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夜毎の魚、太陽が兆すまで
もう何日こうしているんだろう。だいぶ長いこと、目の前にある壁以外の景色を見ていない。壁は黄ばみが多くて、汚らしい。足に纏わり付く毛布は冷え切っていて、いくつかあるのを全部被っても暖かくならない。枕は硬くなり、黒色に変色し始めている。布団の上でもぞもぞと身体を動かすたびに、ぐしゃり、ぐしゃり、とどこからか変な音がし始めている。
閉め切ったカーテンから陽光が差し込む。鬱陶しい。昨日も晴れていたし、一昨
ぼくの醒めているところに
目を覚ますと、彼女の歌がスピーカーから流れている。ぼくはまた一晩中、彼女の歌に抱かれて眠っていたことになる。毎朝の光景。毎朝の感触。
彼女は「ユノミ」と名乗る若い女の子で、ピアノを奏でながら歌う。歌う内容は、恐らく彼女が実際に体験した恋愛の様子に集約されていて、言葉の端々からその恋愛はドラマティックなものではなく、傍目から見ても異常に淡々としたものであったことが想像された。
彼女は夜になると、一
おにぎりちゃん、あるいはクイズ・セシルの記憶
その電話が来たのは数ヶ月前のことで、電話の主は高校からの付き合いの今沢だった。
「なあ、頼むわ」
「どうした」
「クイズに興味ないか?」
「はあ?」
「おれが勤めてる老人ホームで、今、クイズ研究会っつーのをやってんのよ。でもおれたち職員が凄く忙しくて、研究会のことまで全然手が回らなくてさ。手伝ってくれ、頼む」
「まあ、断る理由はないよ」おれは言ってみた。
「サンキュー、助かるよ。とりあえず、近いう