざるを得ないわけだが、「あまちゃん」が真っ直ぐに喪失からの回復を描く祈りの作品だったとす