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古賀コン5(私立古賀裕人文学祭) 作品全感想

はじめに

 佐藤の能力不足+時間不足により的外れなことを書いている可能性があります。どうぞご指摘ください。


1. 大江信さん「一●入魂 対 不撓不屈」

 古賀コン5の開幕にふさわしい瑞々しい暴力に満ちた作品。古賀裕人さんと、「第一座右の銘」という書きにくいテーマに挑むんだ! という意気込みを作品から感じました。「負けねえ!」という叫びがよかったです。僕も頑張って感想を完走しようという力をもらえました。

古賀コンは投票期間が短いのでなるべく早く投稿して若い番号をゲットしたほうが読まれやすくて有利だということは前回の経験で分かっていたので、開始直後に作品を投稿するという戦略も見事だと思います。
僕も狙っていたのですが、ふつうに中盤になりました。

2. 添嶋譲さん「なるように、な」

座右の銘を廃止する路線の作品、と思いきや、座右の銘をうまく生かし、最後は感動につなげたのが見事でした。良くも悪くも人は言葉に縛られるというのを感じました。1時間という枠内でうまく仕上げた作品だなと思いました。

3. 闇雲ねねさん「そこのけそこのけねねが通る」

僕は今でも厨二(中二)病にかかっているので、「殺られる前に殺る」にはあこがれます。
 うぃっ
 うぃっ
 うぃうぃっ
というラストがかわいらしさと残酷さがあってよかったです。

4. 非常口ドットさん『◯◯◯◯◯◯』

非常口ドットさんの介護職を題材にした安定感のある作品を今回も読めてうれしいです。今作は前作よりテクニカルな印象です。『◯◯◯◯◯◯』に入る座右の銘が何なのかと考えながら楽しく読めました。見事なアイデアです。
空欄に入るのは「一人はみんなのために みんなはひとりのために (One for all, all for one)」でしょうか?同じ言葉でも人によって解釈が違うというのがよく表れていました。うまいです。

5. サクラクロニクルさん「Beginning of Iron Lilies」

またサクラクロニクルさんの百合作品を読めてうれしいです。今回はR-18指定ということで、濃厚でした。少女たちの気高さや繊細さを感じました。特にシズクが動揺を気の強さで隠そうとしているところがよかったです。好きです。「わたしが、部長や、新しい仲間と灯火を争う」続編を読みたいです。

6. 野田莉帆さん「とにかく生きろ」

https://ncode.syosetu.com/n2108jc/1/

作中の「野田」は野田莉帆さんを本人を指しているのでしょうか。そうだとするとかなり実験的な作品だなとおもいます。勢いがあっておもしろかったです。

7. 我那覇キヨさん「ブーメラン、飛んでいるか?」

ドラクエをプレイしたことのない僕にもブーメランの優秀さが理解できるすばらしい作品です。「要するに座右の銘ってのは、心に構える武器のことだ」という一文目から「じゃあな」という終わり方までかっこいいです。

8. 草野理恵子さん「ぜぜひひ」

お久しぶりです。「ひひひひ」「ぜぜぜぜ」などの音の感じが楽しかったです。ばかうけから壮大な世界観を展開できるのはさすがだなと思います。
久しぶりにばかうけを食べたくなりました。

9. 小林猫太さん「小林寺三十六房」+「天才ソングライター粟津堅志対不可視の敵」

小林猫太さんらしく「第一座右の銘」という題材に真摯に向き合った作品だなと思いました。ただの「座右の銘」ではないというところが生かされていると思います。第三座右の銘くらいまでなら珍しくないですが、第三十六座右の銘まで出してくるのはさすが小林さんです。全作品を読みましたが、最多座右の銘だったはずです。たぶん。
時間的に厳しかったのでしょうが、次回予告もあったらさらによかったと思います。

「天才ソングライター粟津堅志対不可視の敵」
真面目な小説。油田のように次々と抱腹絶倒の傑作を生みだす奇才・小林猫太の創作の秘密や苦悩を元にした作品、なのかもしれないと思いながら読みました。違ったらすいません。

10. こい瀬 伊音さん「ばいばい ばいばい」+「Fの予感」

 関西弁のことは詳しくないのですが、関西弁がいい雰囲気を出していたと思います。「センパイはいっつも肉を切り売りしてばかりで、ほんまはいっこも骨には触れてへんのんちゃうん?」とか標準語だと冷たくなりそうだけどちょっと優しさを感じました。最後も救いがあってよかったです。安易ではない愛があったと思います。

「Fの予感」
「曇り硝子」が特に好きでした。「切られ、塗られ、巻かれ、洗われ、切られ、すかれ、吹かれ、巻かれ」にこい瀬さんらしさを感じました。

11. 夏目ジウさん『筋書きのないストーリー』

ショートショートとしてうまくまとまっている作品。オチまで上手でした。作品全体から家族の温かさを感じました。うらやましいです。

12. 日比野 心労さん「中学のときからのツレが地元でメイドバーを立ち上げるって言うから、友人割でサクラやってたら見事にハマった俺の話でもする?」

実体験風の作品。ありそうでなさそうでありそうなバランスがよかったです。勉強になります。

13. じゅーりさん「金曜日二時間目、座右の銘の授業ののちランランラン」

作品全体にリズム感といきおいがあります。「はい」を繰り返しているのがいい雰囲気です。「いいよ。いけ。どこまでへも。」というラストもよかったです。タイトルも好きです。元気がもらえます。

14. 佐藤相平「第誤回 私立古賀裕人文学祭感想」

 過去の偽感想ネタがこちらです。よろしくお願いします。

15. 赤木青緑さん「生きるに尽きる」

余命を受け入れて生きる姿やラストシーンが感動的な作品。全く動じない語り手の「余」は何者なのか気になりました。しかし圧倒的な大物感が作品をありきたりな話から離れ、ユニークなものにしてくれたと感じます。

16. 渋皮ヨロイさん「石褒め」

「石」が何かの比喩なのかと考えましたが、そういうことを抜きにしてもとてもおもしろい作品です。小説がうまいです。「石褒め」というタイトルもなんかよかったです。前回の「名前を変えてやる」同様、小説にいい感じの空白があり、想像を膨らませられました。いろいろな謎がありますが、おっさんがどうして石とまぐわったのかが一番気になりました。

17. 染水翔太さん「川」

軽やかだけどとてもうまい作品だと思いました。学びたいです。「どこ高~」って呼びかけるところがなんかよかったです。「名前は~? おれ三浦!」もいいです。リアルな高校生感がありました。

18. 安戸染さん「You know me」

さなこんの出だしを利用するというアイデアがいいです。
僕も「第一座右の銘」という今回のお題に違和感があったので、teach that you know me.を暗示しているという指摘には納得できるものがあります。僕も序文をよく読んで自作に利用したはずなのに気づきませんでした。
古賀裕人小説としても見事だったと思います。

19. えこさん「有終完美(期間限定、氷菓飲料。砂糖過剰、中空菓子)」

14歳、という雰囲気が作品全体にみなぎっていました。自意識過剰な繊細さがさわやかでよかったです。「放課後の教室に差し込む夕日って、涼やかな初夏の風って、なんてことない平凡な14才の顔を、無駄に荘厳に見せてくれる」とかすごくいいです。オチまでの流れも自然でした。

20. 野本泰地さん「for all?」

現実にいそうな登場人物たちがいいです。特にカルピスの原液を飲むくだりがよかったです。生々しいです。「三十六年後の広瀬の葬式でも、この話で三人は盛り上がる」など自由自在に時間を飛ぶ語りも巧みです。終わらせ方もよかったです。

21. 高遠みかみさん「まちなかアンケート! 100名に座右の銘を訊いてみた!」

前回の「記憶喪失集」同様知的な作品です。最初から最後までセンスの良さを感じます。確固たる世界観を感じました。圧倒的な才能を楽しみました。ありがとうございます。ファンになりました。

22. エンプティ・オーブンさん「県立第一座右の銘高校校歌」

校歌は好きなので、校歌ネタの作品を読めてうれしいです。第一座右の銘を最後までごり押ししているところがよかったです。こういうネタは中途半端にならずにやり抜くことが大切だと思います。
また県立高校にしたのもいいです。宮城県宮城第一高校や熊本県立第一高校みたいでオーラがあります。また県立第二座右の銘高校や県立座右の銘西高校、県立座東の銘高校があるのではないかという妄想も膨らみます。

23. 栗山心さん「右」

「第一座右の銘」というお題をうまく生かし、使い尽くした作品。はじめの三和土についての細かい描写(好み)から「右」の話への展開が巧みです。「座右の銘」の「右」要素にこだわるのがいいです。また「第一」だけでなく「第二十七」まで出してきたのも感動します。人々が座右の銘を右に持ち歩く光景もおもしろいし、ラストに向かってだんだんと左右のバランスが崩れていく感じも楽しめました。

全作品の感想を書き、栗山さんのこの小説に投票することに決めました。テーマである「第一座右の銘」を最もうまく生かした作品だと思えたからです。「座右の銘」についての作品を書いた作品は多かったですが(正直、僕の作品もそうでした。また「座右の銘」作品にもすばらしいものがたくさんありました)、「第一座右の銘」を生かした作品は意外と少なかったように思えます。もちろんテーマの解釈の仕方は自由ですが、やはり「第一」を無視してはいけないのではないか。そういう信念でこの作品こそ古賀コン5を代表するにふさわしいのではないかと(勝手に)考えました。
なんか偉そうに審査委員長みたいなことを語ってしまってすいません。

24. ケムニマキコさん「シンジくん」

座右の銘廃止路線の作品。座右の銘がある人なんて最近あんまいないよねと納得できる作品。どんな言葉でも叩こうとすれば叩けるよなという暗い将来図に説得力があります。「「逃げても、いいよ」その言葉が誰かを助けた姿を、私は一度も見たことがなかった」というのも鋭いです。
座右の銘ディストピアを楽しめました。

25. 結城熊雄さん「バイ・マイ・サイ」

前作同様、魅力的な表現が多い作品。
1行目から作品に引き込まれます。
「彼女が使う言葉には、誰も足を踏み入れていない一面の新雪に、ざっくざっくと足跡を残していくような、そんな軽快さと気持ちよさがあった」
 とか特によかったです。
上品なエロさがありました。
座右の銘という言葉を作品内で使わないのも個性がありました。

26. 1/2初恋、あるいは最後の春休みさん『座右の銘in暴論』

さなコンの冒頭を利用した出だしがいいです。
「第一座右の銘」という今回のよくわからないお題と真剣に向き合った作品。徹底的に考えつくしている感じが好みです。

27. 夏川大空さん「第一座•右の銘」

第一座/右の銘、という切り方は僕も思いついてはいたのですが、どう作品(ネタ?)としてまとめればいいのかわからなくて放棄したので、さすが夏川さんだなと感じました。「銘」という文字の生かし方もいいです。最初から最後まで全開の夏川ワールドを楽しみました。

28. 万庭苔子さん「我が道を行く」

僕も「労働」や効率性が嫌いで、散歩と読書が好きなので楽しかったです。そういう方が古賀コンの参加者にも多いと信じているので、きっと多くの人が共感できる作品だったと思います。〈ここで時間切れ〉で終わるのも目的地がない感じが出ていてよかったです。

29. のべたんさん「黄金の風」

僕はジョジョについて全く詳しくないのでこの作品について語る資格はないと思いますが、勢いの良さは感じました。

30. 百目鬼祐壱さん「第一座右の銘」

「げんげん、そんな言葉、しらない」がかわいくていいです。古賀裕人さんが日本語を崩壊させようとしているという陰謀もおもしろかったです。ちなみに僕がYoutubeで「第一座右の銘」を検索したところ、「座右の銘」関連の動画がたくさん出てきました。
「風呂上がりだったので、体には何も身に着けていない」からの後半の展開がめちゃくちゃよかったです。ライオンになった語り手が古賀裕人さんをぶっ飛ばしたところに爽快感があります。「私の悲しみは疾走する」というのがいいです。勢いが素敵です。
タイトルがそのまま「第一座右の銘」なところにも強さと潔さがあります。

31. 和生吉音さん「座右のメェ」

タイトルが優勝。うらやましい発想です。出オチにならず内容も充実していて、『情けは人のたメェならず』などネタがとにかくいい。うさん臭さが素敵で笑えました。

この作品を参考にトップ画像は羊を選ぶことにしました。メェ

32. 貞久萬さん「チェリオス効果 -1.0」

ルビの使い方がおもしろかったです。勉強になります。ラブレターを冷凍庫に入れているのには笑ってしまいました。ラブレターの内容にも笑いました。

33. はんぺんたさん『家宝を売りに行った話』

僕も働く気がなかった時代は父のレコードや切手を売って生計を立てていたので親近感がもてる話です。記念コインを持っていったら「金かどうかわからない」的なことを言われたのも経験があります。多くの人が共感できる佳作だったと思います。前回の「ショートケーキの思い出」もそうでしたが、はんぺんたさんは身近な題材を物語にするのが上手だなと思います。好きです。

34. 柊木葵さん「『不良における座右の銘とその変遷』より抜粋 第十三章」

不良たちのキャラクターが魅力的です。不良グループというよりバトル漫画の能力者集団みたいだなと、ちょっと思いました。かっこよかったです。

35. げんなりさん「ノーマライズ」+「日曜ラッパー」

ペンギンSF。哲学的な対話だなと思いながら一度目は読みましたが、ペンギンと猫の対話(?)だと思って読み直すとかわいかったです。二度楽しめる作品です。

「日曜ラッパー」
シャブじゃなくてしゃぶしゃぶなんだと思いながら読みました。リズム感があってよかったです。特に「硬くなるから早く食べなさい」からの畳みかけるような勢いが好きです。

36. はしもとゆずさん「七転び八起きまたは七転八倒」

一時間以内にこんなにすばらしい絵をよく描けるなと今回も驚きました。今回はかわいらしさの中に暗さがあって、個人的には好みです。「とりあえずすごくうつ でも頑張って生きてみる」という単純な励ましでない言葉に力をもらえました。ありがとうございます。

37. 蒼桐大紀さん「雨上がりの青は日々是好日(未完)」

 いつも通りの安定感と安心感がある百合作品です。今作は会話やセリフがいいなと思いました。
「タイムアップ」
「あ、あ、アディショナルタイム」
「時間過ぎたらアンタッチャブル」
「ですよねー」
 とか
「第一というのはファースト、それともプライマリ?」
「ファーストでもありプライマリでもあった、って感じかな」
 とか輝いています。
 作品内で古賀コンみたいなことをするという設定もアイデアとしてよかったです(過去の応募作にはあったのでしょうか?)
 登場人物の名前もみんないい感じで、名前をつけるのが苦手な僕は参考にしたいです。
 タイトルの(未完)にも意味があってうまかったです。
 と思っていたら、本当に未完の作品だったんですね。完成版を期待しています!

38. ししゃもさん「早く寝ることを座右の銘にしろ。」

今回も自由な語りがよかったです。ラジオや配信を聞いているみたいな気持ちで楽しみました。写真を載せるのも独創的でした。

そして、久しぶりにししゃもを食べたくなりました。

39. 只鳴どれみさん「Quest」

すごいおしゃれでかっこよかったです。わかりそうでわからなくてわかるギリギリを攻めている感じがしました。「2nd time」のパートが個人的には一番好きです。音読するとさらにいい気がするので誰かに文芸実況をしてほしい作品です。

40. 世界 彗星 灯台 プールサイド アサルトライフルさん「ど」

「言葉の力ってマジですごいから」というセリフの通り、言葉の迫力がある作品。畳みかけるような展開(特に「死に、酢に、背に、祖に、祖先に、感謝、地球、草原、素足で触れて、ありがとう、本当は全く感謝してないけど」の部分が好きです)が続きます。「。」が最後にしかないですが意外と読みやすいのは作者さんの高い実力のおかげだと思います。作品全体の焦燥感や生きづらさと形式がマッチしていました。世界に押しつぶされないようにあらがう祈りを感じました。

41. 虹乃ノランさん「My 1st MOTTO:」

今回は古賀裕人ネタではないのですね!でも今作も会話のテンポが最高です!正統派でいい恋愛小説でした。咲夜は魔性の男だと思います。

42. 群青 すいさん「第一座右の銘」

「第一座右の銘」をタイトルにしたのが強いです。「それは愛です」からはじますのも強いです。さわやかさの中に様々なイメージが巧みに仕組まれている気がしました。「むかしから花がすきなのは きれいだからじゃなくてしたたかだから」とかドキッとしました。いいです。

虹乃さんの作品に続き、愛を扱った作品です。連続で読んでいると内容につながりがあるような気がしてさらに楽しめました。古賀コンならではの楽しみ方で個人的には好きなんですが、勝手な読み方かもしれません。

43. 比良岡美紀さん「先輩は言った。ユキオに看取ってもらえたらそれで」

何度も読み返した作品。どうして先輩は死んだのだろう?たぶんあまり話を理解できていないのだと思います。すいません。
それはとにかく、先輩とユキオのボーイズラブとしても楽しめました。

44. 子鹿白介さん「ザキカワさん」

勢いのある語りが楽しい作品。ザキカワは乱暴そうにみえて意外にいい人なんじゃないかと思いました。

45. 入間しゅかさん「金言集め」

第一座右の銘を買い取るという設定が斬新です。しっかり「第一」の部分も生かしているのがいいです。
いろいろと考察の余地がある作品です。「きみにはまだ働いてもらわないと困るよ」というセリフがありますが、心が死んだ「きみ」にどんな存在価値があるのだろう。そして、ヤマモトはどうして「きみ」を殺したのか。どれが本当の記憶でどれが存在しない記憶なのか。多層的で楽しめました。

46. 洸村静樹さん「神様のとどめ」

洸村さんの作品を読むのは「三月の子供たち」以来ですが、今回も1時間で書かれたながらも完成度が高いです。文章や展開に安定感があります。一文目からラストまで完璧です。登場人物の背景に重みを感じました。また神的なイメージも洸村さんらしくてよかったです。
古賀コン5では数多くの座右の銘や名言が登場しましたが「最後は神様がとどめをさしてくれる」という言葉が一番記憶に残りました。

47. 豆腐さん『ジェル男「お前みたいなやつを落とすためだよ」

 座右の銘を切り口に社会の厳しさや欺瞞を追求した作品なのかなと思いました。それだけに、「今日と180°違うこと言ってる自分がそこにいたとしたって、それも生きるためだよねって、優しくしてあげたらいいじゃない」という言葉に救われる気がしました。
 僕は就活をしたことがないのでわからないのですが、「座右の銘」ってよく聞かれるものなんですか?

48. 齋藤優さん「白昼セゾン」

不思議で不穏なことが起きているのに読みやすい作品。作者さんの力量を感じました。「ぎょうざ無料券を一枚うけとり、わたしはもう家に戻れないとおもう」とかさらっと書いてあるのがいいです。「旦那も二重で、あの人も二重だ。息子も二重で、だれよりも愛しい」も、だれよりも愛しいのは息子でいいんだよなと、不安になりました。たまプラーザ駅ビルという舞台も好みです。短編としても完成されていますが、長編でも読みたい題材だなと思います。

49. 久乙矢さん「宇宙の終わりと第一座右」

 はじめかたが古賀コンの設定をうまく利用していてよかったです。「第一座右」という発想も独創的です。今回のよくわからないお題を感動のSF作品に仕上げたのはすごいなと思います。よく考えるとこの人たちは理科準備室で何しているんだろうというところも肩が抜けていてよかったです。そして今回も構成がしっかりしているなー、というところを見習いたいです。

50. 菊池藍さん「Novel 1」

都会的でかっこいい作品。クールな描写が好みです。「夜の首都高速道路に走っている方向に対して少し西に位置している満月と、車のバックミラーに映るハシモトの顔が、実際のハシモト自身の顔と向きあい、ある不思議な絵本の世界に迷い込んだ感覚を醸し出しているのだ」とかすごいです。「突如として、タクシーが左の道端に急停車した」からの展開もミステリアスでいいです。

51. 小林TKGさん「アーネスト」

https://hametuha.com/novel/94776/?utm_source=Twitter&utm_campaign=share-dashboard&utm_medium=4128

私小説的な作品かなと思いながら読み始めましたが、嫌な上司の話かと思いきや、その上司が実は、という展開には驚かされました。雑司ヶ谷の使い方もうまいです。前半の有名人の墓の話が後半の展開につながるなど構成が巧みです。最後もよかったです。手練れの作品という印象です。

52. 祐里さん「神風に散る桜」

ストレートな物語。短い中でうまくまとまっている作品だなと思いました。状況もわかりやすかったです。

53. くもしろ薔「柘榴の花がこぼれる」

とてもおしゃれで美しい作品だなと思いました。「わたしは素足の指の間をひろげたり反らしたり 親指と小指を丸く近づけ」などの身体的な描写が特に好きです。「ケ・セラ・セラ」の繰り返しにも余韻がありました。

54. 海音寺ジョーさん「我以外皆和菓子」

「葉桜やハローワークにも山師」
ハローワークに行った時のことを思い出します。なんか好きです。
タイトルになっている「我以外皆和菓子すか桜桃忌」もよかったです。「すか」ってところがいいです。

55. 升宮生さん「今日も雨」

「この街の雨は10年以上、降水量約10mmで一定に降り続いている」という設定がよかったです。作品全体に詩的な情緒がありました。
「第二の座右の銘」という着眼点もよかったです。たしかに「第一座右の銘」があるなら「第二」もあるはずですよね。そして「第一」は明かさないで終わるというのもユニークでした。

56. 春永睦月さん「本物のあそびというものは。」

座右の銘についての真摯な考察。たしかに文学にも人生にも、あそびは大切ですよね。「遊ぶ子どもの声聞けば 我が身さへこそ揺ゆるがるれ」の部分は知らなかったので勉強になりました。

57. 堀部未知さん「のり~パンチ力の愛~」

第一段落目に衝撃を受けました。みなさんも絶対に読んでください。「そんなわたしの息抜きは銅像の自由な配置」とか、すごいなと思います。
「第一座右の銘」の「一」を伸ばす音と解釈するのも斬新です。

58. 入谷匙さん「回転するコルク」

哲学的な作品だなと思いました。前回の「穴の底から」もそうでしたが、風景描写が独特の世界観をつくりあげています。「なんてことを考えながら、首をかくんと右に倒す」からはじまる段落の描写が特にいいです。

59. 松本玲佳さん「私は麻薬」

圧倒的な文章力。そして、強いメッセージ性がある作品。最初から最後までかっこよかったです。僕も「不可能という言葉ほど私に似合わない言葉は存在しない」とか言えるようになりたいです。あこがれます。「信じるのは自分だけでいい。だって神様はあなたの中に宿っているのだから」という最後の文章に力をもらえました。あるいは、この作品自体も麻薬なのかもしれません。

60. 吉野玄冬さん「美と共に歩んでゆく生」

芸術に対しての真摯な考察。いろいろなことを学べたし、とても勇気をもらえました。

61. 藍笹キミコさん『「夢は歩み出せば目標になる」』

途中までは目標をもつ大切さをストレートに語る体験談のような作品だなと思って読んでいました。が、姪が登場して新しい視点から再度前半の内容を批評するという流れがおもしろく、物語に深みを与えてくれたように感じます。家から駆けだしていく姪をどんな気持ちでキミコは眺めていたのだろうという想像がはかどります。

姪なのは銘とかけているのでしょうか?

62. 奥野じゅんさん「戸籍に座右の銘の記載が必須になって、五十年が経った。」

政府が座右の銘を制定する系の作品では、座右の銘が否定的に扱われることが多かったのですが、この作品は基本的に座右の銘に対して肯定的なところがユニークでした。座右の銘を知ればその人がわかるという利点を改めてしっかりと指摘してくれたところが新鮮でよかったです。
文章は安定して読みやすく、最後も斬新だけど納得感がありました。とても満足感がある作品です。

63. 津早原晶子さん「I always stroke my cat when I’m sad.」

僕もラジオ体操第二は好きです。個人的には第二からは大人の雰囲気を感じます。

という子供時代の話から時系列がどんどん飛んでいくのですが、勢いがありながらも読みやすく、最後の一行もよかったです。

64. 仲根工機さん「ドキノレパーク駅にて」

世界観がかっこよかったです。海外SFの翻訳を読んでいるようでした。「心入」など用語もいいし、「人工肛門が人工太陽として輝き続ける」というのもよかったです。

65. 化野夕陽さん「卒業文集」+「逆光のポリフォニー」

ストレートに感動的な作品。たしかに自分が言ったことを忘れたことを、他人がずっと覚えているということはありますよね。僕の小学校六年の時のクラスは崩壊していたので、こんな先生が担任だったらよかったのになと思います。小学校の先生には本当に頭が下がります。

「逆光のポリフォニー」
今回のガリトラの作品集『Cantando』の中でも個人的には一番好きな作品(もちろん他の作品もすばらしいです)。あえて言ってしまえば王道で予想できる展開の物語ですが、それでもひねくれている僕が感動してしまうくらいの力がありました。結局、王道が一番強い。

66. ハギワラシンジさん「洞窟たのしい!」

ハギワラさんにとって誉め言葉になるのかはわからないのですが、「めちゃくちゃ小説が上手い」という作品。個人的にはハギワラさんは「上手い」小説を意図的に回避しているような印象があったので、意外でした。冒険のワクワクドキドキ感を楽しみました。「まるで追い詰められたトムソンガゼルのように華麗に宙を蹴った」とか躍動感があります。「ボヨンどたん、ゴロゴロ〜」もよかったです。明日を生きる活力と繁殖力をもらいました。
でも冷静に考えるとこんな洞窟、自分が入ったらたのしくないです。

67. 翠雪さん「青い永遠、蝉時雨」

青春のきらめきと倦怠感が伝わってきました。細かい描写から夏の湿度も感じます。現実の夏の訪れが楽しみになります。いいです。

68. 中務滝盛さん「赤いバックライト」

最初から最後まで僕も共感できる内容でした。特に「今なら分かる。三振してもいいからバットは振るべきだったし」からはじまる段落は僕にも刺さる内容で、つらいけど良かったです。夕陽が部屋を染める光景も印象に残ります。この作品を読めてよかったです。ありがとうございます。

そして、2作連続で夏の暑さを感じる作品でした。

69. ゼロの紙さん「犬に似ていた人生だった。」

「昔から、鏡が苦手だ」という出だしが強くていいです。ヤマシタが包丁を鏡の代わりに使うエピソードがめっちゃ好きです。「わたしは好きになるとわりと顔のことは 委ねられる」という一行は天才的だし、その後の考察もすごくいいです。タイトルも魅力的な作品。

70. 山崎朝日さん「第二座右の銘」

祖父の暖かさが魅力的な作品。また祖父をみつめる語り手の視線にも暖かさがあってよかったです。

71. ときのきさん『越冬記』

フリッパーがあるということは登場人物たちはペンギンなのでしょうか?ググるとコウテイペンギンはオスが卵を温める(世界一過酷な子育てとか書いてあります)のでそれを題材としたのかもしれません。
が、ペンギンなのかがあいまいなことで、(フリッパーや「泳ぎと魚取りを教えたい」など全体の描写にはペンギンっぽさがありますが、「おれたちのような人種」など人間を思わせるような表現もあります)人間世界のジェンダーの役割を問い直すような広い射程のある作品になっていると思います。とても巧みな設定です。「男は背中で語るべきだ」「男らしい男」などありきたりな言葉の意味に変更を迫っています。

72. 不破安敦さん「ある夜の依頼者」

アダルトでかっこいい作品。スパイになったようなワクワク感を楽しめました。指輪の使い方もうまいです。

73. 南国アイスさん「南国家の文献による座右の銘に関する一つの考察」

ひいおじいちゃんがロックでかっこいい作品でした。南国家ついて聞くのはこれがはじめてですが、名家なのでしょう。もっと知りたくなりました。古賀コン5の最後にふさわしいさわやかな作品だったと思います。

最後に

参加者のみなさん、そして古賀裕人さん、ありがとうございました。

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