2024年4月の記事一覧
「おはよう、私」①(短編連作小説 & 音楽)第1話
第1話・瑠璃
朝。
遠く聞こえるアラームの音が意識をたたく。
細く開いたカーテンの隙間から、細い光がこぼれている。
ああよかった今日はいい天気なんだなと、ぼんやりした頭で反射的に考える。
「よかった」と思ったのは仕事で人に会いに行く予定があるからで、晴れていれば移動がらくだからだ。雨ならば広がってしまう細いくせ毛も、今日はきっと大人しく、肩で揺れてくれるだろう。
ほとんど無意識に
銀山町 妖精綺譚(第1話)
あらすじ
福島県奥会津に位置する小さな町、銀山町。大きな産業はなく水力発電事業の恩恵に依存している。
時は平成三年、日本中がバブル経済、リゾート構想に踊るが銀山町には何の恩恵もないまま。選挙を控え町民から突き上げを受けていた町長が思いついた「妖精の住むふるさと」という町おこし事業。
担当させられるのは町に縁がないのに役場に新規採用された職員、田中。町に妖精にまつわる伝承はなく、田中は役場を一
齢八十八、指揮者にないもの
身を包む空気には、風もなく、濁りもなく、熱もなく、湿気もなく。
無駄なもののない空間だ。
壁越しに耳に入ってくるのは一定の振動数を保つ長い弦の音、遊び吹かれる木管の音階、弾むような金管の鼓笛。それらが雑多に入り混じる、「まだ」混沌状態のものたち。
「マエストロ、そろそろです」
瞼を開ける。
私の前の鏡には、顔に深い皺が刻まれた老人が一人座って映っている。同じく皺だらけの手が、台の上に
レインメーカー 第一話
本編
満点の星に彩られた穏やかな夜。宿泊客たちはコテージの外に出て、焚火を囲んで談笑していた。中にはハンモックに横たわり、贅沢に星空のスクリーンを満喫している者もいる。
百色島という名の小さな無人島一つを丸ごと宿泊施設とした七軒のコテージは、完全会員制の最高グレードで、管理者不在でも最先端のIOT家電がコテージでの生活を全面的にサポートしてくれる。用意された高級食材の数々はもちろん使い放題
すべからく『愛』を謳え 序章
あらすじ
幼い頃、事故で両親を亡くした聡太郎。
彼自身も生死の境を彷徨った挙句、息を吹き返す。
目を覚ました彼は、自分に違和感を覚える。
不意に訪れる激しい頭痛。その最中に脳裏に浮かぶ、絶望に打ちひしがれた誰かの叫び。 その後、派生する紅い右眼と、燃えるように熱い左手。目の前には闊歩する異形の者たちの世界。
そして彼の中で渇きを訴える誰かの声。
『誰かがいる……』
私を 想って 第一話
思春期特有の悩みなら数年我慢すれば解決するけれど、
私の悩みは一生続くと思う。
「鞠毛さん、そろそろ晩ご飯にしましょう」
私は台所から呼ぶ涼花さんに「はい」と返事をして、通知表を手にとった。
気が滅入る。その原因は、通知表の中身ではない。表紙に書かれた自分の名前だ。
鮎沢鞠毛。
やっと馴染んできた名前であると同時に、ずっと私を悩ませてきた名前。そしてこれからも悩ませ続けていくのだろう
エッセイ | 40歳差の私たち。文通30周年メモリアルイヤーはエメラルドグリーンの輝き。
祝日の朝早く、ゆうパックが届いた。
私にゆうパックを送ってくれる相手で思い当たるのは一人しかいない。おじさんだ。
おじさんというのは、私の長年の文通相手のことで、昭和19年(1944年)生まれの八十歳である。
おじさんとは、私が一歳の頃に出会った。
おじさんは当時私が住んでいた家の、真向かいにある古いアパートの一階に夫婦で住んでいた。
その頃から、家の前で会えば
「機動戦士Zガンダム」に学ぶ中間管理職の在り方
会社組織である程度経験を積んでいくとたどり着く領域、「中間管理職」。経営層と労働者層の間に位置し、経営層でも労働者層でもない存在。中間管理職とはいったいなんだろうか。いくつか手元の辞書を引いてみよう。
手元の三つの辞書を引いてみたところそれぞれ上のような語釈であった。どうやら「現場」「直接」といったキーワードがポイントになりそうである。ここから見えてくるのは、中間管理職とは社長などの経営幹部