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2020年4月の記事一覧
リーディング小説「お市さんforever」第十二話 その時の欲望、気持ち、すべて正直に生きる自分を許す
その時の欲望、気持ち、すべて正直に生きる自分を許す
兄上の天下統一は、すぐそこまで近づいてきた。
天下統一に向けたワクワクした期待感や躍動感が、春爛漫の時期と相まって城内は活気に満ち満ちあふれていた。
私達は
「久しぶりに遊びに来いよ!
うまいもん、食わせてやるぜ!」
という兄上の誘いに乗って、親子で遊びに来ていた。
そこで兄上の正室、つまり私にとって義姉の濃姫とこの日久しぶりに顔を合わせた
リーディング小説「お市さんforever」第十一話 I am a woman
I am a woman
私達親子が、春のようにまったりとおだやかな時間を過ごしている間、兄上の天下統一への道は着々と進んでいた。
兄上は本来、とても繊細だけどユーモアもあり度量の広い方だ。
でもご自身が決めた「天下統一」への道は、心のやわらかい部分を捨て前だけを向いて進まねばならなかった。人間らしい優しさを捨てからこそ、夫の長政さんを討つことができた。
私はぼんやりと庭を見つめながら、兄と夫
リーディング小説「お市さんforever」第十話 愛の言霊
愛の言霊
この日、兄上率いる織田軍は、舅のいる場所から攻めた。それはどこかで情報がもれていたかのように、きっちり居場所を特定されていた。
舅の浅井久正は四方八方塞がれ、自害した。
そして私達と夫は援軍など来るはずもない孤立無援状態で、立ちこもっていた。私は夫の顔から流れる汗をふきながら、こうやって一緒に居られるのはあとどれくらいだろう?と考えた。時は刻々と過ぎていく。声遠くで兵士達の声が聞こえて
リーディング小説「お市さんforever」第九話人生の主役は、自分
人生の主役は、自分
いよいよ兄上の進撃が始まった。
比叡山延暦寺を焼き払い、都にいた将軍の足利義昭を追放した悪名高い兄上のウワサは、私の耳にも入ってきた。茶々と初と一緒にいたところに、いきなり舅がやってきた。座っている私達を見下ろし
「寺を焼くなど、天をも恐れぬ所業!!
きっと信長には、天罰が下るわい!!」
と勝ち誇ったように叫び始めた。この間までのビクビクした様子が嘘のよう。居合わせた侍女
リーディング小説「お市さんforever」第八話 妻でも嫁でもなく、これが私の生きる道
妻でも嫁でもなく、これが私の生きる道
兄上との戦が始まった。浅井と織田の同盟が破綻しリセットした浅井は少しずつ追い詰められ、どんどん苦しい立場になっていった。頼みにしていた援軍もあまり来ない。戦が始まる前まで疎まれていた私に、周りから注がれる視線が微妙に変わってきたのに気づく。こっそり私に機嫌伺に来る者、私に「実は以前から、信長様にお仕えしたいと思っていました」なんて話をしにく者・・・・・・みな
リーディング小説「お市さんforever」第七話 自分だけの美しい華を咲かせ、自分を誇りに思う一生を生き抜く
自分だけの美しい華を咲かせ、自分を誇りに思う一生を生き抜く
浅井が兄上のいる織田家を裏切り、同盟が破綻した時期から私はずっと体調が悪かった。ムカムカして吐き気をもよおし、寝込むことが多くなった。この症状に覚えがあった。私は身ごもっていた。愛する夫との第二子を授かったのはうれしかったが、その喜びは控えめにでも顔に出せなかった。
なぜならこの時、城内の誰もが
「生まれてくるのが、男子でなく女子であり
リーディング小説「お市さんforever」第六話 愛され妻のヒミツ
愛され妻のヒミツ
ついに浅井と織田の戦が始まった。城内ではみな戦に向け威勢のいい掛け声が上がっている。それを目にしている私は複雑な気持ちだった。知らず知らずの内、眉間に皺が寄っていたのだろう。織田からついてきた侍女のさきに「お市様、お顔に皺が・・・・・・」と言いよどまれ、ハッ!と気づいた。彼女が心配そうな顔で私をのぞきこんでいた。「大丈夫よ、さき」と笑顔を作り答えると、ホッとした表情になった。私
リーディング小説「お市さんforever」第五話 自分で決める強さを持つ
自分で決める強さを持つ
それからもどうやら舅の浅井久政は、ずっとコソコソと朝倉家と連絡を取り合っていた。そうやって舅は恩義がある朝倉家との縁をずっとつないだ。
兄の信長は、夫の長政さんをとても信頼していた。
夫も兄上のことを尊敬し、憧れに近いまなざしで見ていたと思う。
だから兄上が朝倉攻めを始めた時、夫は織田に加勢するように家臣たちを説き伏せようとした。
けれど、それを阻止したのが舅だった。
リーディング小説「お市さんforever」第四話 機嫌よく生きる魔法
機嫌よく生きる魔法
「この頃、お義父様は怪しい・・・」
ホーホケキョ、と庭で鶯が鳴くうららかな天気だった。のどかな日和に侍女達も座ったままうつらうつら、していた。そんな時間に私の心はうららかではなかった。最近、舅である浅井久政の動向がおかしい。コソコソ隠れて、何かしている気がする・・・と、扇をはたはた動かしながら思った。
もともと舅は、浅井城内で人気がない。
家臣にクーデターを起こされ城主の
リーディング小説「お市さんforever」第二話 大切にして、と願うなら
自分を大切にして、と願うなら
「この人、私のことが嫌いなんだろうな~」
祝言の宴席で、夫の父である舅の浅井久政の顔を見て思った。彼は顔じゅうの皺を寄せ集めた顔で、黙々と酒を飲んでいた。白い花嫁衣装に身を包んだ私の姿は、周りにほうっ、とため息をつかせているのに、舅は私を一切見ない。私は花嫁らしくうつむき、ほんのり恥じらっている風を装った。その方が、らしいでしょう?男はこういうの方が好きでしょう?
リーディング小説「お市さんforever」第一話 誰のせいにもしない勇気の持ち方
誰のせいにもしない勇気の持ち方
「どうして兄上は・・・」
ようやく梅がほころび始めた庭を眺めていた私は、つい口に出した。ようやく春が近づいてきた、というのに何なの?小言の一つも言いたくなるわ、とはぁ~と一つ大きなため息をついた。
「大丈夫ですか?お市様」
そばに控えていた侍女は、心配そうに私の顔をのぞき込んだ。彼女は先月新しく入ったばかりの十五の娘だ。まだ独り言が多く、すぐ自分の世界に入り
リーディング小説「お市さんforever」第三話 自分で自分を幸せにする方法
自分で自分を幸せにする方法
新婚生活は、ぬくぬくしたお風呂の中で身体を伸ばしているように幸せだった。夫の長政さんは優しくかった。私は毎晩彼のしっかりした長い腕に抱かれ眠った。そんなわけで、嫁いでしばらくし身ごもった。日々お腹が大きくなっていく私を見て、長政さんも嬉しそうだ。周りに誰もいないのを確かめると、そっと私のお腹に手を当て「元気な子を産んでくれ」と言いながらお腹を撫でた。「もちろんですわ」