Ohno Tamio

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怪談「夏が終わる」

「お米を、下さい。」 またこの声だ。うるさくて眠れない。 「お米を、下さい。」 芝居がかった、妙に低く、太い声で繰り返される嘆願。家の前の通りで言っているのだろうが、なぜか姿は見えない。 「お米を、下さい。」 眠れないので、耐え切れずイヤホンでラジオを聴き、耳を塞いで無理矢理眠りにつこうとする。やっと午前三時頃、眠れた。 朝がやって来て、仕事に出かけるため支度をする。今日も酷暑。どうしたって夏からは逃れられない。 家の前を通るとそこには、派手な誰かの嘔吐の跡があり、警察がざ

    • 2021/4/17、El Sonidoにて朗読した詩

      ナメダルマが捕まった夜 ナメダルマが捕まった夜 ぼくはミッシェルガンエレファントの古い歌を聞いていた 取調べ室は蜘蛛の巣だらけ 星屑と明け方を繋ぐ夜明けの鮮やかさ 不機嫌な顔をすることに対してものすごく頑張っている この星の住人たちには 光が降る時も近い その光がポジティブなものでも あるいはネガティブなものでも 光は降らなければならないものだから 必ず、降っていなければならないものだから われわれはそれを受け止めるしかない われわれはその光に身を焦がすしかない すべての

      • 2021/2/14「ゆるふわアンビエント」無事終了、によせて一筆。

        朝から眠り続けて、これじゃだめだとパソコンを点け、DTMに齧り付いたが結局何の成果も得られなかった。どうやら、昨日のイベント「ゆるふわアンビエント」でメロディーもビートも絞り尽くしてしまったようだ。何も出ない。何も考えられない。 「ゆるふわアンビエント」は、ライブではない、というコンセプトのイベントだった。しかし音楽を生で聴けるのだからそれは一種のライブとも言えたはずで、アンビエントとは何なのか。というか、そもそも音楽を奏で、他人に聴いてもらう意味とは何なのか、という、永劫

        • 2020/9/13〜9/26 日記

          9/13 日 所用で朝から外出。暑い日で熱中症になり、頭痛と震えが出た。アクエリアスとグリーンダカラといろはす、計3本飲んだ辺りで治って来た。帰り道でまた気分が悪くなり、帰宅即嘔吐。色々うまく出来ず悔しい日だった。とても落ち込んだ。 9/14 月 朝シャン。二度寝。 午前中はアコギの弦交換とDTM。 昼もDTM。 あと四ヶ月で年明けなんて悪い冗談にしか思えない。悲しいようなつらいような妙な気分だ。 9/15 火 午前中銀行で手続きしただけで疲れた。街に近寄りたくない。悪い

        怪談「夏が終わる」

          2020/9/6〜9/12 日記(放心編)

          9/6 日 今日は台風。酷い荒れ模様になると言われている。なんとも言えない。もうダラダラするしかない。 ソロで新しい曲を出すのを一旦やめると決めて気分が楽になった。俺はかなり生き急ぎ過ぎている。一旦休もう。本当に出したくなった時に出すべきだ。曲を作ることを単なる義務にしてはならない。少なくとも今週は休憩を取りたい。いくらなんでもアウトプットし過ぎている。 自分が出した曲で「Morning Tears」という曲がある。あの曲でもう、言いたいことを全部言い切れた実感はあった。しか

          2020/9/6〜9/12 日記(放心編)

          2020/8/30〜9/5 日記(怒り悪態焦燥編)

          8/30 日 朝、「ゴッドタン」見る。大して面白くない回。 昼、日記更新。 映画「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」観る。実に感動的な映画。人はこうして分かり合っていくしかないのだということ。「思い切り血を流し泣かないと優しさが見えない」という豊田道倫の歌詞を思いながら観た。っていうか、エリオット・スミスを大々的に使う映画が悪いはずは無いのだ。 夕方、怒りが湧いて来る。ミュージシャンやライブハウスを敵扱いする奴等がたくさんいる。許せない。形を持たない物を、金に換算でき

          2020/8/30〜9/5 日記(怒り悪態焦燥編)

          2020/8/23〜8/29 日記 (悪魔編)

          8/23 日 身体の中に大量の虚無感が入って、苦しいから吐き出そうとしてもがいているような状態。何見ても何聴いても不感症みたいになって全然楽しくない。自殺したミュージシャンの歌ばっかり頭の中で流れる。自殺。自殺は嫌だ。絶対したくない。痛みを伴うようなことはしたくない。これから何かまだ良いことがあるような予感もあるのに、わざわざ死ぬか?俺には何か希望があるわけじゃないが、本気で絶望しているわけでもない。中途半端と言えば中途半端である。 甘い汁だけ舐めていたいのが本音だ。インチキ

          2020/8/23〜8/29 日記 (悪魔編)

          2020/8/16〜8/22 日記(快楽とは編)

          8/16 日 朝、テンションは上がり切らないが少し気分良い。 午前中は寝て誤魔化す。色々なことを。 鬱と診断された以上はじっとして年単位で治療していくしかないのだが、何が情けないって仕事が出来ていないのが情けない。働きたい気持ちはあるのに、一切行動に移せない。仕事のことを考えると悲しくなる。 過集中気味でただ仕事するだけでも相当エネルギーを使うし、街を行き帰りするだけでも色々な声というか、想念が頭に入り込んでくる。気のせいではなく。街の音、人の営みが聞こえて見えてくるのがき

          2020/8/16〜8/22 日記(快楽とは編)

          2020/8/9〜8/15 日記(居場所とは編)

          8/9 日 朝、二度寝したら学校に行く夢を見た。夢の中で、自分は自分が行くべき教室を探していた。けれどもいつまでも辿り着かない。足が重く、動かない。動かなくなったところで目が覚めた。 この歳になっても学校に行く夢を見てうなされる。トラウマになっているのが分かる。小学校から高校まで通ったけど、他人に邪険にされたり、勉強が出来なかったりと辛いことばかりで、いつも酷く悲しかった。そしてその辛さを誰にもうまく言えなかった。今になってこうして言葉で感情を整理できるようになったが、当時は

          2020/8/9〜8/15 日記(居場所とは編)

          2020/8/1〜8/8 日記(一週間目)

          8/1 土 朝、少し鬱。しかし起き出してパンを食べ、なんとかやり過ごす。 午前中はほとんど眠った。起き上がれなかった。 昼食後、一気に深い鬱が来る。パット・メセニー「One Quiet Night」聴きながらベッドに倒れ臥して耐える。家族の前では(俺は実家暮らしだ)「また鬱が来たよォ〜!」とか言って、道化を演じておく。本気で深刻に話す気がしない。しかし本当の気持ちは暗い。口の中で変な味がして来るのが分かる。部屋のカーテンを開けるのも嫌で、閉め切っている。 先月(7月)から

          2020/8/1〜8/8 日記(一週間目)

          オイル

          「ユカリちゃん、おいで」 ばあちゃんが呼ぶ声がしたので、「なにー?」と言って、横に近付く。ばあちゃんはベランダに腰掛けていた。 「ごらんよ、トマトがまた実をつけた」 ばあちゃんはいま、数ヶ月前から育てているトマトの苗に執心している。最近になって実が生り始めたようで、しばしばわたしに苗の様子を見せてくる。 「いい感じじゃん」 「まったくね。昔はいくら植物を育てようとしても、すぐ腐らせてしまったもんよ。こんな風に歳取って来ると、いろいろ丁寧に出来るようになるのね。見なさいよ、こん

          夜毎の魚、太陽が兆すまで

          もう何日こうしているんだろう。だいぶ長いこと、目の前にある壁以外の景色を見ていない。壁は黄ばみが多くて、汚らしい。足に纏わり付く毛布は冷え切っていて、いくつかあるのを全部被っても暖かくならない。枕は硬くなり、黒色に変色し始めている。布団の上でもぞもぞと身体を動かすたびに、ぐしゃり、ぐしゃり、とどこからか変な音がし始めている。 閉め切ったカーテンから陽光が差し込む。鬱陶しい。昨日も晴れていたし、一昨日も晴れていたし、その前の日も晴れていた。ああ、調子が悪い時にばかり街が晴れてい

          夜毎の魚、太陽が兆すまで

          ぼくの醒めているところに

          目を覚ますと、彼女の歌がスピーカーから流れている。ぼくはまた一晩中、彼女の歌に抱かれて眠っていたことになる。毎朝の光景。毎朝の感触。 彼女は「ユノミ」と名乗る若い女の子で、ピアノを奏でながら歌う。歌う内容は、恐らく彼女が実際に体験した恋愛の様子に集約されていて、言葉の端々からその恋愛はドラマティックなものではなく、傍目から見ても異常に淡々としたものであったことが想像された。 彼女は夜になると、一晩中ネット越しに歌を届ける。いわゆる生配信である。彼女は動画サイトに自分のチャン

          ぼくの醒めているところに

          おにぎりちゃん、あるいはクイズ・セシルの記憶

          その電話が来たのは数ヶ月前のことで、電話の主は高校からの付き合いの今沢だった。 「なあ、頼むわ」 「どうした」 「クイズに興味ないか?」 「はあ?」 「おれが勤めてる老人ホームで、今、クイズ研究会っつーのをやってんのよ。でもおれたち職員が凄く忙しくて、研究会のことまで全然手が回らなくてさ。手伝ってくれ、頼む」 「まあ、断る理由はないよ」おれは言ってみた。 「サンキュー、助かるよ。とりあえず、近いうちにおれの勤めてる老人ホームに来れるか?」 「明後日ならいつでも行けるが」 「あ

          おにぎりちゃん、あるいはクイズ・セシルの記憶

          降臨

          「なんとかなったわけ?」真夜がおれに言う。 「ああ、なんとかなった、と思うけど」淡々さを装い、おれは返答する。 これからおれたちは愛杉市へ向かう。 「なんも問題ないのね、私たち」真夜は繰り返しそう言う。 「なにか心配事でもあんのか」 「怒らないでよ。今度こそうまくいくなんてことは、別に確定されてるわけじゃないし」 「でもやるしかねえだろ。生活のためさ」 会話は淡々と進む。車窓の景色も淡々と。 愛杉市というのは最近になり新しく出来た街で、おれたちの住む地元街の隣に出来た、県が

          笑うしかない

          ここ最近のテーマとして、とにかく地味に生きる、というのがある。感情にも生活にも他者にもドラマ性や整合性を求めず、平坦に生きようとしている。振り返ってみると自分の人生は頑固で、起伏が多過ぎた。小さなことから大きなことまで、すべてに正直に揺さぶられているのが謙虚な姿勢であると思っていた。だがそんなふうに生きていたら身が持たなくなってきた。過剰にシリアスに落ち込んだり、反動で何もかもばかばかしく間抜けに思えてしまっていたり、感情の振れ幅が不安定になってきている。昔はもっと分かりやす

          笑うしかない