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【小小説】ナノノベル

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短いお話はいかがでしょうか
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2020年11月の記事一覧

トゥルー・ループ

トゥルー・ループ

 繰り返し問題が発生する中に飛び込んで行く。問題の向こうに答えが待っているとか、そういのうのではない。ただ得体の知れぬ欲求によって、私はタグを追いかける。飛び越えて、押し戻されたところから、再び探し始める。1つの詩に打ちのめされて戻ると時空が歪んでいる。
 マイページの向こうにみえる自分は、いつの自分なのだろう。(仮にそれを現在と呼ぼう)
「あれが今の私だ」
 私は物書きではなくパフォーマーになっ

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創作オムレツ

創作オムレツ

「オムレツ!」
 ナナのリクエストは絶対。
 だけど卵がない。
 スーパーはもうどこも閉まっている。

「オムレツ! オムレツ!」
 ナナのリクエストはキャンセル不可。
 パパはフライパンを見つめている。
 そこに割り入れる卵はもうないのに……。

「よし! 創るぞ!」
 パパはゼロから始めることを決めた。
 赤ピーマン、乾電池、軍手、布団、トマト、ビニール傘、白ネギ、トランジスタラジオ、ビー玉、

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バナナワナ・リフレイン

バナナワナ・リフレイン

 コアラの形の店構えは見覚えがあった。以前もここに来たはず。そして、少しの躊躇いを乗り越えて扉を開けたのだ。

「いらっしゃいませ」
 ここは世界各国のバナナを取り揃えた専門ショップだ。ほとんどが高級品で、その辺のスーパーではなかなか目にすることもできないものもある。へー、こんな色のバナナも……。と昔来た時も感心したものだと微かに記憶がよみがえる。それはこの魅惑的なバナナの香りのせいかもしれない。

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ほめられてるんじゃない

ほめられてるんじゃない

「こいつはとんだ食わせ物だな。まさかこんなところでこんな食わせ物に出くわすとは驚いたもんだ」
「あの野郎! なに独りでぶつくさ言ってやがる。食わせ物だ?」
「旦那様落ち着いてください」
「これが落ち着けるかってんだ」

チャカチャンチャンチャン♪

「まったくとんでもない食わせ物ばかりじゃねえか。こりゃ驚いたってもんだ」
「あの野郎! もうがまんできねえや」
「旦那様。ちょっとお待ち」
「とめるん

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leave me alone(駒犬の間)

leave me alone(駒犬の間)

 少し困った顔をしていると優しい人が寄ってくる。
「どうしたの?」
「……」答えがあるなら苦労しないだろう。
 頭を抱え込んでいると親切な人が近づいてくる。
「いい薬があるよ」
「大丈夫?」
「いい本があるよ」
 ああ。どうしてみんな優しいの!
(僕はもう少し独りでいたいのさ)

「駒犬の間へ、どうぞ」
「えっ?」
「思う存分考えて。誰も責めないから」
 立会人に導かれるままに僕は襖を開けた。
 

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秋のてんぷら

秋のてんぷら

「……」
「はあ?」
 秋はレジスター・ボックスを出て表まで飛び出して行った。

「あんた今私に何言った?」
「ああ、ごめん。わるかったね」
「謝らなくていい。けどもう顔見せんな!」
「えっ? 謝ってるじゃない。俺謝ってるのに」
「ええからもう2度とうちに来んなよ!」
「何だよ……」

 店長が声を聞いて店から飛び出してきた。
「君。もういいからかえって」
「店長……」

「いいから早くかえってき

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駅ナカきつね

「へいいらっしゃい。食券をお願いします」
「いい匂いね」
「食券をどうぞ!」
 たぬきかなきつねかな。今日の気分はどっちかな。

「へいいらっしゃい!」
 やっぱりたぬきかな。ここの席にするわ。
 何だかよさげな店ね。きっと場所がいいのね。放っておいても人が来るような場所。味の方はどうかしら。期待を抱かせる出汁のよい匂いがするようね。きっとここはたぬきだわ。
「はい。お客さん先に食券をどうぞ」
 

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怪我の功名(アプリ拾い)

 アイコンを間違えて異なるアプリを開いてしまった。
 メロディーをつくる。缶を蹴っ飛ばす。ドアが開く。菓子パンを選ぶ。どれにするか。選ぶしあわせ。課金を迫られる。魚を描く。動物を描く。新種のモンスター。新しい筆が必要。課金を迫られる。
 侵略者が降ってくる。ミサイルを打ち上げる。ダメージが吸収される。もっと高性能なミサイルが必要。課金を迫られる。ズドドドドーン! 条約違反のペナルティー。ドアが開く

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5G緊急提言記者会見

5G緊急提言記者会見

「俯瞰的、総合的な観点から見るに、我が国における電話料金は極めて高く、早急な改善を強く要望するものであります。月々の家計から決まって出て行く他のものと比較してみても、これは著しく高いと言わざるを得ない」

「その原因はどの辺りにあるとお考えですか?」

「聞くところによると各社様々なプランを出しておるようですが、グローバルな観点から照らし合わせ、これは一般的には猫だまし、また猫まんま、電撃的には猫

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ミステリー・カラオケ・ボックス

「もう丸2日になります」
 客は1人で延長を重ねていた。
「来た時は、1時間のプランでした」
「ちょっと、私が見てくるよ」
「店長お願いします」
 店長が到着した部屋には誰もいなかった。歌声だけが部屋に響いている。店長はすぐに社員を呼び寄せた。

「君、本当に電話を入れたのかね」
「はい、そうですが」
「見たまえこれを。この電話、線がつながっていない」
「あー、ケータイからかけたんです」
「何? 

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アディショナル・フォーメーション

アディショナル・フォーメーション

 長い間、僕たちは何もすることができなかった。相手の戦術が優れていたという面は否定できない。だが、本質はもっと内に潜んでいる。
「長いようで短かった90分」
「きりんの首」
「象さんの鼻」
「夏休み」
「先輩のお説教」
「12月」
「午前1時の待機」
 自分の居場所によってすべては伸び縮みする。長い短いと言ったところでみんな一時の感情にすぎないじゃないか。
「長いようで短かった90分」
「時間があ

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スクリーンを止めないで

 役所の一部に問題が見つかったせいで、フィルムが止まってしまった。どうしても見たいという者が、劇場の前で座り込みをしている。見せたい人がいる。ずっと見たかった。楽しみにしていた。生きる力に変えたかったの。だから、簡単に引き下がれないの。

 見たい見たい見たい♪
 見せろ見せろ見せろ……。

 君の生きたメッセージを聴きたかった。
 生き生きとした姿を見たかった。ずっと待っていたんだ。

 何がス

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秋の課題図書

秋の課題図書

 あるところでは、ふーんと思い、大変感心させられました。もしも自分だったら、それと同じことができただろうか。そのようなことを思わずにはいられませんでした。またあるところでは、ははーんと思わされるところがあり、大変勉強になりました。もしも自分が同じような環境に置かれたとして、その時に実際に自分ができることを考えたら、何か気の遠くなるような思いがして、胸の奥がわさわさとすることがわかりました。なのでし

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ピッチ改革

「追われています」
 また問題を起こしやがったか。しかし、プライベートな問題には、一切関与するつもりはない。大事なのは試合に勝つことだ。
「だったら突き放してやろう。1点取ってこい!」
 ぽんと背中を押して送り出す。責任はピッチの上で取れ。
 ボールを持てば野性味を帯びたドリブルが客席を沸かせた。2人3人に囲まれても失わない。激しく当たられても倒れない。けんかで鍛えたフィジカルが、威力を発揮してい

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