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【創作大賞2024応募作】 Marshall 4 Season #17

【タイトル】
知らざあ言って聞かせやSHOW/B-BOYイズム


前回までのM4S


           *

2024年7月28日。

北緯35度10分07.35秒
東経136度54分30.18秒
──日本のど真ん中。

名古屋市栄矢場町、若宮パーク特設ステージ。
古き良きブロックパーティ型音楽フェス
『矢場スギルスキル』メイン会場である。

あの瞬間、日本ではなく
そこが世界の中心となった。

          *

「アー…アーアー…」

「KJ、なんかキンキン言ってる!」

「バカ、近づきすぎだよ。ハウリング」

「ああぁ。ゴメンゴメン。そっかそうだわ」

「…あ、はじめまーす」

──ドゥクドゥク ドゥクドゥク

挨拶代わり。
DJ Juneのスクラッチを皮切りに
場の空気が一変する。


おじさんとおじさんとおじさんの逆襲

【ヴァース1:チョビ】
市外局番052おうふぁいぶとぅ AREAからAREA
うぇるかむとぅ ゲリラやらメディア You know?
ジャパニーズセントラル ハロー My name is 
前後左右上下タテとヨコとナナメ昭和平成令和
(大脳中枢神経シナプス直通往来型 文化遺産)
過去から未来 でもって今お前のドタマにぶち込む
縦横無尽にフットワーク 肉離れと五十肩の二刀流
勝って兜とシューレス結ぶ 俺がC.H.O.B.I なにとぞ
医者のピルよりチルしてイル SHOWタイム躁タイプ
現場で再生 死んだアイツらのRhyming
「R.I.P 」なんざ気安く言うかよ(バカ野郎たわけ)
シグネチャーは生き様 This is モノホン
アディチュード込めたスキル like a コメダのシロノ
スタイルウォーズ心構え つーか人間ドックの九日前
フィジカルかつテクニカルな頭脳戦に打ち勝つ50代
言語学駆使したパワームーブ エアーサロンパス噴射
愛なんて無い時代 ネガ吸ってポジ吐く AIより龍角散
IN da STREET産だっふんだ変なよりも狂うおじさん

【ヴァース2:KJ】
灼熱の炎天下 エンドルフィン分泌過多
ガタガタ言ってたってSNSじゃ何も変わらん
事件は現場で起こしてこそライブヴァージョン
どこぞの都市伝説よりリアルなレボリューション
ワケがあんだよこのデカい態度には (I'm Pioneer)
西のリリシスト VS 東側の刺客
奴ら貫く7つのアルファベット
つまりR.E.S.P.E.C.T その原液かつ現役としてのMC
プラスBRAKE BEATS On the バトル Set
DJ June ステイツ オブ 南無阿弥陀なんまいだ(常に二枚目だ)
南より上陸 Prayers' Prayer 
北の地下深く 技磨くライマー
諸君ようこそ 最高は一つじゃないらしいな
全方位ヤバすぎる センスオブワンダー
エリアコード『矢場スギルスキル』
火蓋ごとBuddha斬って 此処に見参

【Hook】
最近の若いもんは全くアレだ
あのアレだ あっソレソレ ソレソレ
控え目に言っても最高じゃないか
俺らも入れてよ『チーム友達』
かつてはあった陰部朝立ち
今じゃ痛風生まれグルコサミン育ち
ヒザ悪そ な奴はだいたい同い年
Bluetooth は「ブルータス」じゃなかった
いい日旅立ち 裏切られてからが ブルースってもんさ
ありがとなスパチャ 伝説 って呼ぶなよ
親ガチャ パワハラ ルッキズム キッザニア
離乳食もんじゃ"諦めたらそこで"なんぼのもんじゃ
マスクのノルマもううんざりだ 君達きっと悪くない
あのカルマも言うさ「踊ろう」ってカラムーチョ
(猫ミームってなんだ Netflixの解約は難だ)
思い出と免許は更新してなんぼだ
同じ阿呆なら踊りゃな損だ 踊らさられるな 踊れ己で
(知らざあ言って聴かせやSHOW Ah ソレソレ)
あと今日 覚えて帰って欲しい
「チェケラッチョ」の親の顔とその心


           *

完璧なオープニングアクト。

このイベントが今この星で一番熱い現場だということを完全証明し、「へい一丁あがり」と、一撃で街を揺らした。

観客や出演者はもちろん、繁華街を行き交う人々の目と耳と心を完全にロックしたのだ。

生ける伝説、Buddha Brain。

時代に飲み込まれず、寧ろ飲み込み咀嚼する50代。
温故知新の更に先の先。朝飯前の前の前。

Marshallがかつて作り上げた最高のグループ。

それ以外の説明はもはや不要だった。

──やるじゃねえか、オヤジども。

エメラルド色の瞳が、陽炎と相まってより煌めく。

Marshallは、嫉妬する予定だったことも忘れ、まるで満天の星空を眺めた時のような、圧倒的神秘と遭遇したときのような、そんな心境でステージを見つめていた。

          *

「いやぁおじさん達もう夏バテ…」
「あとは若い人たちが、本日の主役です!」
「皆さん今日は楽しんで行ってくださーい!」
「Marshall、トコナー!石田さーん!お前らも雲の上から見守っていてくれよー」

会場周辺の若宮大通り、大津通り、本町通り、そして久屋大通から聞こえる拍手喝采。

スポンサーのレッドモンスターをはじめadidazやN1KE、G-SHICCと云った大手企業も鼻高々。

YouTubeでは同接15万人超のアクセス数だ。

地上波の情報番組レポーターも、サイファーを興じているラップ好きな若者や、技の確認をしているB-BOYたちを対象にインタビューをして奔走している。街が賑わう。人々が笑っている。
(※サイファー・・・円になってお互いの技を披露し合う文化。)

           *

前日の27日は、ブレイキン(ブレイクダンス)バトルとMCバトルの予選があり、本日28日が各バトルの準決勝と決勝戦を控えた大一番。

Noobは武者修行を兼ねて予選にエントリーしていた。というか、エントリーさせられた。

「つべこべ言うな!」とMarshallに恫喝され、なくなくエントリーしたのだ。

そして、
何の因果か予選と準々決勝を勝ち抜いてしまった。

本人曰く、この二日間で3キロ痩せたそうだ。

ユウキたちSunny(Sunny the Genetics)のブレイキンチームも予選通過し、本日準決勝に参戦する。

優璃と雫が、避暑ブースで梨味のガリガリ君を食べていて、MarshallはNoobの母、美代子と涼んでいる。

「気楽でいいよな」

Noobは心底そう思ってしまい、ついつい口から溢れてしまった。


Noobの対戦相手は地元名古屋をレペゼンし、今やMCバトルの世界では敵無しとも言われている最強の男。
(※レペゼン・・・その地域やコミュニティの代表)

鳳仙カルマ。

全国規模のMCバトルを次々と制し、
『パンチライン製造機』
『クールコア』
『言葉の重みおじさん』
『絶対王者』
だとか色々云われている今大会優勝候補。

会場全体が鳳仙カルマを優勝させる雰囲気である。


           *


そして万が一、彼を倒したとしても、決勝戦で戦う相手は、鎮座ドープマンもしくは、仙台から来た魔魔魔まままという謎のフィメール(女性)ラッパー。

鎮座ドープマンは、ネームバリューとバトルMCとしての実力を兼ね備えており、変幻自在のフロウ(歌い方や声の抑揚)を武器にする唯一無二の存在。

ライブパフォーマンスや楽曲面のクオリティも非常に優れていて、彼が参加する曲は軒並みキラーチューンとして注目される。
そんな関東を代表するMCである。

Noobのプレイリスト内にもいくつか鎮座ドープマンの曲が入っている。

魔魔魔という人物は、正直なところ無名の人物だが、関西や九州地方の猛者たちを完膚なきまでボコボコにし葬り去った、今大会きってのダークホース。

予選の様子では、高速フロウと堅実な押韻技法に加え、巧みなストーリーテーリング(各小節ごとに即興で物語や起承転結を構成し、最後はしっかり話にオチをつける超高度な技術)を掛け合わせたオールラウンドタイプのMCと云ったところ。

「女」ということをディスしたが最後、確実にカウンターとしてジェンダー論によって完全理論武装したアンサーを食らい、そこで返り討ちに遭う。そして終わる。

正体不明な謎の多さと、穴の無いその実力で、もしかしたら、もしかするんじゃないかとも言われている。

Noobは、一回戦目対戦相手が現れず不戦勝。
二回戦目はボディタッチをした対戦相手が反則負け。

準々決勝は対戦相手が極度の猫アレルギーだった為、発作を起こし途中棄権した。

勝ち方の全てが、神がかり的にダサすぎるのだが、ここまで勝ち進んできたその経緯から「暗殺者」とか「リアル呪術師」という不本意な異名を授かってしまった。

「もう死にたい。帰ってゆっくりしたい」
Noobは休憩所のあるテントスペースで怯えていた。

          *

会場では、カンパネるーらー、C.000.S.A、¥ellow bugz、スウィングウィリアム、S(T∪T)S、ジェイじぇい、仙人拳、キッドフノシノ、そしてDJ RYU、DJ刀頭など名古屋に所縁のあるアーティストとその楽曲に参加したことある客演達がステージ上でパフォーマンスをしている。一言で表すなら豪華。さらに付け足すなら奇跡だ。

AKX-69やequa1と云った、いわゆる大御所たちが避暑ブースを作ったり、演者やオーディエンスたちに水分を提供して回っている。

全てがこの後のバトルイベントに向かい進行していく。

そして、遂に司会進行役のMCが宣言する。

「さあいよいよです!ついにこの時がやって参りました。」

バックトラックはもちろんあの曲。

「『矢場スギルスキルVol.2』
コロナ禍の影響や物価高など
暗いニュースが続きますが、
今日はお祭り!
全国から集まった素晴らしいアーティスト、
そして名古屋の皆さん、ならびに協賛企業の皆様、
本当にありがとうございます!
いやーアツい。
そして暑い!
くれぐれも熱中症には気をつけて。
避暑ブースや、大須スケートリンク様提供の冷凍体験コーナーもご利用ください!」

「さあ、ここからがいよいよ本日のメインイベント
『矢場スギルスキル』バトル準決勝スタートです!」

まずは、ブレイキンバトル。
この後すぐに、Sunnyが、ユウキたちが闘う。

「対戦チームは…なんと海外からの刺客。
from フランス!
今開催されているパリ五輪で新種目として認定されたブレイキン。
そんな時代の流れもあやかり
現在注目度世界No.1!!
実力なら今も昔も世界最強クラス!
それでは登場していただきましょう。

ドリームチーム『ウォンテッド』の登場だァァ!」

『ウォンテッド』は、フランスの有名なブレイクダンスチームで、2003年に設立された。
彼らは世界中で数々のダンスバトルやショーケースで活躍し、特にその卓越したダンス技術や、芸術の国ならではの独創力と創造性で知られている。なかでも、チームリーダーであるB-BOY Juniorは、Red Bull ALL STARSという世界中から召集された精鋭のみで結成されたドリームチームに在籍し、小児脳性まひの後遺症で幼少期に失った右脚のハンデをモノともしない、アグレッシブかつオリジナリティ溢れるダンススタイルが最大の魅力。世界中のB-BOY,B-GIRL達からリスペクトされている。(参考文献:プラネットB-BOY)

入場曲は、Nasの『HIP HOP IS DEAD』

お前ら日本人の抱くヒップホップドリームとやらを、木っ端微塵に吹き飛ばしてやるよと言わんばかりだ。


           *

「大丈夫。俺たちは負けない」

ユウキ、美穂、ごっつん、そしてSunny the Geneticsの全メンバーがステージ裏のバックヤードで、押しつぶされそうな心を奮い立たせている。

「負けないじゃない。勝ちにいこう」

相手が誰だろうが関係ない。
それが本物のB-BOY・B-GIRLたちの性なのだろう。


           *


2024年7月28日 13:10。

いよいよはじまる。
それぞれの想いを胸に。
鼓動が、ビートとなって加速する。

DJ刀頭、ブリンク ダ ビーツ。

──ドゥクドゥク ドゥクドゥク


「さあ、間髪入れずに登場したのは地元名古屋をレペゼン!B-BOYユウキだ!」


通常、ダンスバトルもラップバトルも、相手の出方を伺ってからカウンターを仕掛けることが、勝負に勝つセオリーとされている。
つまり、このユウキのエントリーは無謀極まりない。
しかし、勝つために相手のミスや相手の都合を考慮して…という従来のやり方が、この時のユウキにとっては目障りだった。

「だって女々しいじゃん」

以前、Noobがバトルについてユウキと議論した時にそう言っていた事を思い出す。

大型モニターに映し出されたユウキの顔色は、真っ青だった。動きも硬い。肩がこわばっている。でも


笑っている。


思わずNoobは、ステージに向かい叫んだ。

「頑張れ!頑張れユウキ!頑張れSunny!いけ!」

現地以外にもサテライトモニターが併設されており、栄のオアシス21や、名古屋駅太閤通口前などの繁華街で、バトルの模様がライブ中継されている。

ユウキの、まさにその勇気に、地元名古屋の人々が熱い声援をおくる。

「行けえええ!!」

徐々に勘を取り戻し始めたユウキの身体が、美しい弧を描きはじめる。

とめどなく流れる星や川のせせらぎかの如く、音の粒子一つ一つとユウキの心技体が連動し、シンクロし始める。

繊細であればあるほどスピードはより加速し、動きのダイナミックさを生み出す。

一瞬見せる鋭い眼光や、微笑んだ時の白い歯、つま先で描くリズムの分布。

その全てが計算されているような気がしてしまう。

しかしこれは全て即興。

この領域で表現出来るようになるには、一体どれほどの血と汗を費やさなければいけないのだろうか。

しなやかでキレのあるステップから風雲急、
一気にフロアにドロップする。

「さあ、華麗なフットワークからの回転技!おっとこれは、速い速い疾い疾い!必殺のベイビーウィンドミルが炸裂だァ!」

そして曲が16小節目を迎え、パーカッションがやむ。リズムブレイクだ。

その瞬間、わずか零コンマ何秒の判断。

彼は、客席に背を向ける形で、超高速回転からその反動を利用して一気に立ち上がる。

「"Don't Sweat the techniqueテクニックを気にするな"」

DJ刀頭が、このバトルの一曲目として掛けていたエリック・B・ラキムのパンチラインが鳴るタイミング、ブレイクビーツの曲調、テンポ、その全てに寸分の狂いなくビタっと音ハメしながら、背中で語る漢の勇姿。

極め付けは、右手の小指だけをさり気なく立てるシルエットの妙だ。

「ねえユウキ、『エルヴィス』って映画観た?
アレのエルヴィス・プレスリーが
めっちゃカッコ良かったんだ。
なんかさ、FBI?に目をつけられて
それでもステージで歌ってさ。
最後に小指を"ちょんちょん"ってやるの!
アレがもう最高にカッコ良かったんだ。
良かったらユウキも観てよ!」

夏休みが始まる前にNoobが言ったことをユウキは覚えていた。



ゆびきりげんまん。
オレはオレと約束したぞ。
絶対に逃げないって。



「ちゃんと届いたよ」
Noobの中の感情が、思わず涙となって溢れ出る。

映画『Elvis』より抜粋。

会場が爆ぜ、沸き立つ。
「うぉぉぉぉ!!!」と、魂のこもった歓声と怒号が、巨大な弾丸となって青空を撃ち抜く。

「決まったァァァッ!!!」


一騎当千。これぞB-BOY。
日本の若武者が見事、黒船艦隊をぶった斬る。


          *


──ドゥクドゥク ドゥクドゥク

ここで、曲が変わる。

ダンスバトルの転調や、曲変更は目まぐるしい。

それは、ひとえにそのスピード感に由来する。

さあ次はどう出る、どう来る。

そんな攻防戦が毎秒毎秒繰り広げられるのだ。

「おっとここでルーティンだ。ウォンテッドはここでルーティンを魅せる!」

チームフランスのお家芸『ルーティン』

彼らの織りなす連携技は、芸術的かつ独創的で、世界中のチームやクルーがこぞって真似をしたがる。

とはいえ、チームメンバーそれぞれオリンピック選手やシルクドソレイユ団員並みの身体能力を兼ね備え、かつ血の滲むような鍛錬を重ね、ようやく繰り出すことの出来る芸当。真似なんて到底できない。

「なんだコレは…エッフェル塔?テレビ塔?…っていうかエーッ!高ッ!危なッ!」

MCが絶叫するのも無理はない。
何せ身長が2メートル近くあるヨーロッパ人が、2段,3段と人間やぐらを築き上げる光景なんて、日本じゃまず見ることすら出来ない。

しかもその建設に掛かった時間わずか数秒。

組み体操でもかくし芸でも無く、ダンスミュージックのスピード感で行われるのだから、いよいよワケが分からない。

サクラダファミリアもびっくりだ。

「おっとそこから…まさかまさか!いやマズイさすがにマズイって!なんとB-BOY ジュニア、倒立状態からのダイブ!!!」


5メートル以上の高さから逆立ち状態の人間が、頭から真っ逆さまに落下する。

着地は手。

脚のように太い腕っぷしと、鍛え上げられた手首や肘などが無ければ、着地と同時に腕や肩を折る。

下手をすれば頭を強打し、首の骨や頭蓋骨も致命傷を負う。
クレイジーとしか言いようがない。
「キャー!」と悲鳴すら聞こえる。

「しかもここから、ムーブを続行!B-BOYジュニアが不敵の笑みを浮かべる!」

ダイナミックエントリーから束の間、今度はジュニアがそのままソロで踊り出す。

といっても、ここまで彼は一切脚を地面に着けていない。上肢の発達した筋肉のみを軸にして下肢の全てを宙に浮かせている。

そしてぐわんぐわんと浮遊させている両脚が回転し始める。

「義足のカリスマ!っていうかもうワケわかんないよ!」思わずMCが匙を投げそうになる。

人間の持つポテンシャルと、不可能を可能にする不屈の精神。それらを最大限に発揮したムーブは、まさに世界最強の名に相応しい。

彼の織りなす、"無重力"に、現場に居合わせた全ての人間が釘付けとなった。

           *

そこからは、チームフランスの一方的な展開が続いた。

美穂とごっつんの息の合ったルーティン、Sunnyの伝統芸でもある燻し銀のフットワーク、キレのあるパワームーブとアクロバティックな高難度トリック。

全てを出し尽くしたものの、その全てを更に上の次元で返されてしまうのだ。



世界の壁は、厚く、高く、Sunnyたちの前に立ちはだかった。

勝負の世界は、本当に残酷だ。

どんなに素晴らしかったとしても、どちらか一方が必ず敗北を期してしまうのだから。



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優勝はフランスの『WANTED』
準優勝は京都の『ボディカーニバル』
3位が韓国の『Jinjo Crew』
そして、4位が『Sunny the Genetics』

                                      *


美穂は泣いていた。
ごっつんは俯いて、一点を見つめている。
ユウキは、

フロアで大の字になったまま空を眺めている。

──充分だよ。充分カッコよかったよ。

その一言が、どうしても言えなかった。
だって本気で悔しがってるから。
それに見ているこっちも悔しいから。

Noobも、雫も、優璃も、ただただ彼らのその勇姿を最後の最後まで見守ることしか出来なかった。

ひょいっと、Marshallがステージの方向に歩んでいく。

「ねえママ!あれ見て!」
観客席から子どもの声が聞こえる。

「ねえアレ」、「ハハハ!可愛い」

得体の知れない声たちが、何かについて述べ始める。
そして巨大モニターに向かって皆が指を指す。

なんと、一匹の猫がステージ上で横たわるユウキの顔をぺろぺろと舐めているではないか。

──お前たちの勇姿。素晴らしかったぞ。
Marshallが、そう代弁してくれた。

そして、再び拍手が聞こえる。

熱狂とは違うトーンで、戦士たちを包み込む優しいハーモニーとなって聞こえてくる。

いつまでも、いつまでも、歓声が鳴り止まない。


           *


「Noob、あとは頼んだ」
しばらくして、ユウキからのLINEが届いた。
添付動画も送られている。

そこには、虎太郎が必死になってギターを弾く姿が映し出されていた。

「勝ちたかった」
「勝って虎太郎さんに喜んで欲しかった」

「Noob、お前ならやれるよ」
「お前強いもん」
「だからきっと負けない」

           *

2024年7月28日 17:03。

外はまだまだ明るい。

街の喧騒と熱気。
水を吸ったアスファルトの匂い。
──それは全てを照らし出す。

きっとこの太陽は沈まない。
真っ赤に燃えて沈まない。


次回のM4S
















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