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いやんズレてる【ショートストーリー】(青ブラ_第3回変態王決定戦参加作品)

 「わたくしカブラギ商事の葛城桂子と申します」
 「はっ」
 「かつらぎ・けいこです!」
 「ボヘミア〜ン?」
 「はあ? あっ、すみません」桂子は、言われることを分かっていつつも恥じらった。
 「はあ、とは何ですか。顧客に向かってその言葉遣いは?!」
 「だって、山根社長あまりにもふざけているものですから」
 「・・・・・」山根は思わず黙りこくった。
 「私がカツラだからって少し軽く見ていませんか?」
 「あなたを軽く見ているつもりはないですが、カツラ以外にも軽く見られる要素があり過ぎる」
 「えっ」
 「何ですか、その透け透けの薄いスーツ? 見たくはないですが下着やら、ややもすると上半身の或る部位が目に入ってくるでしょう」山根はこう言うと、ホラっという風に右手を差し向けた。
 「私をイヤらしい目で見ている、ってことですか?」
 「いやいや、まだ葛城さんと出会ってまだ5分ぐらいですよ。第一印象すら定まっていないんですよ」
 「心外です!」桂子はこう言うと、親指を立てて人差し指を自らの頭に向けた。
 「何ですか?」
 「このカツラ一つで私はずっと生きてきたんです」
 桂子がこう言うと、山根は大きな腹を抱えてヒヒヒッと笑い声を上げた。
 その変な獣のような声を聞いて、彼女は山根から好奇の目で見られていると悟ったのだった。

 会社から戻った桂子は溜息を一つついて、聞こえたか聞こえないぐらいの声を発した。
 「ただいま戻りました・・・」
 「葛城、おつかれさま」
 声を掛けてきたのは部長の植田である。
 カツラ派の桂子とは一線を画す形で社内では植毛派を強く推進する男だ。
 「葛城どうした? 元気ないじゃないか?」彼はこう言って桂子を自らのデスクに呼んだ。
 「植田部長、私もうこの仕事向いてないんじゃないかと思って・・・」
 桂子は頭を部長に向けてうなだれていた。
 「元気だけが取り柄のお前が何を落ち込んでいる? あ? ボヘミア〜ン?」
 「はあー」
 桂子は、上司である植田のいつものボヘミア〜ンが聞こえないほどの大きな嘆息をついた。
 「山根社長から『カツラハラスメント』を受けました」
 「えっ?」
 「いわゆる、カツハラです」
 「そうか、山根社長からカツハラを受けてしまったか」
 「山根商事はしばらく出禁でしょうか?」
 「非常に癖のある山根社長とお前とは相性が良いと思ったのだが・・・」
 「その上、私の服装にイチャモンをつけてきました」桂子はトホホとでも言いたげだ。
 植田は思わず腕組みをした。
 「セクハラにカスハラに、あとカツハ・・・」桂子はこう言うと思わず涙ぐんだ。
 「カツハラを受けたら出禁だな」部長はとどめを刺すつもりは無かったが、その一言は桂子を深く傷つけた。
 「カツラ辞めて、植毛にするか」桂子は思わずつぶやくと目線をちょうど部長の頭付近に向けた。
 「そうするか?」部長は急に真剣な眼差しで桂子を見た。
 「でも、部長。私【いやんズレてる】って言えなくなるじゃないですか」
 「おおっ、そうだな!」部長は思わず驚嘆の声を上げた。
 「やっぱり、私はこれが落ち着きます」
 桂子はこう言って肩にへばりついた艶のあるキューティクルな黒髪を優しく降ろしたのだった。

 【了】

当作品は「第三回変態王決定戦」への参加作品です。
山根あきらさん素晴らしい企画をありがとうございます。
『青ブラ文学部』は久しぶりの参加になります💦
🙇‍♀️どうぞよろしくお願いします🙇‍♀️

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