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短いお話など。書いています。
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#写真

温泉と言えば

温泉と言えば

あまり投稿が目立たない時間帯に書いてみる。

僕の中での温泉といえば、河津の今井浜。

東伊豆のね。

ちょっと前までは、写真を見返すのも結構きつかったけど、ようやく「良いところだったなぁ」って思えるようになってきた。

東伊豆の海岸だから朝日が部屋からすごくキレイに見える。

ここに来ると、その辺のオッチャンもどこか芸術的で映画のようだ。肖像権、大丈夫かな?(笑)

朝日を浴びるサーファー。この

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僕たちの真実

僕たちの真実

君の古い記憶が、真実かどうかは、僕には分からない。

街外れにある図書館に行って、司書のねずみに訊いてみるといいかもしれない。その図書館には世界中の記憶が全部載っている古い本があるそうだから。

その本から、君の古い記憶を小さな小瓶に写し取ったら、川沿いに歩いてゆこう。そして、川が海につながるところまで来たら、小瓶を開けて流すんだよ。

君の古い記憶は、さら、さら、と静かに海に消えていく。

君の

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冬の夜の夢

冬の夜の夢

その日、僕は深夜の高速道路を走っていた。

少し疲れたので、途中のサービスエリアに寄ってコーヒーでも飲むことにした。こじんまりとしたそのサービスエリアは、夜中ということもあってひっそりしていた。
カップベンダーコーナーの窓だけが不釣合いなくらい明るく手前の舗道を照らしていた。

僕はコーヒーを選び、後ろのポケットに突っ込んだままにしていたコインを引っ張り出して、ベンダーに入れようとした。

そのと

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Isolation、夏の入り口、屋上にて。【2000字改訂版】

Isolation、夏の入り口、屋上にて。【2000字改訂版】

あれは、僕が大学に入りたてで、まだ「学生寮」に入っていた頃のことだ。
田舎の大学だったけど学生寮はさらに田舎にあった。
夜のアルバイト上がり、終バスまでに乗って帰るというプランはほぼ絶望的で、夜遅くに人のいない田舎道をとぼとぼ歩いて帰るのが日課になるようなところだった。
当時、寮にはエアコンがなく、夏になると暑すぎる部屋を出て屋上で風に当たっていたのだけど、周りは山と田んぼばかりだったのでそれでな

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上昇気流

上昇気流

入梅 (つゆいり) 前のからっと晴れた日に T シャツを干すことくらい気持ちの良いことって他にあるかな?

  ・・・

入梅前の晴れた金曜日、僕は君が会社に行くのを見送ってから、部屋の窓とカーテンを全開にして、洗濯機に洗濯物を放り込んだ。
ポットでお湯を沸かしながら、仕事の準備をする。
公園の上を通り抜けた風が勢いよく部屋の中に入ってきた。

  ・・・

洗濯物を干し終わってから、僕は落とした

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ある晴れた春の日の午後について

ある晴れた春の日の午後について

その年の春の晴れた日の午後、免許を取り立ての小僧だった僕は、知り合いの自動車工場から譲ってもらったボロボロのニッサン スカイラインをドライブして、国道 8 号線を西に向かっていた。

FM ではヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」が流れていた。

何の根拠もなく、やがて来る未来には明るい日々が待っていると、多くの人が信じていた時代だったし、僕もそう思っていた。

国道8号線は、西へ西へとまっすぐ続いてい

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上昇気流

上昇気流

入梅 (つゆいり) 前のからっと晴れた日に T シャツを干すことくらい気持ちの良いことって他にあるかな?

入梅前の晴れた金曜日、僕は君が会社に行くのを見送ってから、部屋の窓とカーテンを全開にして、洗濯機に洗濯物を放り込んだ。 氷がたっぷり入ったサーバーにコーヒーを落としながら、頭の中で仕事の準備をする。ちりちりと氷が解けていく音がする。夏もすぐそこだ。

公園の上を通り抜け

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最高の夏のランチ、あるいは、カリフォルニア・ガール

最高の夏のランチ、あるいは、カリフォルニア・ガール

その年の僕の夏は、デイヴ・リー・ロスの歌う「カリフォルニア・ガール」で始まった。

僕は、単位を 2 つだけ残して留年していて、週に 1 回大学に行けばいいだけ、という暮らしを半年していた。仕送りを止められていたので、なるべくお金を使わないように、授業やアルバイトのない日は、あまり出歩かないようにしていた。

僕が下宿していたアパートはとても家賃が安いのにしっかりした 2 階建ての鉄筋のアパートで

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終わらない夏休みのような人生

終わらない夏休みのような人生

長い夏休みのような人生だな、と思う。
永遠に二学期が来ないような夏休み。
かき氷、蝉の声、入道雲。
夜の夏祭りのことだけを考えていればいい夏休み。

気付いたらずいぶん遠いところまで来ていた。

人生はもっとざらっとした手触りがあるものだと思っていた。
きっと世の中の多くの人生はそうだろうし、人生とは本来そうあるべきだと思う。

でも、そういう人生じゃないな。
誰のためにも、なっていない。
何も遺

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象との夏。―  あるいは、スウィート・ホーム・アラバマ

象との夏。―  あるいは、スウィート・ホーム・アラバマ

「ビールが美味い季節になってきたね」 と僕が言った。

「まぁ、僕の故郷では年中こんな感じさ」 と象は教えてくれた。

「夏が来ると、故郷が恋しくなったりしないかい?」

「年中、恋しいさ。でも、ここでこうやっているのも悪くはないよ。
暑い夏が来てビールを飲んだら、どこにいても君は僕のことを思い出してくれるだろう?
もし僕が忘れられて箪笥の隙間に落っこちて埃だらけになっていても、きっと君は僕を思い

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アイスコーヒーによって導かれる記憶の輪郭について

アイスコーヒーによって導かれる記憶の輪郭について

どうしてもアイスコーヒーが飲みたくなったのだが、深煎りのマンデリンを切らしていた。

半分空けたブラインドから見える7月の終わりの景色は太陽で真っ白に塗りつぶされていた。そんな中、豆を買いに行く気にもならず、僕は仕方なくマンデリンの生豆を深目にローストして挽き、氷を一杯入れた銅のマグカップに落とした。
氷がカップの中で「ちりちり」と音を立てて解けた。

アイスコーヒーを三分の一くらい飲んでから、僕

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晴れた休みの日と、装置としてのカメラと、君について

晴れた休みの日と、装置としてのカメラと、君について

「今日は本当に良い天気ね。」

君はそう言って、カメラという装置で僕らの上に広がる空気を透き通ったガラスの箱に、どんどん詰めていった。

カシャ

ガラスの箱に空気をひとつ詰めるたびに、君はガラスの箱を光にかざして検査し、大事そうにひとつひとつしまっていく。

こんな良く晴れた日に、その作業をする君を眺めているのが僕は大好きだ。

  ・・・

時折、君はガラスの箱をひとつ持って僕のところにやって

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夜道の街灯と、君が教えてくれたこと

夜道の街灯と、君が教えてくれたこと

  ・・・

僕たちはあまり外食をしないほうだったけど、秋の夜には地酒を出す居酒屋にも行ったりした。

居酒屋の帰りはいつも、少し涼しくなった風に当たりながら、人がいなくなった古い商店街をテクテク歩いた。

まばらにある蛍光灯式の古い街灯は随分頼りなさげだったけど、僕は君とこの夜道を歩くのが好きだった。コインランドリーの大きなガラス戸の光でさえ、とても優しく涼やかに感じた。

電信柱にかかっている

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図書館に行くことについて

図書館に行くことについて

図書館、っていい響きですよね。静かで整然としていて。

いろんなことがすべてルールに則っています。
すべてのものは名札と番号が付けられ、きちんと整理されて、棚にしまわれます。『日本造船年鑑 補遺版』 から 『お父さんの英会話』 まで分け隔てなく。

そこには感情に左右されたりすることはひとつもありません。穏やかに、静かに、時間も整然と過ぎてゆきます。

図書館のように生きて、図書館のように老いて、

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