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フランソワーズ・アルディさん、死去


伝説のカップル


6月11日、フランスを代表する歌手フランソワーズ・アルディFrançoise Hardyさんが亡くなられた。80歳だった。長年、癌と戦われた末であった。痛みはかなりのものであったらしく、尊厳ある死を認めるよう、求めていらした。



アルディさんは、いつでもどこか寂しげな、そして優しく、優美なかたであった。
少なくともテレビのインタビューを観ていて、私はそういう印象を得た。
ツアーやコンサートは苦手で、むしろひとりで作詞作曲するのが好きだったそうだ。

アルディさんの旦那さんは、これまたスター歌手のジャック・デュトロンJacques Dutroncさん。
デュトロンさんは、これまたありがちだけれども、派手な女たらし。
それにもかかわらず、このカップルは結局、最後まで離婚しなかった。
伝説のカップルである。

インタビューでアルディさんはおっしゃっていらした。
大抵の女性は、愛する男のすべてであろうとする。友、母、妹、姉、愛人、妻。でもそんなのは欲張りすぎだ。自分は彼と適切な距離を置こうと思った。わたしは彼のすべてを理解できないし、彼もまたわたしのすべてを理解できない。でもそれでいいんだと思った。


デュトロンさん


デュトロンさんとアルディさんの息子トマThomasさんも、音楽家になった。
かくして父子は、お父さんの若いときの持ち歌、サボテン(Cactus)をコンサートでデュエットした。
アルディさんもトマさんとコンサートをしたかったらしいけど、病気のせいでできなかったようだ。

サボテンの歌詞の内容はこんな感じ。
世界はサボテンでいっぱいだということがわかったよ。
痛くて座ることすらできない。
あいつらの微笑みの中に、挨拶の中に、財布の中に、サボテンがあるんだ。
だから僕も自己防衛のために、自分のベッドの中に、パンツの中にサボテンを仕込んだ。
あああ、痛い。ううう、痛い。




アルディさんとデュトロンさんはふたりで1930年代の歌、あなたが旅立つというので(Puisque vous partez en voyage)を歌っている。
以下、要旨。
 
男、(ややよそよそしく)「駅までのお見送りに感謝する。」
女、「あたしのこと、からかっているの?」
男、「いや、でもさあ、見てよ。こんなにたくさんの新聞と煙草。」
女、「はいはい。どうせあたしにはオリジナリティがありませんよ。でも分かっているの?あたしたち離れ離れになるの、これが初めてなんだよ。」
男、「で、でもさあ。たった二週間じゃん。」
女、「お利口さんにしているって、毎日あたしのことを思うって、約束して。」
男、「家に帰って、僕を待っていておくれ。」
女、「ねえ、窓を開けて、お願い。」
男、「嫌だよ、そんなことをしたら、君と離れる勇気がなくなる。」
女、「やっぱり、あたし、あなたと一緒に行くわ。」


« Mon chéri. Je pars avec vous »
「一緒に行くわ」と言って、そして彼女はほんとうに逝ってしまったのです。

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