すべからく『愛』を謳え 序章
あらすじ
幼い頃、事故で両親を亡くした聡太郎。
彼自身も生死の境を彷徨った挙句、辛うじて息を吹き返す。
目を覚ました彼は違和感を覚える。
不意に訪れる激しい頭痛。
その最中に脳裏に浮かぶ、絶望に打ちひしがれた誰かの叫び。
そして派生する紅い右眼と、燃えるように熱い左手。
目の前には、闊歩する異形の者たちの世界。
そして彼の中で『渇き』を訴える誰かの声。
誰かがいる……
その誰かの声に従い、足を踏み入れるは、無情と異形のものたちが織り成す地獄絵図。
自らもその『誰か』に蝕まれながらも、『渇き』を得る為に、堕ちゆく誰かの魂に手を伸ばす聡太郎。
その先に彼を待ち受けるものは、死せる者たちの嘆きと怒り、渇望と絶望。
死せし者たちの憤りは普遍で無限。
聡太郎はその無間地獄に独り、身を投じていく……
序
闇夜にたなびく極彩色の光と、むせかえるように沸き立つ靄。
それらは、形容し難い程に様々な色を重ねては、うねり、留まり、そして闇に馴染んでいく。
そして聞こえてくるのは、誰かの声。
その声は囁きから唸り声に色を変え、そして絶叫に転じた後、『フッ』と笑って息絶える。
その刹那、怒涛のように雪崩込む、誰かの映像(ビジョン)。
それは千本の針を飲み込むかの如く、痛く、受け入れ難い『現実』の応酬。正視に耐えられずに、絶叫をあげる。
深夜。
聡太郎は目を覚ました。
身体中汗でびっしょりで、左手の肘から指先までが燃えるように熱い。
「また、か……」
こめかみを押さえつけながら、ベッドから這いあがる。
激しい頭痛の後は、いつもこうだ。
薄暗い部屋の中も、夢で見たような色彩が漂い、彼の脚元に絡みつく。それを無視して、彼は台所でグラスに水を汲み、喉に流し込む。
まるで焼け石に水と言わんばかりに、内なる渇きは、それだけでは収まらなかった。
聡太郎は冷蔵庫を開け、1.5リットルのペットボトルの蓋を開け、一気に飲み干した。しかし、それだけでは事足らず、再度冷凍庫を開けると、無理やり左手をその中に突っ込んだ。
そんな事で、渇きも熱さも収まらないのは、百も承知。しかし、そうでもしないと、彼はこの『現実』をやり過ごせなかった。
「ふぅ……」
浅い溜息の後、冷凍庫から左手を引き抜く。
もう一口だけ水道水を煽り、今一度ベッドに戻ろうと足を踏み出した刹那、誰かが部屋中を走り回る音がした。バタバタとフローリングを擦るその足音から、それは裸足であることが聞き取れる。
聡太郎はベッドに倒れ込むその前に、テーブルの横に備え付けていた姿見の鏡の前に立った。そして、脚元を凝視する。
徐々に鏡の中に映り込む、青白い誰かの足。その輪郭が伴うと共に、徐々に視線を上半身に移していく。
「…….!」
聡太郎は絶句した。
鏡の中に写っていたのは、顔の鼻から上半分が切れて無くなっている女性の姿だった……
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