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ありったけのたこ焼きを

 たこ焼きが差し入れられて、僕の取り分は4個だった。冷たくなったたこ焼きはすぐに口の中に溶けて消えた。本当は4個ではなく8個10個12個だって僕は食べたかった。たこ焼きがどこからともなく差し入れられて、私の元へ届いた時には、既に4個ほどになっていました。

 誰もたこ焼きとは言わなかったが、小舟の中に佇む玉の様子を見れば、直感的に私たちはそれをたこ焼きと知ることができるのです。私はそれをぺろりと平らげてから、空っぽになった小舟を眺め何とも言えぬ郷愁を覚えたのでした。今はもういなくなった主人公の後に、仄かなソースの香りが残っています。次はもっと大勢で来ればいいのに……。

 流れ着いたたこ焼きは僅かに4個だった。一目見ただけで、俺には時の経過が読めた。唇を近づけた時に恐れを感じるほどのたこ焼きが好きだ。無邪気に放り込んでは火傷する。「ふーふー」俺は必死で息を吹きかける。そんな仕草をずっと前に教わったことがある。「ふーふー」十分に吹きかけても、一口で食べるにはまだ危険すぎる。俺は慎重に距離を取ってたこ焼きを眺めている。その時は、俺の未来に見える最も近い目標だ。そんな熱いたこ焼きを俺は愛する。今日俺の前に現れた4個のたこ焼きはそうではなかった。躊躇う必要もなく俺はそれを次々と口の中に放り込んだ。(小腹が空いた)たこ焼きが俺の中に消えてすぐに、俺はそう思った。

 僕のところへたどり着いた時、それは既に残り物だった。(残り物に福あり)その通りだ。実際にたこ焼きは冷めてしまった後でも美味しく食べることができた。4個だけの残り物は次々と僕の口に放り込まれて消えていった。本当はもっと8個10個14個18個24個32個でも食べたかった。一つの球はとても小さい。だからいくら増えても大丈夫。深夜の空腹が僕の胃袋を実際よりも大きく見せていた。港へたどり着いたたこ焼き舟は、私の元で最後の夜を迎えることになったようです。外はぱりっとしていて中には得体の知れない贈り物が詰まっている。

 けれども、私は恐れを抱くことなく噛み砕くことができる。ようやく流れ着いた舟は信頼の置ける舟だからでした。小さくても、あるようでないようなほどの小ささだとしても、私の口の中にとどまり、まわり、消えていく、それはたこ。それはたこに違いないのでした。そして、舟は空っぽになり、仄かに海苔の香りだけを残していました。
 
 今日の一口はあまりに小さく、未練ばかりを僕の中に作り出していた。含まれるたこの欠片は日々のように小さく自らの存在を思わせるには十分だった。そんな断片が血肉となっていくのだ。明日は一人でたこ焼きを買いに行こう! 

「そして熱い内に!」そんな誓いが守られないことを誰よりも私は知っていました。そこになかった風景だけを愛してしまうこと。私たちの愚かな習性にすぎないと。


#たこ焼き #欲望 #詩 #迷子 #小説

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