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夏目ジウ 掌編・短編小説集

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これまでnoteに掲載した小説をまとめてみました。
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#掌編小説

変態夫婦【掌編小説】(青ブラ_第3回変態王決定戦参加作品)

変態夫婦【掌編小説】(青ブラ_第3回変態王決定戦参加作品)

 ※本編2478字。

 (節分に邪気を取り払うって、何も夫婦関係にまで躍起にならなくても・・・。)夫のヒロシはそう呟くと幻の終わりの様な刹那さに襲われた。
 節分に離婚を突きつける風習は、実はその昔日本に存在していた。妻の節子は鬼の形相で夫に三行半を突きつける。
 「ハタチに結婚して20年。ずっと、アンタのことが気に入らなかってん」
 ヒロシに世の悪運の全てが降りかかったように真昼の斜光が突き刺

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さようならタイムカプセル【掌編小説】

さようならタイムカプセル【掌編小説】

※5,528字数。
 本作品はフィクションです。

 卒業の日を一週間後に控えた愛ノ川小学校には一言では例え難い雰囲気があった。過疎化が進む愛ノ川市は数年前から一気に人口減少の一途をたどっていた。
 今月3月末をもって、廃校になるのだ。母校を失くすことは限りなく悲しみが深い。
 在校生のうち6年生は5人、5年生は4人、4年生は3人、3年生は2人、2年生は1人。そして、今年度の新入生はいない。傷心に

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いやんズレてる【ショートストーリー】(青ブラ_第3回変態王決定戦参加作品)

いやんズレてる【ショートストーリー】(青ブラ_第3回変態王決定戦参加作品)

 「わたくしカブラギ商事の葛城桂子と申します」
 「はっ」
 「かつらぎ・けいこです!」
 「ボヘミア〜ン?」
 「はあ? あっ、すみません」桂子は、言われることを分かっていつつも恥じらった。
 「はあ、とは何ですか。顧客に向かってその言葉遣いは?!」
 「だって、山根社長あまりにもふざけているものですから」
 「・・・・・」山根は思わず黙りこくった。
 「私がカツラだからって少し軽く見ていません

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筋書きのないストーリー【ショートストーリー】

筋書きのないストーリー【ショートストーリー】

 「いいですか、みなさん。今日の宿題は、家族全員分の座右の銘ですからね」
 教室中の皆が一斉に無口になり、状態が引き潮と化した。教師よ、どうしてくれるこの空気。
 家族間のコミュニケーション不足が昨今の問題とはいえ、座右の銘を家族全員から聞き出すなんてあまりにも野暮過ぎないか。世知辛さを通り過ぎて、もう笑うしかない。
 帰宅した後は自室に一人こもった。誰か話しかけてくれないかな、と考えてみてもすぐ

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ひとまわり【掌編小説】

ひとまわり【掌編小説】

※本文3,605字。
※本作品はフィクションです。

 「これ、だぁれ」
 僕は小学生のころ知らないものを見ると指を差す癖があった。母はまたいつものように僕の名前を呼んではこっちに来るように手招きをする。
 「・・・シゲヤのお姉ちゃんだよ」
 「えっ!?」
 母の声はいつもの厳しさとは真反対のトーンで優しくどこか懐かしかった。
 「閲子(えつこ)って名前で、みんなからエッちゃんって呼ばれていたよ」

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追憶【ショートストーリー】

追憶【ショートストーリー】

 拳の記憶よりも、愛の追憶は遥か深い。
 ボクシング世界タイトルマッチで僅か1R59秒で惨敗を喫した松下タツヤは絶望の淵にいた。
 古びた病院の個室にはユリがずっと付き添っている。両親のいない彼はユリ無しでは生きられない。この試合に勝てばプロポーズをするつもりだったのだ。そんな絵に描いたような幸せを目前にしたまさかの出来事・・・一命は取り留めたが、医師からは引退勧告を受けざるを得なかった。
 「タ

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同じ窓辺の外【掌編小説】

同じ窓辺の外【掌編小説】

※3,109字数。
本作品はフィクションです。

―来年はもう死んでるかもしれないから。
 私は、阿佐子に初めて同窓会に参加する理由をこう答えた。来月60歳になる私は、死に至る病を抱えているわけでは無い。ただ、去年の12月に職場の同い年の女性が立て続けにコロナワクチンの後遺症で亡くなり、死ぬことが今までより身近な存在になっていた。
 コロナなんかで、絶対に死にたくないー。夜通しずっと私は睡眠

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最後の聖女【掌編小説】

最後の聖女【掌編小説】

 ※2,851字数。
  本作はフィクションです。

 愛娘の結婚は、時として父性の感情機能を激しく揺さぶることがある。特に、正博のようにシングルファーザーとして一人娘を育ててきた場合は尚更だ。長年来、娘の為に注がれたあらゆる情念は鼓動そのものが永久に奪われるかもしれない。
 【パパ、おはよう。
 さっき、賢太朗君からプロポーズされた。】
 明け方の4時に夏菜子は父へLINEをした。父はトイレの便

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オリジナルの中のオリジナルの男【掌編小説】

オリジナルの中のオリジナルの男【掌編小説】

 ※本作品2,519字数。

 勇侍(ゆうじ)は極度に女性に弱い。
 なぜか。
 赤面症で、あがり症で、緊張しいだ。 
 一見すると、好青年風なのに非常にもったいないこと他ならない。もっとグイグイ積極的に行けば、運命が変わるし、毎日が楽しくなるはず。同じバイト仲間の爽介(そうすけ)はイケメンでモテる。自分から何のアクションが無くても、女性が声を掛けてくる。勇侍は素直に羨ましいと思っている。

 勇

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夢のような恋人【掌編小説】

夢のような恋人【掌編小説】

※本編1,867字

 本作品はフィクションです。

 人は誰しも夢の中で昔の恋人と遭遇することがある。幸せな家庭を築いてフト後ろを振り返った時、子供は男の子が欲しかったのに三姉妹だった時、実の母が亡くなった時。心に空洞を作ってしまったら、昔の彼女にフト逢いたくなる。
 だが、昌也はいずれにも該当せず、昔の彼女が突然亡くなったと知ったのだった。信じ難いが、『訃報。仲山知美・45才』とインターネット

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帰郷【掌編小説】

帰郷【掌編小説】

 ※本編2,636字。

  本作品はフィクションです。

 サトルは車窓から見える大晦日の光景がうまれて初めて懐かしいものだと思った。流行禍のせいにして3年間も帰郷していなかったのだ。東京から博多の車中ではずっと同じ音楽を聴いて過ごした。『素敵な恋がしたい』博多出身でfreeというコミックバンドが3年前に発表したその楽曲は一大ブームを巻き起こした。
 あと10分もすれば博多駅に到着する。彼はこう

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エンジェルマザー【掌編小説】

エンジェルマザー【掌編小説】

※本文2,345字。
 本作品はフィクションです。

 『優しくて、天使みたいな母』という映画の再放映が深夜にあるということで、珍しく明朝まで映画鑑賞をした。恋人が急死したことがきっかけで、その母親に片思いをする18歳の青年のピュアな物語であった。結果的には失恋をするのだが、彼の純朴でストレートな気持ちが何とも言えない感情を呼び起こす名作であった。
 僕がナミよりもお母さんを好きになったのは、その

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鬼放置【掌編小説】

鬼放置【掌編小説】

※本作品はフィクションです。
 本編2401字。

 節分に邪気を取り払うって、何も夫婦関係にまで躍起にならなくて良いんじゃ・・。夫のヒロシはそうつぶやくと幻の終わりの様な刹那さに囚われた。
 実は、節分に離婚を突きつける風習は日本に存在していた。妻の節子は鬼の形相で夫に三行半を突きつける。
 「ハタチに結婚して20年。ずっと、アンタのことが気に入らなかってん」
 ヒロシに世の悪運の全てが降りかか

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