今日も雨
コンクリートを打つ雨の音だけが響く夜の街を、ある男が歩いている。傘を持たないその男には、訝しげな視線が向けられていた。周りの人の視線を気にするそぶりもなく、男は歩き続ける。
この街の雨は10年以上、降水量約10mmで一定に降り続いている。男は8年前、国から雨を止める為にこの街へと派遣された。全能感に溢れた若者であった男は、「私ならこの雨を止める事ができる」と信じて疑わなかった。日夜研究し続けたが、雨を止める事が出来なかった。街の人々の期待は失望に変わっていった。自分自身もそうであった。今も降り続く雨の音は、男には自分に向けられた不正解のブザーのように聞こえている。
歩き続けながら、男はある事を考えていた。
男は座右の銘を聞かれると、必ず「一石二鳥」と答えた。そう答えると決まって質問主は、「テキトーに思いついたことわざ言っただけでしょ」だとか「それしか知らないんじゃない?」といった言葉を男に投げかけた。男は適当に答えた訳でもなく、もちろん他のことわざも知っていた。"一石二鳥"はこの男にとって、本当の座右の銘を答えたくない為に用意した第二の座右の銘である。男は本当の座右の銘を答えたかった。だが、今はそれが出来なかった。
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