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リーディング小説「お市さんforever」第五話 自分で決める強さを持つ

自分で決める強さを持つ

それからもどうやら舅の浅井久政は、ずっとコソコソと朝倉家と連絡を取り合っていた。そうやって舅は恩義がある朝倉家との縁をずっとつないだ。
兄の信長は、夫の長政さんをとても信頼していた。
夫も兄上のことを尊敬し、憧れに近いまなざしで見ていたと思う。
だから兄上が朝倉攻めを始めた時、夫は織田に加勢するように家臣たちを説き伏せようとした。

けれど、それを阻止したのが舅だった。
舅はひそかに朝倉と通じ、城内に自分の味方を着々と増やしていた。
浅井は夫の長政さんが城主とは言え、まだ若い。
前城主の久政さんの影響は強い上、兄信長に反発する家臣も多かった。
信長反対派の家臣達は引退していた舅を担ぎあげ、みこしに乗せた。
長政さんは父や家臣らを抑えられず、朝倉につくしかなかった。

こうして浅井は織田と対立することになった。この知らせを聞いた時、私は着物の裾を掴み怒りに震えた。もともと浅井と織田が結婚する時の条件は、「同盟を結ぶには、朝倉と戦わない」だった。それを、先に兄上が破ったものだから、兄上びいき夫の意見は家臣達に聞いてもらえない。
夫は仕方なく、兄上と戦をすることを決めた。
そうやって、刻々と織田との戦が迫ってきた。
城内に不穏な空気が流れる中、私は自分に対し心なしか、浅井の家臣や侍女達の態度や言葉がじょじょに冷ややかになってきたのを感じた。

それも、仕方ないなぁ、と淡々と過ごしていた。
夜一人で空を見上げたら、星がまばゆいばかりに輝いていた。
夜空の星達は、地上の人間が何をしようとお構いなしだ。だからこそ、瞬く光は美しい。愛する夫と兄が戦うのは、切ない。これが戦国だ。現実だ。そこで私は生きていくしかない。そう思いながらはぁ、と大きく息を吐いた。寒い夜空に、一瞬白いため息の花が咲いた。私は睨むような強いまなざしで夜空を見上げた。


これを運命と呼ぶなら、私は運命に負けたくない!
家と家との利害関係に関わらず、私は自分が正しい、と思う道を選ぶわ。
私が何を思い、何を決めるか、私だけが決められる。私以外の誰にも、決めさせないわ!

ブルル、と身体が震えた。「寒っ・・・・・」そう声が出た。冷たい風にしばらく身を寄せていたせいか、身体はすっかり冷たくなっていた。
そろそろ部屋に戻ろう、と思った時、私は背中から抱きしめられた。氷が溶けるように冷たくなった身体が温められる。私はこのぬくもりを待っていたのかもしれない。

「お市、すまない・・・」顔を見なくても、彼が苦しそうな顔をしているのが声でわかる。
「私の力が足りないばかりに、信長殿と戦をすることになってしまった。」夫はすぐに自分を責める。でも自分を責める事で、私から責められる事がないのもわかっている。だから、私は前を向いたまま明るい声で言った。
「あなた、ずっと私に謝ってばっかり。
あのね、男はそんなに簡単に謝ってちゃ、ダメ!
もっと偉そうにしてる方がいいのよ。」

夫もまだ私の背中を抱きしめたまま「でもなぁ、父上や家臣を抑えられなかった自分が、情けないんだ。
それに、みな織田から嫁いだお前に冷たいし、居づらいだろう?」

まぁ、長政さんってば、可愛い!!
私はくるっと背中を回し夫を見て、笑顔で言った。
「大丈夫ですのよ。
私は誰に何を言われても、思われても平気。
私が何を思い、何を決めるか私だけが決められるのだから。」

夫はまじまじと私の顔を見ながら苦笑した。「お市は、強いなぁ~
見た目はしとやかで、たおやかな感じでとても強そうに見えないんだが・・・・・・」
「あのね、女は強いところなんか見せちゃダメ!なの。
そうは見せないのが、腕の見せ所♡」そう言って私はウインクした。
「そうか」
そう言うと、夫は私を抱いている手に力を込め、またギュっと抱きしめた。私は夫の腕の中で、うっとり目を閉じた。そうそう、これからが私の腕の見せ所♪

そんな私達を夜空の星達は、静かに見守っていた。

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しなやかに生きて幸せになるガイドブック

あなたは自分が強い、と思いますか?

強さとは何でしょう?

強い、とは、自分の思いや意見をハッキリ持っていること。
周りや誰かの意見に左右されず、自分を貫うこと。

だけど、その強さはいつもがんがん表に出す必要はありません。

さりげなく、自分が決めたことを通していきましょう。
上手に根回ししましょう。相手を立てる時は立てましょう。

それが、女性のしなやかさ。



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