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【詩集】自分探しの迷子

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迷わなければここにいなかった
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#小説

グッバイ・ノート/ハロー・ノート

グッバイ・ノート/ハロー・ノート

 何も書くことができないという時に僕がすることは、ノートを閉じること。ノートを閉じてベッドに横たわれば、暗闇の向こうに夢の扉が見える。
「おいでよ。もういいから。何もしなくていいからね」そうだ。何もすることはないんだ。何かを創り出そうだなんて、最初から無謀な試みだったのだ。するべきことは眠ること。あとはあちらに任せるだけ。飛ぶこともある。追われることもある。けれども、最終的な着地点は、約束されてい

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自作自演アンコール

自作自演アンコール

「これか」
 その時、僕は少し浮かない顔をしていた。はっきりとどれに期待していたというわけでもないが、これかという感じだった。どうも違和感がある。これだという手応えがなかった。美味しくないというわけではない。美味しくないものは一つも含まれていないのだ。ただ満足できない。
 
 私はもう一度袋の中へと手を差し入れるのです。そうして引き出すまでの時間にときめきを覚える。それはギャンブラーの心というもの

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マイ・ケース

マイ・ケース

 幾度も母はバスのように通り過ぎた。呼び止めるにはまだ僕の声は小さすぎた。手をつないだことはあっても、切り離された記憶に上書きされてしまう。母であったものが多すぎて、母であったものを思い出すことができない。昨日の母をたずねてもほとんど意味のないことだ。母は一定のとこころに留まってはいない。既にそこは駐車場か何かに変わっていることだろう。

 無数のヌーのように父は私の前を通り過ぎました。私の言葉は

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真夜中の不届き者

真夜中の不届き者

 客足が止まらないのは土曜の夜のことだった。次々と訪れる客に声を張り笑顔を保ち続ける内にのどが渇いた。時々思い出したように水分を補給した。そのチャンスは数少なかった。平日の夜は、随分と違った。僕は自分の好きな時に水を飲むことができた。訪れる客は限られていた。それも徐々に少なくなっていき、間が開き始めた。接客の合間に、私はnoteを開き、マンガを読み、マガジンを読むことができました。

 時々客がみ

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エンドロール職人

エンドロール職人

 エンドロールに背中を押されて、僕はレーサーになった。密度の高い学習の成果ですぐに素晴らしいタイムを弾き出した。だが、世界は思うほど甘くはなかった。次々に新しい奴に追い抜かれていく。僕には基本がないことは明らかだった。

 エンドロールに押し出されて私はスパイになった。ハイテク機器と母譲りのとんちを駆使して各国の機密情報を持ち帰った。ほとんどのミッションは問題なくクリアできたが、希に正体がばれて命

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疲れながら、傷つきながら

疲れながら、傷つきながら

 言葉に刺があった。あなたは何も感じないのだろう。僕にとってはあなたの発する言葉のほとんどに刺があった。僕に当てたものもそうでないものも。それでも僕は巻き込まれるように傷を負った。一つ一つは小さな刺だった。一日そばにいれば全身に突き刺さるようだった。他の人はどうか知らない。僕には人間の言葉でさえなかった。人間の言葉として聞くほどに傷つくことは避けられない

「はあ?」胸の内に湧いてくる違和感を決し

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通り雨の中の私

通り雨の中の私

「申し訳ございません」
 もう何度同じ台詞を繰り返したかわからない。その言葉にもう最初の意味は残っていない。「謝って済むと思ってるのか」その台詞だってもう何度聞いたかわからない。聞いたとしても聞いていない。途中からはもう聞いた振りをしている。僕はここにいる振りをしながらもうここにはいないも同然なのだ。

 何が悪かった? もうあまりに昔のことで思い出せないな。確かなあやまりというのはなかったと思え

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自習ファンタジー

自習ファンタジー

8時50分。先生はまだ来なかった。
(今日は急用ができて……。なので……)
 次の瞬間、別の先生がよい知らせを持って入ってくればいいのに。黒く埋め尽くされた教科書よりも、今必要なのは真っ白いノートの方だ。僕は小説を書く。異世界の扉を開く。筋書きを組み立てる。キャラを立ち上げる。会話をつなぐ。想像の赴くままに、時にも倫理にも縛られることなく、自分の書きたいように書いていく。そのために先生は不在である

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さよなら喩え話よ

さよなら喩え話よ

 伝わらない喩え話なら犬にでもくれてやるわ。身近な喩え、お決まりの比喩を否定して、僕は犬を探して街に繰り出した。人懐っこそうな犬が脇見をすれば、ここぞとばかりに差し出した。夢のような話、うそのような話、取って付けたような話。犬は鼻を近づけて転がった話を嗅ぎ分けた。

「特に美味しいところはない」そのような顔をして、飼い主の足下へ帰って行く。喩えて言ったがために余計な捻れを帯びて相手に届いてしまう。

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ありったけのたこ焼きを

ありったけのたこ焼きを

 たこ焼きが差し入れられて、僕の取り分は4個だった。冷たくなったたこ焼きはすぐに口の中に溶けて消えた。本当は4個ではなく8個10個12個だって僕は食べたかった。たこ焼きがどこからともなく差し入れられて、私の元へ届いた時には、既に4個ほどになっていました。

 誰もたこ焼きとは言わなかったが、小舟の中に佇む玉の様子を見れば、直感的に私たちはそれをたこ焼きと知ることができるのです。私はそれをぺろりと平

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テキスト&ドッグ

テキスト&ドッグ

 僕は従来通りのやり方でテキストをアップした。そこに何の疑問も抱かなかった。もしも足を止める人がいないなら、原因はテキストの中にある。それ以外に考えることはなかった。今日、突然あなたが切り出すまでは。
「犬は?」
 あなたは唐突に、そう言ったのだ。私は自分好みのやり方でテキストをアップしていたのです。そこに何の疑問を抱くことがあったでしょう。もしも足を止める人がいないなら、それは私自身の内面に問題

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ホーム&ユー

ホーム&ユー

「本日ライブのため貸し切り」

 ようやくたどり着いた時にはもう閉店時間が迫っていた。入店してすぐに帰り支度をしなければならない。ついてないな。僕が外出を始めたのは自分のホームを広げていくためだった。決済をして次の場所へ向かう。グーグルの情報は既に尽きていた。商店街の入り口に近いところの明るく奥行きのある喫茶店に入った。分煙はされておらず、ずっともくもくとしていた。場所がいいのか回転は早かった。仕

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未来を指しながら

未来を指しながら

 テーブルの上に寝そべったまま僕は誰かが僕を動かしてくれるのを待っていた。
 その手に導かれて僕はどこへ向かうのだろう。まだ僕の知らない未来。ここにいる長い時間のことを思えば、どこへでもいいと思うだろう。理想もないとこだとしても、その瞬間は、離れていくという事実が何よりも最初の救いになるだろう。
 僕に触れて導いていくものの存在。君はいつやってくるのだろう。
 僕には君が必要だ。そして私はいくつも

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創作寿司

創作寿司

 寿司職人になりたくて僕は日々修行の中にいた。ティッシュをシャリに見立てて握る。わさびに見立てた消し屑を入れて、ネタに見立てた付箋を乗っけて。「へいお待ち!」イカだよ。タコだよ。ハマチだよ。「へいお待ち!」僕は休む間もなく握り続ける。寿司職人は忙しいんだ。「へいお待ち!」寿司職人になるために、私は厳しい修行の中に立っていたのです。シャリに見立てたティッシュを握り、消し屑のわさびを程良く挟み付箋のネ

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