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バカボンの兄 詩集

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詩の末尾に初稿を書いた年月を付していますが、note投稿にあたり加筆しています。投稿後の加筆もあり得るので、ご了承ください。
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記事一覧

詩/玉ねぎの命

玉ねぎの命

半欠けにラップした
冷蔵庫の玉ねぎが成長している
ちゃぶ台に乗せて観察する

命はどこから来るのか

親から子へとつながっていないと
生命体にならない
命はどうやら
玉ねぎの内部から来ている
生命体の裏側に
異次元への扉がある

(あるいは命の影として
投影されているだけの世界)

命はみえない、でも
この身に発現している とわかる
錯覚ではない
これに似たものを
僕は確かに知ってい

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詩/国語の授業

国語の授業

お祭りの準備だろうか
あるいは
戦争のしたくか

ブルーシートで覆われた歩道が途切れて
ふと顔を上げると
妙に世界が黄色っぽい
アレ、目が変だ…
不安になる一歩手前で
補色残像のフィルターだよ
と理解が追いつく
思考が助けになることもあるけど

そうか
うつむいて歩いてたんだ

義務教育を受けていた頃
国語の成績がすこぶる悪かった
問 : 太郎の気持ちを次の中から選びなさい
って聞か

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詩/バランス

バランス

古着屋で800円で買ったジーンズ
膝から下を切り落として
暑過ぎる夏の ハーフパンツにした
左右の長さが微妙に違うけど
バランスなんか気にしてられない
左右の目の開き方も違えば
眉の高さだって違う
そういうもんだ

沿道の 氷の彫刻
完成の一瞬に届かぬままに
溶けていくから詩が流れ出す
丈夫な人で社会をまわして
壊れている人が詩を紡ぐ
そして、

丈夫な人が壊れそうな時に
その詩をさっ

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詩/明日になったら死のうと決めた

明日になったら死のうと決めた

明日になったら死のうと決めた
やり残したことはもうなかった

旅をした
地球一周できなかったけど
気が済むまで旅をした

楽器が弾けるようになった
プロにはなれなかったけど
あきらめることができるまで弾いた

黒帯を取った
弱かったけど弱いなりに
守りたいものがあった

死ぬほど知りたかったこともわかった
それはわからないのだ、
ということがわかった

明日になった

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詩/ニルヴァーナ あるいは 言葉の向こう側へ

ニルヴァーナ あるいは 言葉の向こう側へ

意味について
言葉で伝えようとする その無意味さ、
という意味を生じさせてしまう
ジレンマを抱えながらも
それでも伝える、を選択するのは
そのジレンマが
次元への感受性の未熟さに過ぎないから。

物理的な痛みは
甘んじて受けるしかない
時折襲ってくる、強い恐れも
脳のメカニズムに変調をきたした結果としての表れ
その耐え難きを
道端にうずくまって堪(こら)

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詩/原野2

原野2

夢と知りながら
生き残る算段をしてみたが
奴隷労働で
生きているためだけに生きていくのは
もう無理だった

突然 重心が消えて
胎盤から零れた
左右のない世界を
どこまでも落ちていった
(それとも昇っている?)

自分で決めた方向を見失い
よるべきものが何もない
私の家はどこ?

壁に耳をあて
吐息をさぐるように
息をひそめた深海
その時
最古の聖典よりも古いものが
すっくと立ち上がった

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詩/息について

息について

息は
自らの心 と書く

全ての声は吐息に乗る

吐息は
汗や
うんこのように
少し前まで肉体の構成要素だった

呼吸、と一言で済ますけれども
吐く息と吸う息は
似て非なるもの

息とは
本当は吐息のみを表していて
吸う息は大気だ

その大気に
全ての息ものの吐息が紛れている

かくて肉体を回転扉として
陰は陽に、陽は陰に転じている

2024年6月

詩/コイン

コイン

見えているこの感じ
聞こえているこの感じ
触れているこの感じ
この感じの全てが
私だけのクオリアであることから
世界は私の反映である、
それを、世界は私であるとも言い
世界には私しかいないとも言う
その時
私が私である必要性が消失する

髪の毛の一本一本から
心臓から
思い出から
何から何まで全て与えられた

私すら、
私というこの感じすら
借り物である
その時、

私を嫌いなあなたも同

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詩/涙



争いが絶えない

人間の持つ人間性に失望している
宇宙全体が一つの神、
あるいは命だと知っているので
人間をこのように運行している神、
あるいは命にも失望している
神あるいは命が
自身の性質に失望している
そんな世界の中で
傷つけられて流れた涙の中に、ある時
報復せず
憎しみの連鎖を断たんとする、
辛抱の萌芽を見て
神あるいは命は
自身に初めて希望を持った
たとえそれが
太古の雨の最初の一滴

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詩/恩寵(おんちょう)

恩寵

時間が解決してくれる

これは本当のことです
100年たったら誰も知りませんから
よしんば あなたが
チベット仏教の徒として
輪廻転生を頑なに信じていたとしても
ダライ・ラマ14世はこうおっしゃっています

13世だった時のことは覚えていない。

相手が悪いのにあなたが負けたままでも
わかってもらえないままでも
ひどく誤解されてしまったまま別れても
あやまれなかったことがあっても
想いを伝

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詩/思いのソドム

思いのソドム

私の中の死にたい私は
私の中で死ねばいい
私とともに死ぬのではなく

私の中に一つでも
信じるに足るものがあるなら
自分を滅ぼすことはない

皮膚で体を覆ったのは私ではない
内臓を配置したのは私ではない
心臓を動かしているのは私ではない
肺でガス交換しているのは私ではない
体中に血管を張り巡らせたのは私ではない
ホルモンを分泌しているのは私ではない
目を横、鼻を縦にしたのは私ではな

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詩/とぼとぼ歩いた

とぼとぼ歩いた

左遷されて
帰り道、
とぼとぼ歩いた

リストラされて
帰り道、
とぼとぼ歩いた

降格後に嫌がらせされて
帰り道、
とぼとぼ歩いた

とぼとぼ歩いた
とぼとぼ歩いた
とぼとぼ歩いた

心底ガックリきて
起き上がれずに
何もしないでいたら

たった一つだけ
死ぬほど知りたかったことが
わかり始めた

生きていてよかった

2022年6月

詩/アポロン

アポロン

まぶしすぎると痛いので
何かがそこを通るのだと分かる

絵を描く人は光を集める
体にためて
発光する

ねえ、絵の具は光?
カンバスは月の表面のようです

月 映す瞳
一度生まれた光は死なない

私は何を集めるだろう
言葉は光?
太古、言葉のない心で
死を悼み
マンモスを畏敬した
お前は何を集めたの?

ノートを開いて
押し黙る
思いを離れ主張している、海から
無作為の方角から 届く

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詩/対立

対立

上限は神で、下限も神で
神だけが現前していた
沈黙とは常に神の沈黙だった

この意識が、神そのものだった
この世界が神だったのだ

世界は色づいておらず
白黒かどうか
明暗があるのかどうかさえ分からない
そもそも色彩の概念がない
目を持つものを通して初めて
そこに
着色されたクオリアが浮かび上がる

だからと言って、僕らは
むき出しの世界には触れられぬのだと嘆くな
この肉感こそが
僕らにと

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