佐藤相平

英語などを教えながら小説や感想を書いています/第二回かめさま文学賞受賞/Mr. &am…

佐藤相平

英語などを教えながら小説や感想を書いています/第二回かめさま文学賞受賞/Mr. & Mrs. Abe Arts & Culture Prize金賞/第3回フルオブブックス文学賞エッセイ部門佳作/Twitter(https://twitter.com/souhei_sato

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英単語検定1級に挑んだ7人の男たち

会場にいる受験者は7人。なぜか全員男。 試験官もおじさん1人。 密室に閉じ込められた8人の男たちにより英単語検定はおこなわれた。 手渡された問題冊子。 紙が薄くて問題が透けて見える。が、見ないようにする。 時間ギリギリまで単語帳を見ていても何も言われない。 試験開始時間が電波時計と2分くらいずれていた気がするが、気にしない。 問題を解き終えたら、途中退出は自由。どんどん受験者が退出していき、試験終了時点では僕を含めて2人しかいなかった。 試験後、僕は1年ぶりに

    • 首の骨は誰が、何度折ったのか 坂崎かおる「私のつまと、私のはは」についての考察

      はじめに  坂崎かおるさんの短編集『噓つき姫』に収録されている「私のつまと、私のはは」の考察です。作品を読んでからこの記事を読むことをおススメします。 導入 初読時は「一人で世話するのに疲れた知由里が、ひよひよの首の骨を折りまくって、何度も初期化して上限に達したんだな」と思いました。 しかし、それなら二人が再会するまでに、ひよひよは大きくならない(成長しない)のではないか。 まず、作中の時系列を整理しておきます。 ひよひよが来てからはじめての〈集い〉は夏(「よく

      • 古賀コン4(私立古賀裕人文学祭) 作品全感想

        はじめに  佐藤の能力不足+時間不足により的外れなことを書いている可能性があります。どうぞご指摘ください。 1. 非常口ドット「無限ループ」  非常口ドットさんは介護福祉士として働いているようなので、ご自身の職場での体験を題材にされたのかなという作品。主人公の成長がストレートに描かれていていることに好感が持てます。介護職のやりがいが分かったと言ってしまうのは安易かもしれませんが、自分の仕事に対して責任を持っているというのが素晴らしいです。  社会状況のせいか暗い話が多い

        • 潰す(古賀コン4応募作品)

           ゆるやかな上り坂の途中に、「回収できません」という紙が貼られたマットレスが捨ててある。それを避けて前を向くと、見覚えがある黄色いトレーナーが見えた。  イートンだ。  黒縁メガネと緑の短パン。教室にいる時と同じ服装をしている。  いつも黄色いトレーナーを着て、ブタみたいな雰囲気だから、イエローの豚を略してイートン。ピッタリな名前だ。  イートンは車道に何かを投げている。緑や茶色の跡が道にある。草とかワラに見える。  もう少し近づくと、イートンが投げているのがバッタだと分かっ

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        英単語検定1級に挑んだ7人の男たち

          the 最上級 of the twoは間違いなのか

          はじめに  だいたいの参考書に、the 比較級 of the twoという文法が出ている。でも現実は、the 最上級 of the twoもよく使う、ということを説明する記事です。 基本説明  the 比較級 of the two「2つのうちでより~」は、最上級でないのにtheを使う、でもtheにつられて最上級にしてはいけない、というのがポイントだ。  The guitar is the better of the two.  2つの物を比べているので比較級。だけど

          the 最上級 of the twoは間違いなのか

          BFC5落選展感想「ダダダダダ」まか

          「鈍く汚れた鉛よりも美しくあたたかい言葉をたくさん撃ちたいよ」という一文の通り、言葉が濃密な作品。幻想的であると同時に力強い、原始的であると同時に電子的な描写が、現代社会の地獄につながっていく展開が素晴らしいです。これが、計算されたものだとしても、感覚的にできあがったものだとしても、すごい力量の方だなと思いました。  まかさんのX(旧Twitter)によると「ガザや戦争のことを取り込まずにはいられなくて途中で書き直した。 このタイミングで無視はできなくて」ということらしいです

          BFC5落選展感想「ダダダダダ」まか

          BFC5落選展感想「不夜城のサングラス」+「火はどこに消えるのだろう」吉美駿一郎

           ハードボイルドな雰囲気がある作品。不夜城といえば、馳星周さんの作品が思い浮かびますが、関係あるのでしょうか。  この作品ではバッティングセンターやラウンドワンが不夜城なのかなと思いましたが、サングラスは?というのが初読時の感想でした。読み返すと、「適切な色眼鏡がないからだ」という一文があり、ここがサングラス要素なのかな、と考えました。「五十代で打撃に開眼した」藤田を適切にカテゴライズする色眼鏡を人々は持っていない。  一方で藤田は「朝七時のラウンドワンには化粧をした十代の少

          BFC5落選展感想「不夜城のサングラス」+「火はどこに消えるのだろう」吉美駿一郎

          BFC5落選展感想「面影は消えない」蒼桐大紀

          「昔、すごく良い文章を書く人がいたんです」  春水朔夜のことを話すとき、私はいつもこう始める。上手いではなく良い。すなわち私の主観に寄った見解を口にする。  という冒頭で世界観に引き込まれました。  蒼桐さんの作品を読むのは「面影は消えない」がはじめてで、この感想を書く前に「春の風とはじまりの音」も読んだのですが、人と人の出会いを書くのが上手い作家さんだなという印象を受けました。  また、西崎さんもコメントしているように構成がすばらしい。六枚の作品は自分でも何度も書いてい

          BFC5落選展感想「面影は消えない」蒼桐大紀

          残り火(BFC一次予選通過作品)

           もう乾いていると思っていた片手鍋の底に一滴だけ水が残っていた。鍋を揺らすと水滴は引っかき傷の上を流れ、薄くなった。  物音がした。振り向くと、昼寝をしていた直也が、腹をかきながら立ち上がっていた。白いTシャツにはオレンジ色の染みがついている。昨日の夜の、体臭とバターチキンカレーの混ざったニオイを思い出す。 「オレも行く」 「買いたいものがあるの」 「別に、なんとなく」  直也はTシャツを脱ぐと、部屋の隅にある洗濯籠に投げ入れた。白い肌の中でみぞおちの辺りに生えた毛が目立って

          残り火(BFC一次予選通過作品)

          日本から出たことのない僕が英検1級に受かるまで(二次試験編)

          *一次試験編はこちら 二次試験対策(1回目)  一次試験に自信が無かったので、結果が出てからやっと本格的に勉強をはじめます。  まずは過去問を見て、スピーチをしてみますが、話が続かない。はじめはどのトピックでも30秒持たないくらいでした。  2分も話せる気がしない。どうしよう。  慌てていろいろな勉強方法を試します。 ①まずは旺文社の『14日でできる! 英検1級 二次試験・面接 完全予想問題 改訂版』を購入します。メインの実践編より、準備編のサイバー犯罪についての

          日本から出たことのない僕が英検1級に受かるまで(二次試験編)

          日本から出たことのない僕が英検1級を取るまで(一次試験編)

          はじめに  こんにちは!佐藤相平です。  いつもは小説をnoteにあげていますが、ふだんは予備校で英語などを教えて生活しています。  僕は留学どころか、海外に行ったことがなく、パスポートすら持っていません。(2022年12月時点)それでも、英検1級の2022年度第1回試験で一次試験を合格(面接は不合格)、第二回試験で面接に合格しました。  英検1級合格前には色々な方の体験談をネットで読んで参考にしたので、何かの参考になればと思い、自分の体験について今回は書くことにしま

          日本から出たことのない僕が英検1級を取るまで(一次試験編)

          康子の憂鬱

           掃除機のボタンを親指で押さえつけ、コードが巻き取られていくのを睨んでいた西村康子は、書斎からの呼び声を聞き、親指にさらに力を入れた。棚の上の方にある本を取れだとか、どうせそんな用事だろう。掃除機を片付け、雑巾を洗い、手に保湿クリームを塗り、ダイエットサプリを紹介する五分の通販番組を見てから、ようやく書斎へ向かう。  いつもならすぐに二度目の呼び声がある。それがないということは、自分で解決して下さったのだろう。今さら康子が書斎に行くことにしたのは、朝食のトレイと食器を片付けて

          康子の憂鬱

          あなたのアイリス

           私は日曜日に眼球移植を受けた。まだ視力は0.6あったけれど、虹彩の色をディープグリーンからパステルピンクに変えたかったからだ。モデル仲間はみんな濃い色の目なんてやめている。パステルカラーがこれからの流行だ。元々は安くすむ虹彩のチェンジだけをするつもりだったけれど、最近ちょっと目が悪くなってきたかもってパパに頼むと、移植費用も出してくれた。  新しい目のクラスでの評判は上々だった。「シュウみたいだね」とパステルカラーブームを生み出した、私が憧れている配信主の名前を出してくれる

          あなたのアイリス

          六枚道場自主練R30∞感想

          グループX「桃太ロス」 佐藤ロス平さん 「おじいさんとおばあさんは最愛の息子、桃太郎を鬼が島の戦いで失った悲しみに耐えながら生活していた」という一文目の発想はおもしろい。村では桃太郎が反鬼派の英雄として祭り上げられているという設定にも皮肉が効いている。桃太郎像の除幕式に招かれたおじいさんとおばあさんが、最愛の息子とはかけ離れた銅像の猛々しい顔を見て呆然とするシーンには感動させられた。  それだけに、中盤以降はおじいさんとおばあさんの日常を淡々と描くだけで終わってしまったことが

          六枚道場自主練R30∞感想

          第Q回六枚道場感想

          グループX 「ハゲの歌を聴け」 佐藤波平さん  これまでに数多く書かれてきた「風の歌を聴け」のパロディー小説。これは作者自身の若ハゲをネタにしたものらしい。「完璧な発毛方法などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」や「放って置いても人は死ぬし、女と寝る。そして髪は抜ける。そういうものだ」といった文章はなかなか良かったが、全体としては竜頭蛇尾という印象。作者の頭皮状況には共感したが、ネタを最後まで読ませるのに必要な技術と勢いが足りなかったように感じる。 「

          第Q回六枚道場感想

          近くの彼女(第12回六枚道場参加作品)

            「近くの彼女」 佐藤相平  博子は毎日、誰よりも早く教室に来て、小さな声で発音を確認しながら、指毛の目立つ手で単語カードをめくっていました。ボサボサの黒髪を長く伸ばし、能面のような顔をしていたから、古い日本人形みたいだなというのが第一印象でした。  私たちは小さな予備校で出会いました。先生と生徒の距離が近く、生徒同士の仲もいい一方で、ぼっちだと居づらい雰囲気です。そこで私は博子を友達に選びました。  私たちが話すようになったきっかけは最寄り駅が一緒だったことです。

          近くの彼女(第12回六枚道場参加作品)