マガジンのカバー画像

死にぞこないの趣味の世界

100
運営しているクリエイター

#フランス

アヌーク・エーメさん、死去

アヌーク・エーメさん、死去

6月18日、フランスの女優アヌーク・エーメさん(92歳)、逝かれる。
彼女は、僕のスマホの壁紙。
文字通り、目の保養だった。
ただ美しいだけでなく、エレガントで、チャーミングだった。

いまごろ極右はよろこんでいるだろう。
なにせ彼女はユダヤ系だった。

彼女を国際的有名人にしたのが、映画『男と女』(1966年)だった。
フランシス・レイの音楽、〈ダバダダバダ〉で有名な例のやつ。

初めて観たとき

もっとみる
ウエルベックに見られる女性像 ―『滅ぼす』から

ウエルベックに見られる女性像 ―『滅ぼす』から

ミシェル・ウエルベック(1956年生)は、僕とは異なり、保守派である。
ところが彼の女性観に、非常にしばしば、僕は同意してしまう。
そのことは僕をモヤモヤさせる。
でも同意するという事実と、向き合わなければとも思う。
読み終えたばかりの『滅ぼす』から幾つか例をひこう。

痛みについての特殊な知識
例えば次のシーン。
アルアルだ。とてもよく実感できてしまう。
ポールとプリュダンスという夫婦が、ある事

もっとみる
ミシェル・ウエルベック『滅ぼす』を読んで

ミシェル・ウエルベック『滅ぼす』を読んで

読んで良かった。
あんな厚い本、上下巻で?と、最初は迷った。
でも古本屋で安く買えたので読んでみた。
読んで良かった。

保守派
ウエルベックは保守派で、僕はどちらかといえば革新派だ。
例えばウエルベックはナチズムとフランス革命を、どちらも既存の価値体系に取って代わることを目指していたとして、同一視する(『滅ぼす』第7部)。
当然のことながら、僕はこういう意見には反対だ。イラっとする。

けれども

もっとみる
フランソワーズ・アルディさん、死去

フランソワーズ・アルディさん、死去


伝説のカップル
6月11日、フランスを代表する歌手フランソワーズ・アルディFrançoise Hardyさんが亡くなられた。80歳だった。長年、癌と戦われた末であった。痛みはかなりのものであったらしく、尊厳ある死を認めるよう、求めていらした。

アルディさんは、いつでもどこか寂しげな、そして優しく、優美なかたであった。
少なくともテレビのインタビューを観ていて、私はそういう印象を得た。
ツアーや

もっとみる
次から次へと大冒険のCM

次から次へと大冒険のCM

ゴールデンウィーク、僕はテレビ漬けの毎日です。
映画か海外テレビドラマを、ケーブルテレビかアマゾンプライムで観ています。

ちなみにフランスにもケーブルテレビは在ります。
カナル・プリュスが老舗です。
今回はそんなカナル・プリュスのCMをご紹介したいと思います。

①大冒険最後のシーンのセリフ
若い男「それから配送用のトラックに積まれ、私はここにいるのです。」
スーツ姿の男「信じられない。なあおま

もっとみる
映画みたいに綺麗なCM

映画みたいに綺麗なCM

今回は「笑い」からは少し離れて、フランスの美しいCMを二本、御紹介しましょう。

結局、美しさには贅沢が不可欠なのでしょうか。
CMのような、経済的効率性が不確かなものに、惜しみなくお金と時間とアイディアを与える、だから美しいものができあがる-。
やっぱり、美と富と知は関係があるのかな。
考えてみれば、文学芸術も教育も、経済効率との因果関係は必ずしも明瞭ではありません。たくさんの労働の結果、たいし

もっとみる
コントレックスの、おもしろいCM

コントレックスの、おもしろいCM

1960年代から
フランスのミネラル・ウォーター、コントレックスのCMはすごい。
1960年代から21世紀まで、かわることなく、BGMがフランソワーズ・アルディの「さよならを教えて」なのだ。

おそらく歌詞で、繰り返される「エックス」という音。
それが「コントレックス」と合ったからだろう。

当初はアルディの次のような「語り」が入っていた。
Quand je bois Contrex je me

もっとみる
セルジュ・ゲンズブールが好き!

セルジュ・ゲンズブールが好き!



セルジュ・ゲンズブール(1928-1991年)が好きなひとは、とりわけ生真面目で頭のかたい〈優等生〉が支配する21世紀の社会においては、貴重だと思う。なぜなら適宜にゆるく、適宜に軽く、清濁あわせ飲んだ、包容力ゆたかな人だろうから。

以下、彼の独白を創作してみた。

コンプレックス俺、ユダヤ系じゃん。
それに、ブサイクだ。それくらい自分でわかる。
子供の頃、絵描きの父に憧れた。
俺も絵を描いた

もっとみる
映画『落下の解剖学』を観て-必然としての曖昧さと必要としての決断

映画『落下の解剖学』を観て-必然としての曖昧さと必要としての決断

トニ-と映画館でフランス映画『落下の解剖学』を観た。
トニ-はこれまでの人生の悲喜交々をすべて糧として成長した、明るく健康的で包容力のある大人の女性だ。だから僕は彼女のそばにいるとそれだけで楽しい。

ひとつの事件、ひとりの人物の曖昧さ映画『落下の解剖学』のテーマは曖昧な現実だ。

歴史学研究者として僕は、曖昧さは必然でなければならないと信じている。つまりできるかぎり緻密に徹底的に分析して、物事を

もっとみる
ミシェル・ウエルベック『地図と領土』を読んで

ミシェル・ウエルベック『地図と領土』を読んで


仏文学者ではないから、優れた書評はできない。ただ気になった点をノートしておく。

現代の孤独へのスタンス
おそらくウエルベックの小説『地図と領土』のテーマは、現代人の孤独だ。
誰もが独房にうずくまる、パノプティコンと化した、現代がテーマだ。
フーコーがそれに警鐘を鳴らしてから、既に半世紀が経った。
時代はひさしく寂しい。みんなむなしく孤独だ。

そんな孤独な人々をウエルベックは膨大な情報から浮か

もっとみる
フレンチ・ポップスのレジェンド、ルノー・セシャンRenaud Séchanの魅力

フレンチ・ポップスのレジェンド、ルノー・セシャンRenaud Séchanの魅力


とことん反体制ルノーはつねに左翼的立場からプロテストソングを歌ってきた。
だから21世紀から見ると、「いっけん」古くなってしまった楽曲もある。
例えば「六角形Hexagone」は1975年の発表。
そのなかでルノーが批判した死刑制度は、フランスでは1981年に廃止された。
それゆえ「六角形」はもはやアクチュアルな歌とは言えない。
けれどもジャーナリズムにこだわるルノーの姿に、ある種の普遍性を感じ

もっとみる
映画『アリバイ・ドット・コム カンヌの不倫旅行がヒャッハー!な大騒動になった件』を観て

映画『アリバイ・ドット・コム カンヌの不倫旅行がヒャッハー!な大騒動になった件』を観て


フィリップ・ラショー春なので心身ともに、だるい。
昨日はつらくて、家から外に出ることすらできなかった。
今日はアツアツのパスタを作って食べようとしたら、口にやけどした。
もう生きていても、愉快なことなんて何もありはしないと思う。
思えば、諦めばかりの人生だった。

憂さ晴らしと思い、軽くワインを飲んで、フィリップ・ラショー(1980年生まれ)のコメディ映画をアマゾンプライムで観た。
『アリバイ・

もっとみる
やたらと元気だけ良い80年代

やたらと元気だけ良い80年代


春なので天候が不順なせいか、元気が出ない。
仕方がないので元気いっぱいだった80年代を思い出す。
日本でアラレちゃんが「キーン」とやっていたころ、フランスの大衆文化も元気爆発だった。

ジルベール・モンタニェGibert Montagné
1951年生まれ。
彼は目が不自由だ。
でも目が不自由だからと言って、弱さをウリにして、なにか訴訟しているのではない。
訴えているとすれば、「愛し合おうOn

もっとみる
モクレンの美しさに意味はない -懐かしのディスコ曲「モクレンよ、永遠にMagnolias For Ever」

モクレンの美しさに意味はない -懐かしのディスコ曲「モクレンよ、永遠にMagnolias For Ever」


先日、あるnoteで満開のモクレンの写真を見た。
ふと思い出したのは、「モクレンよ、永遠にMagnolias For Ever」というクロクロ(クロード・フランソワ)の歌であった。

クロード・フランソワクロクロの曲は夏のブルターニュの浜辺でしばしば流れていた。
(フランスの海岸では個人がラジカセなどで音楽を流すことが禁じられている。その代わり、特定の場所でのみ公認施設が〈みんなが知っている〉歌

もっとみる