#創作大賞2024
夢と鰻とオムライス 第1話
◇
飛んできたのは五百円玉だった。
よりによって一番攻撃力の高そうな硬貨の側面が、俺の眉間に命中したのだ。
鋭い痛みが目頭から眼球の裏へと伝わり、泣きたくもないのにじわりと涙が滲んだ。
「いってぇ……」
俺は両手で目を覆い隠した。痛みのせいで勝手に湧いてきた涙をそれとなく拭って、顔を上げる。
「なにすんだよ!」
渾身の力を込めて睨みつけると、ほんの一瞬だけ、兄はうろたえた表情を見せた
言の葉ノ架け橋【第1話】
第1話 かけはし
まだ夏は遠いけど、紫外線の強くなる季節。
首元に日焼け止めクリームを丹念に塗り込んでいると、「希生先生、希生先生」と庭から優しい声で呼ばれて慌てて振り返った。
「ヨウちゃん、そんなところにいたの。びっくりさせないで」
「希生先生、いそがんと学校に遅れるよぉー」
私はふぅと息を吐き、手の甲にもクリームをたっぷり塗り込んだ。
「サチ祖母ちゃんの声マネするのいい加減やめて欲しいわ。
「赤き月は巡りて」第1話(全9話)
第1章 赤き月が昇る夜
まだ明けきらぬ薄闇の中、乾いた葉擦れの音がひんやりとした空気を震わせる。虫たちの声が重なり合う。
シュッと風を切るかすかな音がして、すぐにトンと何かに当たった。
それを合図にしたかのように、東の空が白み始め、鳥たちが目を覚ます。黒一色だった村や山の風景が色を取り戻していく。
しかし村が目覚めるのにはまだ早い。
*
「矢がたったぞ!」
誰かの叫び声で
花畑お悩み相談所 プロローグ
プロローグ
寝る前にスマホを見ないのは、良い眠りのためのお約束だそうだ。
そう言われましても。若い頃からずっと夜型で、寝室へ向かう前に最後のメールチェックをしてしまう。退職した今でも、その習慣は変わらない。富原律子は老眼鏡をかけると、スマホの画面をタップする。
深夜のリビングに、かすかな金属音が届く。家の前の空き地に、マンション建設が始まっていて、今夜は突貫で電気工事をすると知らされていた
残夢【第一章】①手錠
女は髪を振り乱して俺から逃れようともがく。手首は白くて折れそうに細い。
俺はそのコートから伸びでた手首を素早く掴んで捻りあげ、女がそれ以上抵抗できないようにブロック塀に体を押し付ける。
「イヤッ……」
小さく息を漏らした女のおくれ毛は汗ばんだ頬に張り付き、思うように身動きの取れなくなった上半身を必死に動かし振り向こうと再び藻掻く。
抵抗しても無駄だ。
俺は必要最小限の力を込め女にそれ
スーサイド・ツアー(第1話 闇サイトへ、ようこそ)
あらすじ
自殺願望のある者達が、闇サイトを通じて南海の孤島に集まる事に。闇サイトの主催者は、孤島で参加者全員が美食を楽しんだ後1週間後に苦しまない方法での死を約束。
にも関わらず、なぜかその前に1人ずつ殺されてゆく……。
『当サイトでは、30歳以下の自死志願者を募集しています。先着8名で打ち切りますので、お早めにご応募ください』
スマホをいじっていた時に、そんな文章が倉橋翠(くらはし