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真夜中の不届き者


 客足が止まらないのは土曜の夜のことだった。次々と訪れる客に声を張り笑顔を保ち続ける内にのどが渇いた。時々思い出したように水分を補給した。そのチャンスは数少なかった。平日の夜は、随分と違った。僕は自分の好きな時に水を飲むことができた。訪れる客は限られていた。それも徐々に少なくなっていき、間が開き始めた。接客の合間に、私はnoteを開き、マンガを読み、マガジンを読むことができました。

 時々客がみえると読むことを中断することになったけれど、徐々に客はみえなくなって、その分集中して読むことができるようになりました。現実とは違う方の世界に没入していくほどに、現実が戻ってくると腹が立つようになり、私はその頃には既に本文を見失っているのかもしませんでした。「ちっ!」こんな時間に何様だ。

 俺は苛立ちを覚えながらマンガを閉じた。俺の人生はマンガを読むために存在する。そいつを邪魔する奴は人生の敵だ。俺は適当に挨拶をし、適当に札を受け取り、適当な小銭を返した。一段落して俺は漫画界に帰ってきた。時給1200円。それが俺が眠らずにマンガを読むことの対価だ。ふーっ。骨が折れるぜ。マガジンの真ん中に没入しながら、その核心に触れる頃に扉が開く。僕はその時、我に返らなければならない。

「誰だろう?」こんな時間に。僕は本文を止める不届きな者の顔を見る。猫だったなら。心配は無用。ウインク一つで本文に戻れるのだけれど。そいつは人間の面を下げた紳士のようだ。酒臭い息を吐きながら紳士は私のそばに近づいてきて、しわしわの札を投げつけるのでした。私はそれを適切に処理するために計算機を弾かなければなりませんでした。柄にもない礼を言って、本文に戻ります。

 私は社会の中にとらわれていました。まとまった休息はなく、限られた合間合間に楽しみを見い出さねばなりませんでした。お気に入りのマガジンの中に、深く深く潜入していく。クラゲ、マナティ、君は誰……。そこは深夜の俺の職場だ。知らない奴がいる。馴染んでも馴染めない奴らがいる。俺の空想を遮る外来種がいる。息が苦しい。先が見えない。もう腕が重い。顔を上げなくちゃ。水の合わない世界の中で、僕は一瞬顔を上げて息を吸う。その時に限って、僕は自分を取り戻すことができる。

「いらっしゃいませ」好まざる訪問者が、私のお気に入りのnoteを閉じてしまうのです。その時になって思うのは、私の人生の中にまとまった自分の時間は存在しないということでした。許された広場が見えないために、自分なりの獣道を行く以外にない。君にしても、お前にしても、それは同じかもしれない。

 到達点のない旅を続けているのはそのせいで、私にはまとまった金も、眠りも、パワーもないのでした。抜け出せないループの中にとらわれて、厚い雲が長く世界を覆っている。途切れることのないファイターが道に顔を出す。僕はその合間合間にマガジンを見つけなければならない。主人公は俺に似て頼りない。共感の谷間に自動ドアが開く。かかり始めたエンジンを止める不届き者め。

「ちっ!」俺はマンガを置いて汚れたピッチの中に入っていく。お決まりのルールが俺を雁字搦めに縛り付ける。俺は仕掛ける。ディフェンスが足を出す。ボールが辛うじてラインを割る。俺はコーナーに向かう。そよぐフラッグに触れて、ボトルを口にする。その一瞬だけ、俺はアウトサイダーになれる。
「うまいぜ」俺はウイスキーソーダをあびるように飲む。

「もうすぐまとまったゴールが入るよ」


おわり


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